[5月第1週] DAOレポート Vol.17
イントロ
「十分な分散化 (Sufficient Decentralization)」はどうやって達成するのか?多くのDAOは、未だに立ち上げ期である。立ち上げ期であるにも関わらず、少しでも分散化の精神に反するような行為に対して、DAOの参加者や外野は容赦しない。最近、分散化への「理想」と「現実」がぶつかり炎上するDAOを多く見かける。何が分散化できて何が(現時点で)分散化できないのか?コミュニティ内でしっかりと合意形成を図る必要があるだろう。そんな時、上記の問いに立ち返ることが重要だ。
「十分な分散化」とは 2018年に当時SECのディレクターだったウィリアム・ヒンマン氏が提唱したアイデアだ。ヒンマン氏は以下のように述べた。
続けてヒンマン氏は、イーサリアムが十分に分散化していることからイーサは証券ではないと結論づけた。
「十分な分散化」とは具体的にはどのような状態だろうか?
以前にも紹介したが、著名VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が提唱する「段階的な分散化(Progressive Decetralization)」は有名なレポートだ。これに加えて、オンチェーンとオフチェーンにおける分散化を明確に分けて、オフチェーンの分散化の重要性を強調したのが元dYdXトレーディング社の最高法務責任者であるマーク・ボイロン氏だ。
ボイロン氏は、ブロックチェーンをはじめとするweb3技術を使ってどうやって分散化(オンチェーンの分散化)するかという質問を受けることが多いが同じくらい重要なのがオフチェーンの分散化、つまりブロックチェーンが関与しない活動周りの分散化だと主張する。主には、事業開発、コミュニケーション、マーケティング、知的財産の管理、ガバナンスなどが入る。
これらのオフチェーン活動が、一部の個人や組織によるものではなく、「まとまりのない複数の人々による努力 ("the uncoordinated efforts of a broad range of people")」であれば、十分な分散化は達成(またはHowey testに不合格)したと言える。
オフチェーンの分散化はいつも効率性とのトレードオフだ。例えば、各国で対応できるマーケティング代理業者1社と契約すれば効率的だ。対話する相手はいつもこの1社でありブランドメッセージも一貫性を持つことができる。対照的にもし分散型の精神に乗っとり誰でもマーケティングに参加できるようにしてしまったら、マーケターは能力もバラバラ、ブランドメッセージもバラバラ、全員の合意を取り付けるのが困難な状況になる。
今年、分散型に幻滅させられるニュースの代表としてUniswapにおけるVC
の存在の大きさが示されたニュースとArbitrum FoundationがDAOの合意を経ずにTreasury資金を使ったニュースが上げられるだろう。それぞれ課題が多いのは確かだが、問題は「だから分散化はダメだ」や「DAOは機能しない」といった結論に飛びついてしまことである気がする。DAOに対するフラストレーションの源泉は、現時点では分散化できていない部分があってもしょうがないことに対する理解が進んでいないことだろう。むしろ優秀なDAOは現時点における分散化の未達を意図的に行なっている可能性がある。
分散化とは方向性であって到達地点ではない。ボイロン氏によると、どれか一つの個別具体的な活動が分散化の観点で問題になるのではなく、全ての活動を総合的に見て分散化が達成されているかどうかを見ることが大事だ
真ん中の点線部分が十分な分散化のラインだとして、それぞれの活動(Event)は分散化を推進もしくは後退させている。一つの活動が分散化を後退させても別のもう一つの活動で推進すれば良く、総合的にみて十分な分散化のラインを超えていればいいのだ。
DAOとは継続的な進化の過程の話でありゴールではない。(「ゴールした」というDAOがあるのであれば是非教えてほしい)。長期戦を覚悟して分散化の総合力を増やしていくことが重要になるだろう。
今週のプロポーザル
Uniswap デリゲートレースを立ち上げ フィードバックを求める Launch of Uniswap Agora & Delegate Race
デリゲートレース(Delegate Race)とは、新しいデリゲートと既存のデリゲートが新たなプロフィールの立ち上げに集中し、トークン保有者がレビューと再配分に集中できるよう毎年に特定の期間を設けて設定される予定。一度につき4週間開催される。
今回は、Uniswapの新たなガバナンスプラットフォームUniswap Agoraへの移行を促す。
新たなデリゲート(委任)ように最大800万UNIが割り当てられているという。
✅ 投票開始: 未定
⏰ 投票終了: 未定
⚡ 投票の種類: 未定
💬 議論:https://gov.uniswap.org/t/launch-of-uniswap-agora-delegate-race/21133
✍ 提案者:honn24x
AAVE、独自ステーブルコインGHOの進行役募集でコメント求める[ARFC] GHO Facilitator Onboarding Process and Application
