演劇台本「恋する怪獣たち」

昔書いた台本。供養のためにここに残しておきます。

恋する怪獣たち


登場人物


友人男
ヒロイン
怪しい男
主人公
父親
先生
友人女
犯人




※基本的に舞台上では蝉の鳴き声が聞こえています


暗転中。蝉の鳴き声が聞こえる。明転すると、女が立っている(もしくは女は声のみ)。兄が登場。


兄「や」

女「あ…先輩」

兄「手紙、読んだよ。何かな…?伝えたいことって」

女「あの…ね?えっと…」

兄「うん」

女「は、初めて会ったときから、先輩のこと、かっこいいなって思ってて」

兄「そっか。ありがと」

女「この間の球技大会も、こっそり先輩のこと、見てました。すごい活躍してて…その…」

兄「うん」

女「好きです!付き合ってください!」


蝉の鳴き声が止まる。


兄「………え?」

女「その、ご迷惑なのは承知してます!でも」

兄「近づくな!」

女「…」

兄「好きだって!?俺のことを!?冗談じゃない!」

女「分かってます!でも気持ちだけは聞いてほしくて……!?」


女、うずくまる。ドクン。と大きな音。


兄「ひ!?」

女「あ、あああああ!」


体が裂けていく音。女の体が痙攣する。


兄「ふざけんな!ふざけんな!なんで好きになられなきゃいけないんだ!ちくしょう!ひぃぃぃぃぃぃ!」


兄、逃げていく。女、呻き声が野太くなっていく。ナレーションと共に暗転していく。


主人公ナレ「それは世界中で。ある日突然起きたらしい。原因は誰にも分からない。この世界はある時から急に、変化をしたんだ」


完全に暗転。女の声はいつの間にか巨大な怪獣のものに変わっている。


ナレ「恋をした人間は、怪獣になる。ある時から、ここはそういう世界だ」


暗転、怪獣の鳴き声が響き渡る。


セミの鳴き声。


友人女「ねえ知ってる?怪獣の噂」


明転。学校の教室。主人公たち4人が雑談している。他にはだれもいない。蝉の鳴き声がやけに大きく聞こえる。


主人公「また噂かよ。お前それしかねーの?」

友人女「今度こそ信憑性あるやつ!」

友人男「前も同じ事言ってなかった?」

ヒロイン「この前は、二足歩行のカバ人間?あれはどうだったんだっけ?」

友人女「…口の大きいおじさんだった」

主人公「今回はどんなおじさんなんだよ」

友人女「今回はおじさんじゃない!…ねえ、最近、怪獣のニュース、増えてると思わない?」

友人男「あー、言われてみれば少し?それが?」

友人女「おかしいと思わない?もう人間結構少なくなってるのにさ、ポンポン怪獣になるの」

ヒロイン「そう?素敵じゃない。世界がこんなでも皆恋してるのよ」

主人公「お前よくそんな事言えるな。恋なんて馬鹿のすることだぜ」

ヒロイン「あーあ、その歳で達観しちゃって、馬鹿みたい」

主人公「なんだとこら」

友人女「あーもー、そーゆー恋とかの話じゃないの!」

友人男「恋じゃなく怪獣になってるってこと?」

友人女「そ!ここだけの話だけどね…なんと、人を怪獣にして回ってるやつがいるんだって!」

主人公「は?」

友人女「そいつは何かの手段を使って世界中で人間を怪獣に変えてるの。だから最近怪獣の報道多いんだって」

ヒロイン「なんで?」

友人女「さあ?」

友人男「どうやって?」

友人女「さあ?」

主人公「情報ゼロかよ」

友人女「でもさ、ワクワクするじゃん!人々を怪獣に変える悪の組織!」

