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[12月第1週] DAOレポート Vol.46 | Bankless DAOのArbitrum3億円予算提案 何が問題だった?

Bankless DAOが、イーサリアムのレイヤー2であるArbitrumから教育コンテンツなどキャンペーン費用として約200万ドル(約3億円)をの予算を提案したことが、物議を醸している。BanklessといえばDavid Hoffman氏とRyan Sean氏によるポッドキャストが有名で、筆者も毎週のように聞いている。クリプト中級者〜上級者向けの内容で2人による毎週のニュースダイジェストは充実してお理、旬な人物へのロングインタビューは確かに価値がある。しかし、今回のArbitrumへの予算申請は高額で費用対効果に対する疑問符がつくと多くの批判が出ている。こうした批判には理解できる面がある一方、マーケティングやコミュニケーションの分野で「何が正解か」を合意することはDAOの課題とも言える。

この騒動を受けて、Hoffman氏は、BanklessBankless DAOが異なるエンティティでありブランドであることを強調。今回の提案はあくまでBankless DAOによるものであり、事前に提案が出ることを知らなかったと述べた。同氏は、今後上記の二つは異なるものだという説明を尽くすことを約束し、Bankless DAOのトークンBANKをバーンすると宣言した。

Bankless DAOも、BanklessとBankless DAOの違いを明確にする必要性に言及し、提案を書き直すことを示唆している。

さて、Bankless DAOによるArbitrumへのオリジナルの提案の概要は以下の通りだ。

  • 12ヶ月で182万ARBトークン(約3億円)

  • 世界中でArbitrumの普及と教育活動を実施

  • 具体的には認知拡大とエンゲージメントの増加

  • 新規ユーザーの獲得

  • ターゲットはDeFiユーザー、ゲーマー、開発者

  • ソーシャルメディア、ニュースレター、イベント、アカデミーなどを展開

  • 複数の言語に翻訳する

Bankless DAOにArbitrum DAOへの予算申請内訳(オリジナルの提案)

費用対効果の問題

ArbitrumのDAOのトレジャリー額は37億ドルであり、DAOの中で一番の資金を持っている。今回の予算申請額は200万ドルで全体的には微々たる額かもしれないが、「Arbitrum DAOのトレジャリーから資金を吸い取ろうとする試みだ」との批判の声が出ている。

例えば、イベント一回あたりのコストは3000ドル(約42万円)。まずオンラインのイベントなのか(Twitter Spaceなど)かオフラインのイベントなのか分からないという点があるが、オンラインのイベントとすれば、よほどのインフルエンサーでない限り高額といえるだろう。ちなみに、ある時Bankless DAOがOptimismでTwitter Spaceをやったときに集まった人の数は100人。これに対して42万円は高いという声は理解できる。

また、ポッドキャスト1回あたり、約80万円が計上されている。これが高いか低いかは、当然、どのポッドキャストを使うかによるだろう。本家のポッドキャストで1時間ほどArbitrumについて説明してもらうというのであれば、少し高めだが理解できなくもない。ただ、他のところであれば、よほどの有名ポッドキャストでない限り高額だろう。

もっと大事なのはDAO疲弊の問題

上記では費用対効果の面について疑問符がつくことを述べた。ただ、より大きな問題は「何が正解か」DAOとして答えがあるわけではない点だ。マーケティングや広報にはアートの要素があり「答え」は人それぞれだ。そして「答え」がないまま議論しても不毛だろう。

DAOのガバナンスの参加率をあげることはどのDAOも課題に上げてるし、さまざまな問題について多様な人が議論に参加することは奨励される。しかし、今回の場合のように、メディアやマーケティングに詳しくない人が議論に参加することで生まれる弊害もある。みんなが肌感覚で言いたいことを言い出せば、議論はまとまらないだろう。Arbitrum DAOとして、各国ごとにメディアの相場(価格表)を持っているわけでもない。

翻ってみると、一つのメディアがDAOトレジャリーからの直接の予算獲得という枠組み自体が問題なのかもしれない。先述のように、ポッドキャストの一つの項目だけとってみても、「どのポッドキャストにいくら払うのが妥当なのか」を決めるのは難しい。それは、アートの品定めをみんなでするようなものだ。他にもDAOとして議論しなければいけないことがある中、影響力があるといっても、あくまで一つのメディアの予算の使い道を決めるために多くのリソースを使うことは問題ではないだろうか。

さらに、仮にBankless DAOの予算案(修正案だとしても)が通ったら、他のメディアも追随することが予想できる。世界中のメディアがこぞってArbitrumのトレジャリーから直接予算を取ってこよう提案を書いたら、DAOメンバーのみんなはちゃんと全部読むのだろうか?DAOのリソースへの負担は倍増することが予想される。そして、DAOが疲弊していくことは容易に想像できる。

DAOの疲弊問題は、Bankless DAOやArbitrumだけの問題ではなく、多くのDAOが多かれ少なかれ直面しているように思える。そのプロジェクトにとって優先事項は何なのか?今時間とお金を使うべきは何か?みんなが同じ認識を持っていないとダメだろう。いわゆる「DAOのKPI」を決める必要がある。多くの人に議論に参加してもらいたいのだが、専門性の高い部分は専門家集団に任せるといった棲み分けも重要だろう。その線はどこに引くのか?広義で はdYdXも含めて、Grant(助成金)プログラムをどのように遂行していくかの問題にもつながる。こちらについては改めて課題意識について記事を書きたいと思う。

著者:大木 悠 (Hisashi Oki)/dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月より現職。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、12月4日時点でDAOトレジャリーの総額は228億ドルと前週比で1.33%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が200億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が38億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は940万人で、アクティブDAOユーザーは290万人だった。









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