【ブックレビュー】伴走者

漆黒の闇の中から音だけが聞こえる。なぜかとても静かで、聞こえるのは自分の足音と淡島の声だけだ。街の音は聞こえない。

不思議だった。浅生鴨さんの「伴走者」を読んでいるときの自分はいつもこんな風だった。主人公は伴走者である淡島なはずなのに、私がいつも憑依してしまうのは、盲目のランナー内田の方だった。

伴走者。視覚障害のある選手の目の代わりとなって周囲の状況や方向を伝えたり、ペース配分やタイム管理をしたりする存在。

元プロサッカー選手で事故で盲目となった傲慢で自分勝手な内田をサポートするのは、精密機械のようにベースをコントロールできるが、勝利には無縁の現役マラソンランナー淡島だった。

「なぁ、淡島。一度だけでいいんだけどよ。自分の目でコースを見ながら走りたいなぁ」

弱音や夢を吐き出せるようになるのは、本当に信頼した人にだけではないだろうか。あの瞬間、内田は淡島に本当に心を開いたのだろう。


「伴走者」とは、一体何なのか。


電車の中で読み終わった私は、どうしても込み上げてくる涙を身体に染み込ませるように、瞼をしっかり閉じるのだった。


私たちが普段障害者に抱いている感覚は、どうしても「可哀想」とか「どうしていいか分からない」とかそういうもどかしさではないだろうか。

しかし、障害があることをどう捉えているかは、彼ら自身の問題である。そこに無理して踏み込む必要はないのだろう。

私たちがすべきことは、健常者だろうが、障害者であろが変わらないのではないか。


「その人がどう感じるかを慮ること」


それに尽きるような気がした。

障害を題材にしていながら、重くならずに、スポーツ小説として楽しめるそういう作品でした。

#ブックレビュー #浅生鴨 #伴走者

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