友人男「組織なの?」

友人女「さあ?」

主人公「情報ゼロかよって」

ヒロイン「でもいいなあ。…そーゆー組織がいるならさ、そいつら憎めばいいんだもん」

友人女「あ…ご、ごめん」

ヒロイン「んーん」

主人公「……あ、そ、そういえばさ!こないださ…」


キャイキャイ話す4人(本当に何か話してください。この四人しか子供はいないので、他の友達の話は禁止)。先生が入ってくる。


先生「お前ら席に着けー授業はじめるぞ。出席は…いいな、全員いる」

ヒロイン「先生やる気ないねー」

主人公「出席とれよ」

先生「はい今日は歴史の授業です」

友人男「無視されるな」

先生「えー今日は、怪獣について話します」

友人女「はーいせんせ。もう知ってまーす」

先生「カリキュラムなんだよ。知ってるなら聞き流していいから。どうせもうテストもないしな」

主人公「テスト無くなったのマジ最高だよな」

先生「…良いことではないんだけどな。まぁいい、始めるぞ。まずはざらっと概要を話す。怪獣は今から16年前に世界中で突然発生した。世に言う[大発生]だな。当時の人達はこれに全く対応ができなかった。怪獣なんてのはそれまで、フィクションの中にしか存在しなかったからだ」

主人公「ゴジラとか?」

先生「お、よく知ってるな。あいつ放射能吐くんだぞ。現実に現れた怪獣たちも、ゴジラ程じゃないが能力を持ってた。炎を吹いたり雷を落としたりな。まあそんなのが無くても何十メートルもある化物が大量に暴れるんだ。人類の被害は甚大だった。この大発生で、人類は総数の2割、およそ14億人を減らすことになった」

友人女「そんな減ってたんだ」

先生「大変だったぞー。で、その後も時間も場所も関係なく現れる怪獣に人類はジリジリ追い詰められた。何とか怪獣になる条件までは突き止めたが…そこまで。何で恋したら怪獣になるかまでは分からんし、人類は恋することを止めろとは言えんわな」

ヒロイン「そういうものなの?恋って」

先生「なんかそうらしいぞ。恋はいつでもハリケーンなんだそうだ。漫画で読んだ」

友人男「漫画って」

先生「しょうがないだろ。今生きてる人間に、恋という感情を知ってるやつはほぼいないんだ。ま、そんなわけで人類は絶賛衰退中、怪獣が出る度に軍が出動するものの、被害はで続け滅亡を待つばかり。っていうのが怪獣まわりのざっくりした歴史だな。今日はここを掘り下げていくぞー。まずは…」


あたりにサイレンが鳴り響く。怪獣警報である。全員窓の方を向く(舞台前)。怪獣の姿はない。どうやら近くではないようだ


先生「最近本当に多いな…怪獣警報だ。授業は中止。シェルターに避難する。いくぞ」


先生、急ぎ足でハケる。


友人女「先生、ビビりすぎじゃない?」

ヒロイン「しょうがないよ。怪獣の怖さ、知ってる世代だもん」

友人女「まーあたしら、怪獣なんてあんま見たことないもんねぇ」

先生「お前ら何してる!早く来い!」

四人「はーい」


主人公以外ハケる。物凄く遠くから怪獣の鳴き声が聞こえる。主人公にスポット


主人公「怪獣は俺たちが生まれた年に現れた。だから、俺たちより年下の人類は、ほぼ生まれていない。俺たちが物心つく頃には大人たちにはなんとなく、諦めのような空気が漂ってた。それが嫌で仕方なくて、俺たちは四人で明るく楽しくしてる。恋したらどうするんだ。そう思うこともある。……俺たちはうまくやってる。これからもやってけるはずだ」


