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お酒が飲めるようになりたい?

私は父の影響を多大に受けた人間なのだが、これだけは影響を受けたくなかったと思うことの一つに「お酒」がある。

実は、私はお酒がほぼ飲めない。
別に体質的に飲めないわけじゃない。
チューハイ(アルコール3%)なら飲める。めったに飲まないけど。

精神的に飲めないのだ。

毎晩毎晩、浴びるように吞みまくり、夜中に近所迷惑顧みず騒ぎまくり、物を壊しまくり、夜中にタクシーで帰って来てはピンポンを連打して眠っている家族を叩き起こす。
そんな過去を思い出すたびに、お酒が憎くなる。

ドアをあけて「おかえりなさい」と言うのが私の役目だったのだが、深夜1時や2時という時間だとさすがに眠い。
眠っているのを起こされ、父を出迎えたあと、また眠りにつくものの次の日の学校がつらい。
でも、家の鍵をはずしてドアを開けない限り、父のチャイム連打は止まらない。
父がドアを無理やり何度も引っ張る、あのガタガタという音を思い出すだけで今もストレスがたまる。
子供のとき、酒は悪魔の水だと思った。

一度、母に「お願いだからお父さんに家の鍵を渡して、自分で家に入ってくるようにお願いして」と頼んだことがある。

「お父さんは、凜ちゃんに出迎えてもらうのが好きなのよ。『おかえりなさい』って言ってあげて」

いや、「おかえりなさい」は言ってもいいけど、できれば12時を越したら勘弁してほしい。眠いんですよ。

ちなみに、私の「おかえりなさい」が確かに父は嬉しいようだった。
必ずビシッと敬礼して「ただいま、帰還しましたーーーーー」って叫ぶんだよね。

馬鹿ですね。

さて、そんな父をみて育った私。
20歳を過ぎてもお酒が飲めなかった。大学時代はもちろん、社会人になっても一滴も飲めなかった。
飲み会に行ってもソフトドリンクしか飲まない。
みんなが楽しそうに飲むのをみて、私も飲んでみようかなと考えたことも何度かあったが、その度に父の姿が頭をよぎって気持ちが悪くなる。
体内にアルコールを入れるのが怖くてたまらないのだ。

気の毒なのが元彼たち。
何度か「飲もうよ」と誘われたけれど、そのたびに「お酒は嫌い」と断った。
ありがたかったのが、そんな私を誰も否定しなかったこと。
五年、付き合った彼氏が「一度でいいから凛とお酒が飲んでみたい」と話していたのが忘れられない。
ごめんね。
二人で楽しく飲めたら、それはいい思い出になったかもしれない。
そして、その思い出は私のお酒に対する意識を変えてくれたかもしれない。
飲みのないお付き合いをしてくれた彼らに、今はただただ感謝している。

先日、ヨーグルと食事に行った。
ヨーグルは食べることが好きな人で、よく素敵なお店に連れて行ってくれるのだが一つ困ったことがある。

料理が始まる前に、最初に必ずお酒をお願いするようになっているのだ。食前酒ぐらいなら飲めるけど、私は料理のときの飲み物はお茶か水と決めている。

厄介なのが彼も私に合わせてくるところ。
元彼たちもそうなんだけれど、私が飲まないと彼らも絶対に飲まないのだ。

「どうぞ、私にかまわないで、あなたは飲んでね」と言うのだが「凛子が飲まないなら、僕もいいよ」と彼もソフトドリンクにしてしまう。
それがとても申し訳ない。

料理はすごく美味しかった。
味はもちろん、見た目も華やかで目で楽しめるし、焼きたてのぱちぱちという音といい、肉や魚の舌ざわりといい、香りといい、料理って五感で楽しむものなんだなと改めて思う。

私は、料理をスマホで撮るのが恥ずかしくてなかなかできないのだが、今回だけは残しておきたくて料理がくるたびに「撮っていい?」とヨーグルに確認してしまった。
「いいよ」と、どこか笑いを堪えるような彼の顔が妙にかっこいい。
こういう表情なんていうんだろう。上手い言葉が見つからないのだが、とにかくあの表情から醸し出される優しさが好き。

魚料理と肉料理を食べているとき、ふと、これはきっとワインが合うんだろうなと思った。
お酒が飲めない私でも、それはなんとなくわかる。

だからすごく申し訳なくなった。

ちゃんとお酒が楽しめる女性。彼にはそんな人とご飯を食べてもらったほうがいいかもしれないなと考える自分に驚いた。自分がお酒を飲めるようになろうと考えないあたり、父から受けた影響ってどれだけ深いんだろう。