ロバート・A・ハインライン『夏への扉[新版]』感想

ロバート・A・ハインライン『夏への扉[新版]』(福島正実訳 ハヤカワ文庫SF)を読んだ感想です。

あらすじを文庫裏から引用します。

ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか──新版でおくる、永遠の名作。

ロバート・A・ハインライン『夏への扉[新版]』


この小説は題名は聞いたことがあったのですが、どんなお話なのか知らずに読みました。読む前は、表紙に書かれた猫と、猫が夏につながる扉を探しているというあらすじから、可愛らしくてすこし不思議な話を想像していました。
その予想は覆され、主人公のダンが婚約していた女性に裏切られて発明品と会社を失い、猫のピートとも離れ離れになったり、はらはらする展開でした。途中、夏への扉の話はなかなか出てこないので、どこにつながるんだろう?と思ったのですが、最後にはすっきりとつながってすごいと思いました。
前半ではダンは踏んだり蹴ったりなのですが、それが後半でひっくり返るので気持ちいいです。

印象に残ったこと

  • 30年の変化

主人公のダンは、冷凍睡眠(コールドスリープ)で1970年から2000年の世界にとびます。物語の中ではその30年の間に言葉の意味だったり考え方、タブーが変わっていたり、服装や技術もかなり変わっていました。
小説を読む前の私の感覚としては、100年200年ではなく、30年でそんなに変化するという意識はありませんでした。もし人間が60年生きたとしたら自分の生きている間に2度訪れるくらいの変化で、経験できてしまうことだからです。ですがこの本を読んで現実にあてはめて想像してみると、確かに30年でずいぶん変わるだろうと思えました。今から30年前なら今のようにみんながスマホを持てるとは想像できなかったと思います。歴史や戦争もそうですし、新しい制度もあります。なるほど、と思いました。ですが30年がそれだけ大きなずれだってことは、忘れがちだろうなとも思いました。例えば自分が年を取って、自分の子どもに話をすることがあったとしても、私のころ常識だったことが常識じゃなくなってることなんて山ほどあると思います。忘れないようにしたいです。

  • 夏への扉

この話では、1970年と未来の2000年が描かれるのですが、「過去を変えることで見たことない新たな未来に変えよう」じゃなくて、「2000年に見た未来になるように、過去を合わせている」というのが、読み手としてすでに知っている未来に集約していく感じで気持ちよかったです。
先に2000年を見て、なぜそうなっているのだろうと不思議に思うことがあり、それがその後の主人公ダンの過去の行動によってつじつまが合っていき、なるほど、そうだったのか、と分かっていきました。
「夏への扉」がどういうものか分かったとき、そういうことか!と思うのですが、主人公ダンにとっての「夏への扉」はどこかに存在するかもと期待したり、運がよければめぐり合ったりするものではなく、自分で見つけに行くものなんだなと思いました。

物語の雰囲気

  • 軽めの緊迫感(暗い→明るいへ)

初めはすべてを奪われて、元婚約者ベルとの対決による緊迫感があり、その後は時間に追われたり、発明などの秘密の共有によるドキドキがありました。
読みやすかったです。


最後に
今まであまりSFは読んだことがなかったのですが、読んでみて面白いなと思ったので、他にも読んでみたいです。

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