怪獣の鳴き声が響く。先程より近い。


主人公「なあ、お前は誰に恋したんだ?俺たちは大丈夫だよな?」


主人公ハケ。入れ違いにヒロイン、友人男、友人女が歩いてくる。場転。下校中。


友人男「なんか今日、あいつ様子おかしかったよな」

友人女「そう?」

ヒロイン「ちょっとおかしかったよね、怪獣出てから」

友人男「最近多いからなー。少しナーバスになってんのかもな」

ヒロイン「かもね」

友人女「やっぱ怪獣増えてるよね!謎の組織が暗躍してるのかも!」

友人男「うん今そんな話してないよね?」

友人女「だってー暇なんだよーあいつはきっとお腹すいてただけだよ。ね?皆で探しに行こ?怪獣化の犯人。あいつも誘って」

友人男「お前ちょっとは友達の心配しろよ」

友人女「皆で騒げば元気でるって、ね?」

ヒロイン「あ、ごめん、私そろそろ帰らないと」

友人女「う、そか…おじさん、調子悪いの?」

ヒロイン「うん。最近特にかな」

友人女「そか…」


友人女、ヒロインを抱き締める


ヒロイン「わ、わ、なに?」

友人女「元気をわけております。ぎゅー!」

ヒロイン「ちょっとなに?もう…」


抱きしめ解除


友人女「うん!よし!元気になった?」

ヒロイン「うん、少しなったかも。ありがと」

友人女「どういたしまして」

ヒロイン「それじゃ、またね」


ヒロインハケる


友人男「友達思いだよね」

友人女「なによ、悪い?」

友人男「いや、数少ない美徳だと思うよ」

友人女「少ない!?言ったな!罰として怪獣化の犯人探し手伝いなさいよ!」

友人男「嫌だよ!」

怪しい男「あの」


怪しい男が立っている。少し異様な雰囲気。蝉の声が一瞬止まる。


友人男「え…?」

怪しい男「今、怪獣って言ったかい?」

友人女「え…っと…言ってましたけど…?」

怪しい男「そ、そうか、言ってたんだ。良かった。誰がなるのかな?」

友人女「え?」

怪しい男「僕ね、怪獣にね、用があるんだよ。誰がなるのかな?君かい?」


怪しい男、友人女の肩を掴む。意外なほど強い力に、友人女、尻餅をつく。


友人女「ちょっと、痛、離して…ください!痛い!」

友人男「あ、ちょっ…離せ…離せよ!」


友人男、怪しい男の腕を掴むが離れない。少しもみ合った後に突き飛ばす。


友人男「離れろよ!怪獣になんかなるわけないだろ!俺たちはならない!どっか行け!」

怪しい男「怪獣に、怪獣に用があるんだ」

犯人「おい!何してるんだ!」


犯人がやってくる。手には携帯電話。


犯人「その子達から離れろ!警察に電話したからな!すぐに来るぞ!」


怪しい男、何事かを呟きながら去る。


友人男「大丈夫?」


友人男、友人女に手をさしのべる。友人女、手を握りながら立ち上がる。


友人女「う、うん。ありがと」

犯人「怪我とかは無さそうだね。良かった良かった」

友人男「あ、ありがとうございます!」

犯人「いやいや。それより気を付けなよ?最近変なやつ多いからね。…いやそれにしても、カッコ良かったねえ」

友人男「は?」

犯人「好きな子を助けてあげたんだろ?男の子だ」

友人男「へ?いやいやいや!そんなんじゃないです!」

犯人「あはは、冗談冗談。お似合いだとは思うけどね。怪獣になっちゃうもんね。それじゃ、気をつけて。二人仲良くね」


犯人、去る。友人女、手をじっと見ている。


友人男「変わった人だな…おい、どうした?」

友人女「え?あ、うん、なんでもない。ありがとね」

友人男「いや、まあ一応女の子だしね。怪我したらことでしょ」

友人女「へー、女の子って見てくれてるんだ」

友人男「一応ね。今日家まで送るよ。さっきの人いたら怖いし」

友人女「う、うーうん!だいじょうぶ!ありがとう!平気だよ!」

友人男「でも」

友人女「すぐ近くだし、大丈夫!じゃあね」

友人男「…まあそう言うなら。でも気を付けなよ」 


友人男、去る。

舞台奥に父親登場。センター奥に背を向けて座り、兄の写真を見ている。

友人女、手を振る。その手をゆっくりと下ろし胸へと当て、何事かを思う。


友人女「ねえ!やっぱり送ってってよ!」


友人女ハケ。

場転。ヒロイン宅。ヒロインが帰ってくる。


ヒロイン「ただいま」


父親、気づいていない。


ヒロイン「お父さん!ただいま!」

父親「お、おう、おかえり…学校いってたのか?」

ヒロイン「そうだよ。言ったよ?行ってくるって」

父親「そうか…」

ヒロイン「…一日中見てたの?兄さんの写真」

父親「いや…。なあ、男とは話してないだろうな?」

ヒロイン「話してないよ」

父親「本当か?本当だろうな?」

ヒロイン「もう何?娘を信じられないの?」

父親「いや。そういうわけじゃ…すまない」

ヒロイン「うーうん。いいよ」


気まずい沈黙が流れる。ヒロイン、耐えかねて話し出す。


ヒロイン「あー、えとね。あ、そうそう、今日変な噂聞いたの。最近怪獣多いじゃない?それは恋してるんじゃなくて、なんか、悪の組織?が色んな人を怪獣に変えてるからだー。だって。そんなわけないのにね。あはは………ごめん、何言ってんだろね」