AAVE DAOは、独自ステーブルコインGHOの進行役(Facilitator)を募集している。
募集プロセスは、Aave Governance Forumへの投稿、7日間のコミュニティからの質疑応答、Snapshotを使って投票(オフチェーン投票)、さらに7日間のコミュニティからの質疑応答、オンチェーン投票となっている。
応募者は、GHOの機能設計、プロモーション企画などを提出することが求められている。
✅ 投票開始: 5月4日
⏰ 投票終了: 5月9日
⚡ 投票の種類: Snapshot
💬 議論:https://governance.aave.com/t/arfc-gho-facilitator-onboarding-process-and-application/12929
✍ 提案者:oneski22
Messari Arbitrum Foundationの透明性を担保するための基準に関する議論を開始 Request for Discussion: Arbitrum Foundation Transparency Standards
具体的には以下の開示を提案している。
Foundation内部委員会の構成と構造。これには従業員数、役割、責任などが含まれる可能性がある。
透明性と公平性を確保し、違反者の責任を問う利益相反を防止するための施策
Foundationの使命、ビジョン、戦略的優先事項、およびその達成状況。
カテゴリー別に分類された費用(インフラ費用、イベント、コミュニティビルディングなど)。ここでの目的は、リソースが戦略的目標を達成するためにどのように割り当てられているかをコミュニティに理解させること。非営利団体やNGOは、同様の開示を提供することが多い。
目的、予算、タイムライン、ステータスを含む、Foundationが支援するプロジェクト、イニシアチブ、およびグラントの概要。
バランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書など財務の年次開示。
✅ 投票開始: 未定
⏰ 投票終了: 未定
⚡ 投票の種類: 未定
💬 議論:https://forum.arbitrum.foundation/t/request-for-discussion-arbitrum-foundation-transparency-standards/14272
✍ 提案者: tnorm
話題のTweet
自然は分散化とは何かすでに分かっている。
データ振り返り
DeepDAOによると、5月5日時点でDAOトレジャリーの総額は233億ドル。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が200億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が33億ドルだった。 アクティブDAOユーザー数は、690万人。ガバナンストークン保有者数は、210万人だった。
オススメの読み物
DAOと段階的な分散化におけるCFOの役割 DAOs and Progressive Decentralization of the CFO by Evan Fisher
DAOが生み出す収益は100億ドルと言われるが、DAOのトレジャリー資金を効率よく使うための解を出したDAOはまだ存在しない。マーケティング、ロビー活動、提携、プロダクト開発、配当、買収など、何にいくら使えばよいか定かではない。これはいわばDAOにおけるCFOの役割になるだろう。現状、資金の使い道について①注目を集めて提案する②プロが担当する③成果を測る、という項目がある中で③の実現が困難な状況だ。
DAOの報酬提供は投票による事前承認から事後承認に切り替えるべきIt's Time to Shift Your DAO From Proposal Voting to Retroactive Funding by Hackernoon
DAOの貢献者に対する報酬は、一般的にはDAOによる事前承認で決まる。DAOに対して何で貢献できるか提案し予算を獲得する流れだ。しかし、この事前承認は後々の問題になることが多い。何を持ってして成功と捉えるか不透明であること、蓋を開けてみたら全然効果がないケースがあること、プロジェクトを継続的に追跡して評価することが大変であることなどが理由としてある。このブログは、全て事後承認制に切り替えれるべきであることを提唱。つまり、まずDAOに貢献してもらい事後で報酬を決めた方が良いという意見だ。
十分な分散化とは?Sufficient Decentralization: A Playbook for web3 Builders and Lawyer by Marc Boiron dYdX Trading
ブロックチェーン技術を使ったオンチェーンの分散化と同じくらい重要なのがオフチェーンの分散化だと指摘している。ビジネス開発、コミュニケーション、マーケティング、知的財産の管理、ガバナンスなどがこれに含まれる。これらの活動が「まとまりのない複数の人々による努力」となり、個人や組織によるものではなければ、分散化が達成されたと言える。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?