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[10月第2週] DAOレポート Vol.40 | StrideとATOMの合併話は一時停止 Cosmosを選ぶかHubを選ぶか?の区別を認識すべき理由

Cosmos向けにリキッドステーキングサービスStrideのSTRDトークンとCosmos HubのATOMトークンを合併するという話は、一旦取りやめになった。「単なるアイデア」としてStrideのコアチームがCosmos Hubのフォーラムに投稿したスレッドは160件以上のリプライを獲得し、Cosmos Hub史上で最も盛り上がったスレッドになったが、ほとんどがネガティブな反応だった。枝葉末節にこだわる議論ではなく、長期的な視点に立った議論が置き去りにされてはいなかっただろうか。

今月初め、イスタンブールで開催されたComoverseで突如としてStrideのコアチームから提案された合併話。根回しをちゃんとせずいきなりCosmoverseで発表したこと(バーで仲間同士で盛り上がったアイデアをノリで提案した説もあったが、のちにStrideが否定)、バリュエーションが不透明なこと、ATOMのインフレにつながる可能性があること、STRD価格のアップサイドを諦めることにつながること、など、一見至極真っ当な反論がフォーラムで多くみられた。トークン保有者の気持ちは分かる。たしかにStrideコアチームに話の進め方で拙速な面はあったかもしれない。しかし、筆者は、Cosmos HubとCosmosエコシステム全体を考えた議論にもう少し焦点が当たっても良かったとみている。

提案内容を簡単に振り返ろう。

提案は、全てのSTRDをATOMに変換することだ。つまりSTRDを保有している人はATOMを保有することができる。Strideはリキッドステーキングのアップチェーンとして存続し、StrideのコアチームはStrideの開発を継続する。一方、Strideの収益は全てCosmos Hubに行く。ATOM保有者がStrideのガバナンスを実施する。

先述した通り、確かにSTRDの価値をどう算出するかはまず一つの関門だろう。「なぜ価格の伸び余地が比較的に小さい(と思われる)ATOMに交換しなければならないのか?」「ATOMの発行量を増やしてSTRDを買うと、ATOMの価値が下がるのではないか?」、「そもそもどうやってバリュエーションを計算するのか?」など言いたい気持ちは良く分かる。しかし、それはM&A専門家や法律家に任せた方がよく、知識量の多様なステークホルダーがいるフォーラムのスレッドでやるべき話ではないと考える(あなたは、筆者から合併に関するアドバイスや数字を聞きたいですか?)。専門家を雇ってバリュエーションを計算してもらい、別スレッドで説明してもらった方が良いのではないだろうか。まずはビッグピクチャーの話をするべきだろう。ここでは、今回の話がCosmosエコシステム全体にとってプラスなのか、であると考える。

ビッグピクチャーの話: CosmosかHubか?

ビッグピクチャーについて考えると、今回のスレッドで注目すべき発言は、KamとRoboMcGobo(Strideの貢献者でありdYdXグラントチームのメンバーでもある)だろう。

Strideは、Cosmosチェーンのリキッドステーキングソリューションとして中立な立場として認識されている。仮にHubに買収された場合、Cosmos Hub特化という立場になってStrideのマーケットを逆に小さくすることにならないだろうか。他のチェーンに、より中立なプロバイダーを選ぶか自分たちでリキッドステーキングソリューションを開発する動機ができてしまうのではないだろうか」

Kam, Cosmos Hubのフォーラムでの発言

Strideは独立したリキッドステーキングチェーンとして信頼できる中立者としての立場を失うだろう。そして、さらなるコンシューマーチェーンを獲得し独自のプロダクトを作ることで他の独立系のアップチェーンと競争関係にあるチェーン(つまりHubのこと)に本質的に身を委ねることになる。とりわけdYdXやCelestiaは、stATOMよりリキッドステーキングトークン(LST)のTVL(預かり資産の価値)が大きくなる可能性があり、Cosmosの政治的ないざこざから距離を置きたいと表明してきた」

RoboMcGobo, Cosmos Hubのフォーラムでの発言

まず、Cosmos HubとCosmoエコシステム全体の話を区別している点は注目すべきだ。Cosmos Hubと合併することで、今後誕生する予定の独立系のアップチェーン(dYdXやCelestia)と競争関係にならないか?という点だ。dYdXやCelestiaといったアップチェーンがCosmosの今後を引っ張っていくとなると、わざわざCosmos Hubと合併して「中立的なポジションを失う」判断はリスクを伴う。少なくとも、アップチェーンが成功するかどうかをみてからでも遅くはないだろう。

しかし、もう一つ面白い議論がある。Cosmos HubはやはりCosmosエコシステムの「中心」であり、強いCosmos Hubこそ強いCosmosエコシステムにつながるという見方だ。Strideは、合併の一時停止を発表する際、今回の提案の意図について改めて説明した。

「簡単に言うと、STRD供給量をATOMに変換することでCosmos HubがCosmosエコシステムの中心という立場が強固なものになり、それはCosmosエコシステム全体にとっても大きなカタリストとなるだろう」

Stride, Cosmos Hubのフォーラム

Strideのコアチームは、Cosmos HubがCosmosエコシステムの「港町(Port City)」として重要視される世界観を支持し、セキュリティ提供者(ICS)としてCosmosエコシステムを支えることを重視している。問題は、現状、Cosmos Hubが上記を達成できておらず、存在感が薄れてきてしまっていることだ。そこでStrideのリキッドステーキングが、ある意味救世主として入り、上記の2つの達成も支えるというのが今回の提案の狙いだった。

Strideは、合併について一時停止と発表したが、将来的に検討の余地が残っていることを仄めかしている。その頃にはdYdXをはじめとしたアップチェーンの成果もある程度は観測できているかもしれない。まだ歴史の浅いリキッドステーキング自体も今後どうなるかわからないのはもちろんだが。

話題のTweet

先週米国ではSBF裁判に関して、かつてのパートナーのキャロリンからさまざまな暴露や証言が出たことが話題になりました。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、10月16日時点でDAOトレジャリーの総額は158億ドルと前週比で7.6%減少した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が136億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が22億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は740万人で、アクティブDAOユーザーは280万人だった。


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