父親、立ち上がってヒロインを見ている。


ヒロイン「お父さん?」


父親、ヒロインの両肩をつかむ


お父さん「本当か?」

ヒロイン「ちょ、お父さん、痛い」

お父さん「本当か?本当にそんなやつらがいるのか?」

ヒロイン「お父さん痛い!」


父親、はっとしてヒロインを放す


父親「すまん、ごめん。ごめんな。…だけど、お前が心配なんだよ。兄さんは、怪獣になった子に殺されてしまったろ?」

ヒロイン「お父さん、兄さんは行方不明」

父親「そんな気休めはいらない!なあ、俺は心配なんだ。お前まで兄さんみたいになったらと思うと、俺は…」

ヒロイン「私は大丈夫だから。安心して?…ごめんね、変な話して。部屋いくね」


ヒロインハケ。


父親「怪獣に…そうか、そんなやつがいるのか」


兄の写真を見る。暗転。

明転。教室。主人公、ヒロイン、友人女、友人男がいる。友人女、いつもより友人男から距離をとっている。


主人公「あー。あっつい」

ヒロイン「あっついねえ。夏だもんね」

主人公「このままじゃ人類絶滅する前に暑さで溶け死ぬよなー」

友人男「その死に方は嫌だねえ」

主人公「誰かさー、なんか話せよ。気が紛れること。あ、そうだ。あれどうなったんだよ?怪獣の話」

友人女「……」

主人公「おい」

友人女「へ?私?」

主人公「そりゃそうだろ、お前が話してたんだろー?こないだ探しにいったりしたのかよ、怪獣化の犯人」

友人女「え?あ…探しに行ったというか見つけたというかなんというか」

主人公「なんか歯切れ悪いな」

友人男「大丈夫?」

友人女「へ!?いや、うん!平気!」

友人男「こないだのこと?」

ヒロイン「何?こないだって」

友人男「こいつ、なんか変なおっさんに絡まれてさ」

友人女「いやまあ、それはあったけどそれ自体は別になんともないというかなんというか、その…」

友人男「じゃあなんだよ?熱でもあるの?」


友人男、友人女の熱を測ろうと額に手を伸ばす。友人女、機敏に後ずさる。


友人女「いや。大丈夫。平気」

主人公「…お前ほんとどうした今日。おかしいぞ」

友人女「あ、あー!今日、あたし熱あるかも!ごめん、あたし先帰るね!じゃ!」

ヒロイン「あ、ちょっと!」


友人女、走り去る。ヒロイン、おいかける。


主人公「行っちゃった」

友人男「な」

主人公「元気じゃん」

友人男「なー。追っかける?」

主人公「いいよ暑いし。つか何?変なおっさんて」

友人男「ん、何かさ、誰が怪獣になるの?怪獣に用があるんだって詰め寄られてさ」

主人公「なにそれキモ!警察呼んだ?」


先生が入ってくる


先生「おーいお前ら席につけー。出欠は…いいな。全員いる」

主人公「お前マジかよ」

先生「はい今日は国語の授業です」

友人男「無視されるね」

先生「今日はカフカの変身を読んでいきます。名作だぞ。まあ今、人類はみんな変身できちゃうんだけどな。ははは!」

主人公「デリカシーゼロかよ」


先生、授業を始める。主人公ナレーション


