かぼちゃのプリンプリンとケーキケーキケーキ
1.「ミニマリスト」
ミニマリズム(英: minimalism)は、完成度を追求するために、装飾的趣向を凝らすのではなく、むしろそれらを必要最小限まで省略する表現スタイル(様式)[wikl参照]
冬を感じたのは布団の重みと日中の瞼の重みからだった。
こんなに気持ちのいい日がたった一月しか過ごせないからこそ
秋に魅了されるのだろう。
何もかも最高な日だから掃除をするようになった。
最近携帯を無くし、3日たった時の
目から入るよう情報の量と
時間を見れない事で自分の心と身体のペースで全てを選ぶことができることに驚いた。
それからは「物を半分にする」ブームに入る。
ケータイから写真を半分消して、
アプリも半分にして、
服も半分にしだしている。
これの延長がミニマリストなのかとおもいつつ、
パンツも履けるギリギリは全て処分した。
残るは本だけであるが、本はそのままにしてある。
「そんなにいきなり掃除し出してどうしたの?」
11月で10歳になるタツキはカズおじさんのお家に2週間泊まりに来ていた。たつきの両親は常に家にいれないため、近所に住む父の弟が預かることが多く、いまや両親より一緒の時間がおおい。
「ん?頭の整理だよ。物が多いと疲れるだろ?
"ミニマリズム"だよ!ミニマリズム!」
「ふーん」
「ちょっとタッチャン来て!」
これ着れるかな」
みるみるうちに袋がいっぱいになり、そのいっぱいの袋でリビングもいっぱいになる。
「ねぇ"ミニマリスト"ってさ絶対友達いないよね」
「そーんなこと言うなよ!」
「だってさ友達と話したり、呼ぶ機会あったらさ家に物がないとつまんないじゃん!」
「たしかになぁ。でもそのつまんないより鬱陶しいんじゃないか?」
「友達が?物が?」
「物だよ!しらねーけどな」
「まぁでも、友達もある意味"モノ"なのかもね」
「おまえはほんとにひねくれてやがるよ」
「よーーし!こんなもんか!!」
さっきまでの部屋にはない清々しさが見える。
それは部屋に隠れていたたくさんの白が見つかるからだろう。
「おじさん今日のご飯なにするの?」
「んーー、そうだなぁ。ハンバーグとか?」
「それ一昨日も食べたじゃん。」
「んじゃ、チーズハンバーグだな!」
「せめてロコモコとかの変化量にしてよ。
ほぼ見た目変わってないじゃん。」
「全くうるさいやつだなぁおまえは
あ!あとケーキ屋さん行かなきゃな!」
「ケーキ屋さん?」
「そうだ!来週はたっちゃん誕生日だからな!」
「そっか。誕生日か。」
「8歳だっけか?」
「10歳だよ…」
「まあ何歳でもいいだろ!おめでとう!」
「優しいんだか失礼なんだかどっちなんだよ」
「誕生日プレゼントはさっきの俺のTシャツな!」
「なんか捨てるはずだったものをもらってもねぇ」
「でも、あれは俺が20の誕生日にアニキにもらったものだよ。
兄貴からもらった最初で最後のプレゼント。」
「そうなんだ。
なんかさ〜。モノが捨てられないのってさ
付加価値が着くからなんじゃない?」
「お!気づいたか!
急にあのヨレヨレのTシャツに"匂い"がついただろ?」
「うん。だからミニマリストはそれが"オモイ"のかもね。
一度に全部捨ててしまいたくなる気持ちわかるよ。」
「お前ほんとに10歳?」
「まだ9歳だよ。」
「リセットなんだよつまりは。
おれが何かの節目にブルーハーツをきいて
頭をリセットする感じで、
みんなサウナやら呑みやらスポーツでいっぱいになった頭をスッキリさせたいんだよ。」
「なるほどね。」
「おっ!ついたついた。」
日が暮れる頃にはケーキ屋さんのショーケースの中にはかなり少なくなっていた。
「好きなもの選んでいいぞ!ホール以外は!」
「じゃあかぼちゃにする。」
「ニッチだなぁ。よし!
すみません!かぼちゃのケーキ三つください。
あ、いや、ケーキ三つとこっちのプリンも二つ!」
ありがとうございました〜
「おじさんなんでそんなに買ったの?」
「ん?説明しよう!
