アスタラビスタ 5話 part4
「あ! 紅羽ちゃん! 遊びに来たんだ!」
リビングへと足を踏み入れて声をかけてきたのは清水だった。その清水の声に、別な部屋から圭が「嘘!? 紅羽来てるの!?」と声を上げて出てきた。Tシャツに短パンという圭の格好を見ると、どうやら昼寝をしようとしていたらしい。
「お邪魔しています」
亜里に手を握られたまま挨拶をした時、ソファーに見たことのない人影があることに気が付いた。いや、清水に声をかけられた時から、ソファーに私の知らない誰かがいるのは分かっていた。
「クレハ……?」
私の名前を聞いて疑問に思ったのか、ソファーに座る人物が私へと顔を向けた。そこにいたのは、茶色い髪のいかにも流行には敏感そうな男が座っていた。
「おう! 晃!」
後ろから聞こえてきた雅臣の声に驚いて振り返ると、雅臣は笑顔でソファーに座る男に右手を挙げていた。
嘘だと思った。雅臣の性格上、こういうチャラついた男とは、私と同じで反りが合わないと思っていた。しかし、雅臣は親しげに接している。まさか友達だろうか?
「雅臣さん! お久しぶりです!」
ソファーに座っていた男は、雅臣の姿を見ると、立ち上がって軽く頭を下げた。どうやらソファーに座っていた彼の方が年下らしい。
「最近ずっと会ってなかったな。なんで会議に来なかったんだよ。身体提供者も来ていいんだぞ?」
彼と雅臣は、握りこぶしをガツンとぶつけ合うと、ソファーに座り、楽しそうに会話し始めた。
「雅臣さんには会いたかったですけど、俺あの会議嫌いなんですもん。だって、メンツが最悪じゃないですか」
話の内容を聞いただけだから分からない。だが、雅臣が参加していると思われる会議を「メンツが最悪」と包み隠さず言う辺り、こいつは礼儀を知らない男だ。しかし、雅臣は「確かに。『混ぜるなキケン』ってラベルの貼ってある奴らが集まってるからな」と同意した。参加している本人も認めるというのは、よほどの会議なのだろう。
「雅臣さん、もしかしてその子って……」
頭の中でぐるぐる考えていると、彼が私に声をかけてきた。
「あぁ、こいつは紅羽。前に言ってた、薙刀ができる奴だよ」
雅臣に簡単に紹介され、私は彼に軽く頭を下げた。すると、彼も笑みを浮かべて頭を下げてきた。
「俺は亜理の正規身体提供者の晃です。よろしく。あなたのことは、噂でよく聞いています」
噂とは、彼らのいう憑依者たちによって、されているものなのだろうか? 自分の知らない人たちが、自分のことを話しているというのは恐ろしい。
「晃、お前年いくつだっけ?」
思い出そうとしているのか、雅臣は眉間に皺を寄せ、頭を掻きながら晃に尋ねた。
「今21です」
「じゃ、紅羽の1個上か」
その言葉に、驚いたのは晃ではなく、私の隣にいた亜理だった。
「え!? 紅羽ちゃんって、私より年上?」
青ざめた様子の亜理は、おそらく私にタメ口を利いていたことを心配したのだろう。それとも、私の外見が年齢よりも幼くて、ドン引きしたのだろうか。
「ごめんなさい、私てっきり同い年だと……」
大きな瞳が、落ち込んで暗くなっていく様を見ていて、私は慌ててそれを止めようと言葉を発した。
「べ、別にそういうの気にしないから大丈夫だよ! 全然!」
彼女を元気づけようとする自分の話し方が年上ぶっていて、馴れ馴れしくて、げんなりした。
「本当!? 嬉しい! よろしくね!」
亜里は喜びを身体で表すかのように飛び跳ねた。二つに結った髪を、触覚のように揺らしながら、勢いよく抱きついてきた。
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