ナレ「追いかけてれば良かった。追いかけて話を聞いてれば。結果は変わらなかったかも知れないけど、ここまでの後悔もなかったんじゃないか。そんなことを今も考えている」


客席側からヒロインと友人女出てくる。


ヒロイン「ねえ待って!」


友人女、止まる。ヒロインに抱きつく。


ヒロイン「…どうしたの?何かあったの?」

友人女「どうしよう…ねえどうしよう!あたし怪獣になっちゃうかも!」

ヒロイン「え?…まさか恋したの!?あいつに?」

友人女「わかんないよ!でも…変なおっさんからあいつに助けてもらってから、あいつの手の力強さとか、なんだかんだ優しいとことか、頭から離れなくなっちゃって…」

ヒロイン「ちょっとやめてよ、あたしやだよ?友達が怪獣になってミサイル打ち込まれるの」

友人女「やめてって言われてやめれるならこんなに悩んでないよ!」

ヒロイン「どうしよう、どうしよう。どうしたらやめられる?」

友人女「だからわかんないってば!止まんないの!!」 

ヒロイン「でも止めないとあんた死んじゃうんだよ!」

友人女「わかってるってば!!」


友人女、もう一度抱きつく。


友人女「ねえ知ってる?恋バナって言うんだって。こーゆーふーに恋の話するの。昔はさ、女の子は恋バナして、盛り上がってたんだって。ねえ、なんでかな。なんであたしたち、そんな事もできないのかな」

ヒロイン「……」


友人女、ヒロインから離れる。笑顔になっている


友人女「なんちゃって!…えへへ…ごめん、誰にも言わないで。もしかしたら勘違いかもだし、だったら恥ずかしいから」


友人女、歩き出す(そのまま音響ブースへ)


友人女「しばらく、学校来ないようにするね」

ヒロイン「ね、ねえ……またね?」


友人女、答えず去る。ヒロイン、教室へ戻る


先生「えーこうして李徴は虎になり、黒人の少年を追いかけてバターになってしまったわけだな」

主人公「めちゃめちゃ混ざってんぞ。ん、おう、あいつどうだった?」

ヒロイン「ん…何かほんとに体調悪いみたいだから、帰るって」

友人男「だってさ先生」

先生「あいよー。大丈夫そうか?」

ヒロイン「…はい」

先生「そか、じゃあ授業続けるぞー」


ヒロインにスポット。それ以外の人間はハケ。


ヒロイン「それから、本当にあの子は学校に来なくなった。心配ではあったけど、何ができるだろう?そう思うと、お見舞いに行くことすらできなかった。そして、一週間後」


建物が倒壊する音、怪獣の鳴き声、続いて警報が響き渡る。ヒロイン、顔を覆い下を向く。暗転。


明転。主人公と友人男が座っている。


主人公「まさかあいつが怪獣になるなんてな」

友人男「…うん」

主人公「誰に恋してたんだろな。俺たちの中じゃ一番、そういうの無さそうだったのに」

友人男「…そうだね」

主人公「…なんでさ、あいつの葬式、来なかったんだよ」

友人男「来るなって言われたから。あいつの両親に」

主人公「…そか」

友人男「あいつから手紙来ててさ。俺のこと好きになったって。会うと目の前で怪獣になって、殺しちゃうから、もう会わないって。好きになってごめんなさいって。…あいつの両親になじられたよ。娘を返せ。人殺しって」

