2023年6月13日

昨日の日記では「何もしないをするぞ」と息巻いていたのに結局いろいろしてしまった。

鴨川のほとりに行った。私はつねづね鴨川のほとりはこの世で最も天国に近い場所だと断言していて今日もやはり天国に近い場所だった。

鴨川は天国でありながら生活の場で、”居る”ための場所であり道であり境界でありそして当然ながら川である。そういう場所で私が読むべき本はやはり私がこういう時間にちびちびと読んでいる柿内正午『プルーストを読む生活』(H.A.B)だろう。

水音が直接聞こえる場所で読んでいたら次第にうとうととしてきたので少し寝てみようかと思ったが財布と虫が気になったので寝られなかった。

あと、そのとき聴いていたBialystocksがなんだかものすごくよかった。このバンドのボーカル・甫木元空は映画も撮るらしく、キーボードの菊池剛と演奏し結成のきっかけになったのは青山真治のプロデュースの映画でらしい。おお、と思った。

アルバム『Quicksand』に収録されている「差し色」がほんとうに良く、ここ数日のメンタル不調や鴨川の素晴らしさも相まって泣きそうになったが泣かなかった。

Apple Musicはアルバムを通して聴き終わると自動で別のアーティストの曲がかかる仕様になっていて、『Quicksand』の後には折坂悠太の『平成』の1曲目「坂道」が流れたがこちらも素晴らしく、折坂悠太は気になっていた人でもあるので次に聴くのは折坂悠太だと狙いをつけた。

メンタル不調について言及したので少し書いておく。昨日メンタル不調と身体的不調と疲労によってへろへろになりながら帰り道のコンビニで買い物をしていたらカステラサンドが目についた。私と母は中高のときカステラサンドにはまっていて学校帰りにしょっちゅう食べていたし、後から帰ってくるであろう弟には秘密にするように母と分け合ったり、弟にも食べさせようと3等分することもあった。夕方に帰ってくる父に残しておくことはなかったが、休みの日には父にも食べさせた。このカステラサンドはパンにカステラが挟まれ、カステラの下には謎クリーム上には苺ジャムがそれぞれ少しだけ塗られていて素晴らしい塩梅だった。一瞬にしてこの記憶と味と、この記憶を忘れていたという事実が浮かび上がってきてメンタル不調の心により大きなダメージを与えた。しかしこのコンビニで見かけたカステラサンドはパンにカステラが挟まれその上下にクリームが少し厚めに塗られているのみで苺ジャムはなかったのでこれには大いに不満だった。小説か何かならば、それでも懐かしさによって手に取られ購入されて食べられるが主人公はあまりの違いに味には感動せず失われた過去に思いを馳せてさめざめと泣くのだろうが、私はジャムのないカステラサンドを食べる気などさらさらなかったので失われた過去に必要以上に思いを馳せるのみに留め手には取らなかった。

話を今日に戻す。思い立って叡山電車に乗り込んで恵文社一乗寺店に向かった。毎度のことだがものすごく長い時間うんうんと悩んで文芸と思想と詩歌と平置きとリトルプレスと新刊をうろうろうろうろして結局は宇都宮敦『ピクニック』(現代短歌社)を買った。この歌集は黄色くて大きくて佇まいが素晴らしく、目に入ると楽しくなる本を買って家に置いておくのは体と心に良いはずなので買った。雑誌『仕事文脈』も買おうかと思ったが巻末に「この本を見つけやすいお店」として誠光社が書いてあったのでこの後寄って買えば良いと考え買わなかった。

出町柳まで戻って京阪電車に乗り込み神宮丸太町駅で初めて降りてみて誠光社に行った。思ったより狭い店内をじっくりじっくりと見てまわりこちらでも悩みに悩んだ結果ZINEやリトルプレスの棚にあった寺田耀児『TORA TORA TORA TORA』(東南西北kiken)を買った。この漫画もやはり造本とタッチが素晴らしくて買った。作者の本業は漫画家ではなくミュージシャンで、折坂悠太(合奏)メンバーとしてフジロックに出たりしたらしく、こんな偶然もあるものかと驚きつつ折坂悠太を聴く機運は高まった。恵文社一乗寺店でスルーした『仕事文脈』はこちらにはなくてかなり残念だった。

家に帰ってからはアニメ『スキップとローファー』を素晴らしい素晴らしいと呟きながら観続けた。これは陰キャも陽キャも全員が田舎出身の素直な主人公を中心にきらきらユートピア学園生活を送れるよ、というような単純な物語ではない。素直だが未熟な自分も大変な成長をしつつ主人公が、いろんな属性と過去と自意識を持つ人々を「解放」し成長させる物語。しかもそのいろんな属性と過去と自意識は結構リアルで残酷で、「解放」されても解決することはないし見違えたようにキャラ変するわけでもない。志摩くんと仲良くしている主人公の岩倉さんを妬んでいた江頭さんは一番根が深かったようだが、それもやはり岩倉さんらと打ち解けた。とはいえ彼女の闇の深さは彼女の努力する力と裏表で結びついていて、その多面性と重層性が物語とキャラクターに厚みを与えていて好ましかった。しかし最も闇が深いのは優しく明るかった志摩くんで、彼の闇は彼の過去とその影響をもろに受けた幼馴染への罪悪感だった。

ペース的におそらく二期があるだろう。それを楽しみにして、寝る。


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