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半生かけて好きだった推しが結婚した話


人生で初めて推しが結婚をした。


“初めて”と表現したが、私が今までファンになった芸能人は彼しかいないし、小学校6年生の時から12年間ファンを続けてきたので、この先自分が誰か別の人のファンになることが現時点では想像できない。もしかすると、初めてであると同時に、人生最後の推しの結婚かもしれない。


この日が来るのをずっと恐れてはいたものの、蓋を開けてみると想像していたような辛さは全くなかった。彼の結婚報告をネットで見た瞬間は、さすがに心臓がぎゅっとなるのを感じたが、私の人生のちょうど半分にあたる12年間も好きだったというのに、ずいぶんと拍子抜けだ。これがもし、半生をかけたリアルな片想いだったとしたら、一体どんな気持ちになっていただろうか。想像もしたくない。出会ってから1ヶ月しか一緒にいなかったが、とても好きだった人に実は彼女がいたことを知ったあの日に比べたら、全く取るに足らない気持ちである。涙も出ないし、悲しいとも思わない。心から祝福をしたい。


もしかすると、彼の結婚に実感が湧いていないのかもしれない。なにせ、彼が19歳の時から応援しているのだ。先ほどから何度も彼のSNSを見ては、あまりにもお似合いな二人の写真を眺めているが、美男美女すぎるせいか、はたまた二人が身にまとう凝った衣装のせいか、雑誌の撮影の企画にしか見えない。むしろ、結婚報道を見た友人たちが心配して次々と送ってくれるLINEの方が、これが事実だということを私に思い知らせるリアルさを伴っている。


余計なお世話かもしれないが、私は彼の幸せを心から願っている。そして、長い芸能生活の中で、たった一度だけ熱愛報道として週刊誌にスクープされた相手と結婚に至ったことが、とても彼らしいなと感じた。12年間、俳優としての彼から感じていた誠実さ、真摯さが、彼のプライベートからも垣間見えたような気がするのだ。それを嬉しく思うと同時に、彼のファンであることに誇らしささえ感じてしまう。


プライベートの彼が実際はどんな人物なのか、私に分かる術はないが、少なくとも俳優としての彼は一本筋の通ったとても誠実な人物だ。5年前、とあるドラマのイベントの質問コーナーで、人生の道半ばで亡くなった武士の役を演じていた彼に、その役柄にちなんで「人生をかけて成し遂げたいことはありますか?」と聞いた事がある。その時、間髪入れず「僕は役者として生き続けたい」と答えてくれたことを、今でも忘れない。


恋愛禁止ではなかったものの、“イケメン俳優”として売り出され、アイドルに近い活動もしてきた彼にとっては、もし恋愛の噂が出ていたら、活動のマイナスになってしまっていたかもしれない時期もあっただろう。しかし、一切浮いた話は出てこなかった。もしかしたら、事務所が揉み消していたのかもしれない、あるいは、芸能活動を始めるために上京をしてから「あまり友達が多くない」と度々インタビューで答えていた彼なので、実際に本当になにもなかったという可能性もあるが、とにかく、ファンとして、一度も彼の言動に傷ついたことも悲しい思いをしたこともなかった。

結婚に至るまでの熱愛報道が出てからもそうだ。俗に言う、“匂わせ”と言われる行為は一切なかった。ただ、12年間彼を応援してきた身であるがゆえに、彼の趣味や興味、そして知識の範囲が以前と少しずつ変わってきていることは、度々感じ取っていた。それは全く悪いことではなく、お互いの好きなものを共有し合い、世界を広げていく2人の関係性が、とても理想的で、美しいと思った。そう思わせてくれたのも、やはり彼と、彼が人生を共にしたいと思った彼女の誠実さがゆえだろう。今思えば、私は今日を迎えるまで、自分でも気づかないうちに、こうして徐々に心の準備を済ませていたのだ。推しの初めての結婚を迎えても、私が全く悲しくないのは、彼の人徳のおかげだと気づく。


12年前、小学6年生だった私は彼にすっかり心を奪われた。朝の子供番組で活躍していた彼が、小学生向けの新聞で特集を組まれているのを見た。子供番組で台本通りに動く彼には、「かっこいいお兄さん」という感情しか抱かなかったのだが、彼の素の言葉が語られている新聞のインタビューを読んだ私は、その一瞬で彼に夢中になった。なんともませた話だが、私は当初から彼の外見だけではなく、中身も好きなのだ。それから、出演しているテレビ番組は欠かさず見たし、舞台、イベント、握手会、ライブ、映画の舞台挨拶に至るまで、あらゆるものに行った。

一般的には、ドラマで活躍しているイメージが強いかもしれないが、私は彼の舞台での演技がとても好きだ。時々、役に飲まれて彼自身がいなくなってしまうのではないかと、恐怖を感じる事があるほどに、舞台での彼は役に憑依される。カーテンコールでいつもの彼の笑顔を見ると、思わず心底ほっとしてしまう。


もちろん、彼が結婚しようとなんであろうと、私はこれからも彼のファンだ。大ファンだ。新型コロナウィルスの影響で、エンターテインメント業界は大打撃を受けている。私たちも、先の見えない不安定な毎日に、どうしても鬱屈とした気持ちに飲み込まれそうな日々が続く。そんななかでも、ドラマの撮影が再開され、彼の演技がテレビで見られることは、私にとっても、私以外のファンの人たちにとっても、救いとなっているだろう。

一刻も早く、新型コロナウィルス感染拡大が収束し、彼のあの舞台での息を飲むような演技を、もう一度この目でみれる日が来ることを願っている。


本当に、ご結婚おめでとうございます!


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