主人公「それは…」

友人男「なあ、俺、人殺しなのかな?あいつは俺に、ごめんって言わなきゃいけないこと、したのかな?俺、分かんないんだよ」

主人公「わかんねえな。わかんねえ」


ヒロインがやってくる。


ヒロイン「ここにいたんだ。……あの子から、手紙、来てて」

友人男「…こっちも」

ヒロイン「そっか。でも、多分書いてるの、違うことだと思う…皆で読も?」

主人公「いいのかよ」

ヒロイン「うん。あの子も良いって書いてた」


手紙を読もうとする三人。そこに怪しい男がやってくる。


怪しい男「ああ、見つけた」

友人男「…あんた」

主人公「へ?誰?」

友人男「何の用だよ」

怪しい男「あの子、怪獣になったんだってね。酷いよ。なんでならないなんて嘘をついたの?僕は怪獣に用があるのに」

友人男「ふざけんな!あんたなんなんだよ!」


友人男、怪しい男の胸ぐらをつかむが、微動だにしない。怪しい男、友人男の腕を掴む。ギリギリときしむ音。


友人男「…あ、ぐ、痛、はなせ、はなせよ!」

主人公「お、おい!やめろ!やめろよ!」


怪しい男、主人公の後ろにかばわれているヒロインに気づき、友人男を放す。


怪しい男「やあ、ひさしぶり!元気だったかい?」

ヒロイン「え?」

怪しい男「ああ、分からないか。そうだよね、あの頃は小さかったし、なにより僕はずいぶん変わっちゃったから」

ヒロイン「あの、なにを」

怪しい男「父さんは元気かな?なんせここ数年帰れてない。あ、でも用を済ませたら必ず帰るよ。約束する」

ヒロイン「…………兄さん?」

兄「そうだよ」

主人公「は!?お前の兄さん死んでんじゃねえの!?」

ヒロイン「行方不明だったの。でも…ねえ兄さん、今までどこにいたの?何してたの!?あたしたちどれだけ」

兄「ああそれよりもさ、怪獣になる予定はないかな?」

ヒロイン「は?」

兄「怪獣に用があるんだよ。ほら、そこの彼とかどうかな?仲、良さそうだけど」

ヒロイン「ねえ兄さん何言ってるの?どうしちゃったの?」

兄「謝りたいんだ。あの子に。怪獣に。そうしないと」


兄、ヒロインの肩をつかむ


兄「僕は帰れない」

父親「離れろぉぉぉ!」


父親、飛び出してきて兄を刺す。倒れる兄。


ヒロイン「え?」

父親「悪党め!娘を!怪獣にはさせないぞ!」


父親、倒れた兄をさらに刺そうとする。抵抗する兄。


ヒロイン「お父さん!お父さん止めて!兄さんなの!」

主人公「おい危ないって!」


主人公、ヒロインを必死で止める。父親、その様子を見て立ち上がる。


父親「なんだお前は」

主人公「は?」

父親「娘に、男が、近寄るんじゃない!離れろ!」


父親、主人公を刺そうとするが、そこに犯人が表れ、ごく自然な動作で父親からナイフを奪い、父親を刺す。


父親「え…?」


犯人、ナイフを捻る。父親、力なく倒れ、死亡。


犯人「困るんだよね。彼らを殺されるのは」

ヒロイン「お父さん…?いや、いやぁぁぁぁぁぁ!何なのよぉ!」


ヒロイン、その場から逃げる。後を追う主人公。友人男、悲鳴をあげながら逆方向へ逃げる。


犯人「おおそうだ!逃げなー!二人で仲良くねー!…んふふ。いい怪獣に、なれるかな?」

兄「あの時のこと」

犯人「ん?」

兄「逃げたこと、ずっと…ずっと後悔…して…た…謝り、たかった…だけ、なんだ」

犯人「そうだね。かわいそうにね、謝りたかっただけなのにね。でも、いい身代わりだったよ?」


明かり変わる。回想シーン。兄(武石)、走り込んでくる。