まずは今日のお手伝いの分と誕生日と俺ので三つ、あとは語感だな。」
「語感?」
「ケーキケーキケーキときたらプリンプリンだろ。」
「訳わかんない。」
ミニマムな発想ではきっとそこには辿りつかない。
感覚をミニマムにしてはいけないのだろう。
きっと来月には元に戻っているおじさんの部屋は今の様子では落ち着かない。
きっと白が多すぎるからである。
2.淑女の社交場
ブラックリムメダカは市場では1万円するほどの高級メダカである。
メダカに高級という形容詞がつくことに驚きを隠せないのだが、
見た目は体色がオレンジで色鮮やかで、黒い模様がハッキリとでる。
そしてなんと言ってもその青みがかったヒレがとても綺麗である。
メダカ屋さんではないのだが、家の水槽に佇むこの高級メダカを見ながら夜酒をすることが至高の時である。
神津島は伊豆諸島の有人島の一つで東京にいたしているが、フェリーを使って3時間ほど離れたところにある。
12月から仕事を辞めて転職活動をしている佐々木守は先月行った祭りで売っていた10000円もするメダカをなぜだか買い、その日のうちに金魚鉢も買った。
メダカは1日2日餌をやらなくても死なないときくが、それでも金魚鉢にユラユラと揺れる札のように広げているヒレが儚くみえて毎日少しあげている。
神津島に流れ着いたのに理由はなかった。
この話と同じように。
神津島には大きな祠や神社がたくさんある。
文字通りの神がいるとされた島である。
1月25日にこの島では神様が降りてくるとされる。
正確には海を渡り、島に入るというのだが
25日に行われるため
"25日様"と呼ばれている。
1月25日には島民は当日早朝から儀式の準備のため、仕事はもちろん、外出も控える。
この神事は海からの神迎えの儀式であると考えられ、古くは似た行事が伊豆諸島の他島でも行われたりもした。
神様は諸説あるが、猿田彦大神だといわれている。
猿田彦大神は天狗のモデルとされていて、赤い顔でタッパがあり鼻が長いことから、容姿にコンプレックスがあったとされている。いつの時代も気にしているのは自分だけで、ギャル的マインドを持てればよかったのだが、
猿田彦大神は顔を見られるのをとても嫌い、島民を1人たりとも家から出さないようにしたのだと言う。
史実からなったこの伝説は誰が言い出したのかわからないが、気になるならぜひきてみてほしい。
まあ、そんな話も知っているわけもない佐々木守は仕事もしていないので、いつも通り部屋にこも
り、キンキンに冷えた酎ハイをあけ飲み進めていた。
金魚鉢に入ったメダカは優雅にも無知にもみえる。
酒がすすみ、冷蔵庫を探すがもうすっからかんになっていた。
「ちっ!」
舌打ちしてすぐに財布を探す。
服装も身なりも汚いまま。暗い道がいつもにも増して暗く見えたが、構わずコンビニの方へ向かった。
なにか変であると気づいたのはいつもこの時間でもやってる居酒屋の「浅草」のあかりがついていないからである。
明かりどころか人気一つしないこの町を改めて振り返り酔いが覚めていく。
「しゃーーーん。しゃーーーん。」
遠くから聞こえるお囃子のような音。
音のなる方に近づいていくとお囃子だけでなく、暖かい光を発している場所があるのをみた。
「しゃーーーん。しゃーーーん。」
近づいてから気づいたがこちらに向かってきていることがわかり、他人のうちの生垣に隠れた。
「しゃーーーん。しゃーーーーん。」
次第に大きくなり、すぐそばにいるのがわかる。
何も知らない守は悪いことをしていないのになぜか心拍数が上がるのを感じていた。
そして今"ソレ"はすぐ横通っている。
身長はゆうに2メートルはあるだろうその男は大きな提灯を肩からさげ、袴田にゲタを履いて歩きいていた。
守はホラー映画のワンシーンのように自然と口を手で隠して息を殺すようにしていた。
その男は少し行った後に立ち止まり、少し振り返る仕草をした。
だが、すぐにまた歩み始めた。
守は腰から崩れ落ちるように尻餅をつき、深呼吸をした。
そこから20分ほど呼吸を整え自宅へとかえる。
「なんなんだあれわ」
すっかり覚めてしまってからしばらくお酒を飲んでも酔っ払うことができない。
深くソファに腰掛け、金魚鉢をみる。
少し様子が変だった。
最初は逃げるように端にいたメダカが暴れるように金魚鉢から出ようとしてるではないか。
そんなことさえ普遍的に思うほど衝撃が強かった。
そして、2分経つと買った高級メダカは腐ったキャベツのような色に変わり、死んだ。
死んだメダカをそのまま放置して朝を迎えた。
あんだけ美しかったブルーの尾ひれが白っちゃけ、浮き上がっている。
亡骸は神の祠の近くに埋め、翌年にはサルスベリの葉っぱが勢いよく生えてきていた。
それから25日の月命日にその祠へ花を添えるようになった。
風に流れてきたのだろうか。その木は三年で私の身長を悠に超えていった。
いじょ