(感想)『キャッチャー・イン・ザ・ライ』J.D.サリンジャー 村上春樹訳(白水社)


描かれる感情が細やかでした。若い時の言い知れぬ不安というか、何かしたい、けどこれじゃない、何かが出来る気がする、これからどうなる?
楽しい、楽しくない……ころころと変わる気分。すごくわかる気がしました。
私自身思い出したのは、お正月に田舎に帰ってだらだらと過ごした時間です。ただ時間が過ぎていくと、何かしなくていいんだろうかと焦りのような、心が苦しいように感じることがありました。今でもたまにあります。


主人公の僕は、優しいと思いました。それは好きな人にも嫌いな人にも、平等に接していると感じたからです。嫌いだからって否定することはしない。そのままその人として受け入れて、一緒に遊びに行くこともある。そういうところ、私にはない気がします。


他に主人公の僕について印象に残っているのは、物事の表だけじゃなくて、裏の部分まで見通せてしまう感覚の鋭さです。
舞台に立つ人の、舞台を降りた後のことを想像出来たり、ピアノを弾いている人の内面まで、その姿から読み取ったりしていました。ピアノの人が有名な自分に酔っているのも、見たらわかってしまうんですね。どうやったら初心のままで居続けられるのかな。
誰かの意見じゃなく、自分で物事をみて判断している僕にあこがれます。


作品の文体が、僕が読み手に話しかけてくれるように書かれているので、すっと言葉が心に入り込んできました。
今の私自身のちょっとした悩みも、僕が一緒に共有してくれているようで、なんだか気分も晴れたように感じました。僕の苦しみも合わせて二人で分け合ったら、一人で全部持ってるより、量は同じでも楽かもしれない。やっぱり一人じゃ生きられないのねと実感しました。
僕には本当に物語の才能があると思いました。



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