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【インタビュー】『逃げきれた夢』二ノ宮隆太郎

主演は光石研。少しずつ記憶が薄れていく中年男性を演じた

光石研主演の“お父さんの物語”

俳優としても活躍する二ノ宮隆太郎監督の新作は、光石研がおよそ12年ぶりに単独主演を果たした『逃げきれた夢』だ。先日開催された第76回カンヌ国際映画祭の「ACID(インディペンデント映画普及協会)部門」に正式出品、約600本の応募作の中から“先鋭的な9作品のうちの1本”に選ばれた。上映後の取材で二ノ宮監督はこうコメントを残したのだとか。

「何人かの若い女性の方から、お父さんの物語であり、自分の物語でもあるという感想をいただいた。年齢も国も違うけれど、そういう方に伝わったのがうれしく、興味深くもありました」(讀賣新聞オンライン/2023年5月25日)

お父さんの物語――そう、本作は、光石研が扮した定時制高校の教頭、まもなく定年を迎える(妻子持ちの)末永周平という中年男の日々と、人生のターニングポイントに光を投じてゆく。まず着想から企画成立までの経緯を訊いてみた。

敬愛する光石主演の映画を実現させた二ノ宮監督

帰郷に同行して当て書きした脚本

「前作『お嬢ちゃん』(19)を2018年の8月に撮影したあと、敬愛していた光石さんが主演で、光石さんの出身地の福岡県北九州市を舞台にした映画をつくろうと考えました。その後、2018年の11月末、光石さんがお仕事で郷里へと帰省された折に同行させていただき、北九州市の黒崎の町を一緒に歩かせていただきました。そうして当て書きした脚本を興していったんです」

光石の生まれ育った北九州市黒崎の町での思い出や、二ノ宮監督の(定時制高校の教師だった)父親のエピソードなども注入したその脚本は、2019年、ちょうど募集のあったフィルメックスの新人監督賞に送り、グランプリに輝き、企画が本格的に始動、コロナ禍をくぐり抜けて、これが商業映画デビュー作となった。

「光石さんに演じていただいた周平という人物は、記憶が薄れていく症状に見舞われていて、家族や友人と築いてきたこれまでの人間関係を見つめ直そうとするのですが、それを映画としてどう表現するかということを考えました」

同級生、石田役の松重豊との共演シーンも、短いながら滋味深い

光石の実父が父親役で出演

実際の出来事とフィクションを織り交ぜるいつもの手法は脚本づくりだけでなく、光石研の実父を「周平の父親役」で出演させる大胆さにも顕著だ。また長回しもトレードマークなのだが、本作においては珍しくカットを割ってみせたりも。撮影は『枝葉のこと』(18)、『お嬢ちゃん』とタッグを組んできた名手、かの『ドライブ・マイ・カー』(21/濱口竜介監督)でも知られる四宮秀俊である。

「前作までは手持ちカメラでワンシーンワンカットの撮影を行っていたのですが、今回は主人公と、主人公が携わる人物の表情を切り取って表現する映画にしたいとカメラマンの四宮さんにお伝えしました。そして自分の思いを汲み取っていただき、そのように切り取ってくださいました。光石さんのお父様は劇中では黙っているのですが、実際はとてもお話が面白く、お洒落でカッコいい方です。光石さんに『ご負担になりますが、もし可能であれば』とお話しさせていただきました。そしてお父様は快く出演を引き受けてくださいました。光石さんと光石さんのお父様とご一緒できたことは本当に嬉しく、感慨深いです」

関係の冷え切った妻役を坂井真紀、娘役を工藤遥が演じる

『逃げきれた夢』
6月9日公開
配給:キノフィルムズ
(c)2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

取材・文:轟夕起夫
※本インタビューはDVD&動画配信でーた2023年6月号連載「三つ数えろ」内「監督の近況」を加筆したものです。