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尾骶骨を折った事はあるか(エッセイ 過去作品と同内容)

尾骶骨を折った事があるだろうか。尾骶骨は、お尻の付け根にある骨で、場所が場所なので、手の骨や足の骨と違い、滅多に折れない。そこに衝撃が加わる事があまりないからだ。
 しかし、筆者は折った事がある。とんでもなく間抜けな理由で。
 中学時代の塾の帰り道、筆者はいつも立ち漕ぎで帰っていた。立ち漕ぎとはその名の通り、自転車を立って漕ぐ事である。こうする事で、漕ぐ力が増し、結果的に早く帰れるのだ。
 いつものように立ち漕ぎをしていると、突然後輪が浮いた。そして、サドルがちょうど尾骶骨に勢いよく当たった。後輪に石か何かが当たり、跳ねてしまったのだろう。そしてそれが、サドルをちょうどお尻の付け根にヒットさせたのだ。
 勢いが凄まじかったせいで、しばらく尻に痛みを感じていた。が、その時はそのうち治ると思っていた。しかし、尻の痛みは引かない。病院に行くと、尾骶骨にはしっかりとヒビが入っていた。
 とはいえ、歩行や走行など、日常生活で行う動作にはなんの影響もなかった。医師も、筆者を入院させる事なく、湿布のみで対応した。また、部活も普通にしていいと言われた。
 こうなると、学校で尾骶骨骨折をカミングアウトする機会がない。そもそも、尻の付け根の骨を折りました、なんて格好が悪い。第一、サドル如きで怪我をしたなんていうのは、とても恥ずかしい。
 そんな気持ちにより、筆者は骨折の事実を隠した。この判断が、大変な事態へと発覚した。
 給食当番の日、自分が割烹着に着替えていると、クラスで一番のお調子者O軍にカンチョーをされてしまったのだ。割烹着を着ている時、人は無力であるため、O君は悪戯を結構したのだろう。
 しかし、この時のカンチョーは失敗していた。指は、尻の穴ではなく、尻の骨を突き刺していたからだ。そう、指はまっすぐ、尾骶骨を貫いた。
 天に突き上がるような痛みの後、大事をとり、給食当番を休んだ。変わってくれたO君は、テキパキと働いていた。
 しかし、これをきっかけに尾骶骨骨折が皆にバレてしまった。物凄く恥ずかしい事になった。あだ名は当然、サドルになった。
 しかし、正直に尾骶骨の事実を言っておけば、ここまでの事態にはならなかったかもしれない。そんな事は、当時から分かっていた。
 けれども、当時の自分には、尾骶骨の骨折を自らいうのは無理だ。言ったところで、サドルになるのが少し早いだけだろう。
 この思い出は、自分の中でも置き場所がない思い出だ。どなたか、思い出の置き場所を知っている方は、教えてください。

注 上記画像は、自分の尾骶骨ではありません。

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