兄「くそ!くそ!くそ!なんで、なんで僕は!なんで怪獣になんか!なんで告白してくんだよ!なんで!」


怪獣の鳴き声が聞こえる。


兄「なんで逃げちまったんだ」


戦闘機の音、怪獣の悲鳴、ミサイルの音。


兄「あ…」

犯人「あーあ、かわいそ」

兄「……」

犯人「あの子は君に告白しただけなのにね」

兄「…そうだ」

犯人「なんでミサイルを打ち込まれなきゃいけないんだろうね」


ミサイルの音。怪獣の悲鳴。


兄「やめろ!やめてくれ!僕が悪いんだ。だから!」


怪獣が倒れる音。


犯人「あーあ、死んじゃった」

兄「あ………ごめん、ごめんな…」

犯人「おいおい、今さら謝ったって彼女には聞こえないさ」

兄「じゃあどうすれば!」

犯人「決まってる。謝るのさ。直接。怪獣に。そうして許してもらうんだ。彼女に。逃げてごめんって。そうだろ?」

兄「…そうだ、僕は謝らなくちゃ、怪獣に、怪獣に謝らなくちゃいけないんだ」


兄、呟きながらどこかへと歩き出す。


兄(福田)「ごめん、ごめんな」


兄、死亡。犯人、父親の死体に話しかける。


犯人「いやー、最近はね、噂になっちゃって。人を怪獣にして回ってる奴がいるなんて。だからね、身代わり。いやでも、お兄さんも生まれ故郷で死ねて満足だと思いますよ?まあお兄さんに告白した子、後押ししたの僕なんですけどね。あの子もとてもいい怪獣になったなあ。僕はね、怪獣が大好きなんです。その姿を本当に美しいと思うんです。なんでかは分からないけど、あの子達の姿に、強くひかれるんだ。今逃げたあの子達も、いい怪獣になれるといいなあ」


犯人、歩き出す


犯人「あーあ。なんで俺は怪獣になれないんだろ」


犯人ハケる。暗転。

明転。主人公とヒロイン、走り込んでくる。


主人公「待てって!どこ行くんだよ!」


ヒロイン、止まり、主人公に抱きつく


主人公「お、おい」

ヒロイン「ねえ、あたしを怪獣にしてよ」

主人公「は!?」

ヒロイン「だってもう辛いよ!友達は怪獣になって、兄さんもお父さんも死んじゃって!もうなんかわかんない!でも怪獣になれば、もう何も考えなくていいもん!ねえ、怪獣にしてよ、恋させてよ」

主人公「……無理だよ。今すぐそれが出来るならさ、だれもこんなに苦しんでないんだよ」

ヒロイン「…………………そうだね」

主人公「…なあ、逃げないか?」

ヒロイン「え?」

主人公「そんなに辛いならさ、逃げようぜ。ここから。俺どうせ家族いないし、お前もおんなじになったじゃん?いっしょに辛いことから全部逃げちゃおうぜ。それでどこまで行けるかはわかんねえけど」

ヒロイン「…そうだね。それもいいかもね」

主人公「そんでさ、逃げた先でさ、いつかは…」

ヒロイン「?」

主人公「いや、なんでもね。じゃあ、いこうぜ」

ヒロイン「うん」


手を繋ぎハケる二人。暗転。

ヒグラシの鳴く声。明転。教室。友人男のみいる

先生がくる。


先生「おーい、お前ら席に…」


先生、教室を見回し、ため息を一つつき、椅子へ座る。しばし無言。

友人男、静かに泣き出す。先生、友人男の頭を撫でる。


先生「置いてかれたか。お前も」


友人男、大きく泣き出す。

警報が鳴り響き、遠くで怪獣の鳴き声が2つ。友人男は素早く、先生はゆっくりと立ち上がり窓へ。


友人男「あいつら、ですかね」

先生「さあ、どうだろうな」


暗転。怪獣の鳴き声が響き渡る。長く長く響き渡る。


終わり


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