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私たちはあのツイートのどこに違和感を感じたのか?

@shinshinoharaさんによるこちらのツイートは賛否両論を巻き起こし、とても話題になりました。この一連のツイートに対して多くの人が抱いた違和感について、ダンスタン・ベビー・ランゲージという赤ちゃんの泣き声聞き分けメソッド講師としての所感を交えて書かせていただきます。


共感できる点

まず、多くの方が共感している点は、夫婦で話し合いをし、お互いの違いを分析、理解し、お互いの観点を子育てに取り入れようと工夫されているところです。夫婦間で子育てのアプローチに違いがあると、不信感、不和につながってしまいがちですが、お互いを批判するだけにとどまらず、そういう見方もあるのか、と視野を広げるような方向に進んでいけるのはよい夫婦関係だと感じました。

その一方で、多くの人が違和感や反感を感じたのは以下のような点でした。

・赤ちゃんの健康に問題がなく危険がなければ、赤ちゃんが泣いてもそれ以上のことをする必要はないのか?
・赤ちゃんが大声で泣くのは「肺が鍛えられてよい」というのは本当?
・眠くて泣いていることが分かっているのに「泣き疲れて眠るまで放置」という選択をしたことについて
・眠い以外の理由があった可能性もあるのでは?

赤ちゃんの健康に問題がなく危険がなければ、赤ちゃんが泣いてもそれ以上のことをする必要はないのか?

「健康に問題がなく、危険がないことを確認する最低限のことをやったらほっとく」というアプローチや、最低限のお世話以上のことを「サービス」と表現しているところに違和感を持たれた方が多かったと思います。

以下のようなコメントやリツイートが多く見られました。

・健康に問題がなくても、赤ちゃんが泣いたら声をかけたり抱き上げたりして安心させてあげるのは人間の本能的な反応
・赤ちゃんは泣くことでしか伝えられないのにそれを(事情があるわけではないのに)放置するのは問題
・泣いたらお世話、声かけや抱っこをしてもらえる、という体験を通して、周りの人との信頼関係や愛着を形成していくことが大切

ダンスタン・ベビー・ランゲージでは、赤ちゃんが泣くのは生理的欲求を満たしてもらうための、原始反射に基づくコミュニケーションである、と考えます。新生児〜生後2、3ヶ月の赤ちゃんに限って言えば、寂しい、甘えたい、といった感情的な要因よりも、生命維持に必要な欲求を満たすために、本能に突き動かされるようにして泣きます(月齢が上がってくるとそれ以外の様々な要因で泣くことも増えてきます)。

つまり、低月齢の赤ちゃんが泣くのは甘えているわけでも、泣きたい気分だからでもなく、生命維持に必要な基本的欲求が満たされていないからです。よって赤ちゃんが泣く時は身体的にも精神的にもストレスレベルが高い状態と言えます。

もちろん一生懸命いろいろなお世話をしても抱っこをしても泣き止まないこともありますし、お世話をする人が身体的、精神的に余裕がない、兄弟がいる、などの事情がある場合もあるので、絶対に赤ちゃんを泣かせっぱなしにしてはいけない、ということではありません。

ですが、特に事情がないのに「チェックリストにある最低限のお世話だけをしてあとは放置」という育児を日常的にしていれば、赤ちゃんはストレスレベルの高い状態に置かれることが多くなり、成長ホルモンの分泌が阻害される、愛着形成がうまくいかない、などの悪影響が出るリスクも考えられます。

泣いたらお世話をしてもらえる、声かけや抱っこなどで安心させてもらえる、という経験は赤ちゃんの心身の成長にとって必要不可欠であり、断じて「あってもなくてもいいサービス」ではありません。

赤ちゃんが大声で泣くのは「肺が鍛えられてよい」というのは本当?

@shinshinoharaさんは「泣きたいことだってあるだろう、泣き疲れて眠った方が深く眠れて気持ちよかろう、大声で泣けば肺活量も鍛えられてなおよかろう」という書き方をされています。

それに対して、新生児医の@doctor_nwさんは、「赤ちゃんは泣いても肺は鍛えられません。医学的にデマです」とはっきり書かれています。

・赤ちゃんは泣くのが仕事
・泣くことが肺を鍛えることや呼吸の練習にもなっている

といった言葉は、赤ちゃんが泣くことに過度にストレスを感じてしまったり、頑張っているのに泣き止んでくれなくて大変な思いをしている人がこれ以上追い詰められないよう気休めの意味で言われることです。「泣くことは大事ことであり、赤ちゃんのためになる」という都合のよい解釈が、放置をむしろ良いことであるかのように正当化する目的で使われることは危険だと考えます。

眠くて泣いていることが分かっているのに「泣き疲れて眠るまで放置」という選択をしたことについて

眠くてぐずっているなら、抱っこや声かけ、トントンして寝かしてあげればよいのに、という声が多くありました。

生まれてから数ヶ月以内の赤ちゃんは、眠い時に自分でリラックスモードに入ってすっと寝付く、というのが難しい場合が多いものです(中にはそれが2〜3歳まで続く子も・・・)。お母さんのお腹の中にいた時は、薄暗く刺激も少なく、全身暖かく包まれて、お母さんの体の動きによって羊水の中で揺られながらもらって眠りについていたのが、外の世界に誕生後、ポンっと一人で置かれて「さあ寝てください」と言われても難しいのは当然です。

その一方で、人間にとって睡眠は生命維持に必要な基本的欲求です。赤ちゃんが眠くてぐずっていると、「眠いならさっさと寝ればいいのに」「寝かしつけしてあげないと寝ないなんて甘えてる」と思ってしまいがちですが(私もそう思ったことが何度もあります)赤ちゃんにとって、寝たいのに眠れなくて泣く、というのはのっぴきならない理由で止むに止まれずやっていることなのです。

また、見逃されることが多いのは、外の世界は情報や刺激がいっぱいで、新生児の赤ちゃんの脳は起きてから1時間程度で疲れてしまうということです(月齢が上がるにつれ、もっと起きていられるようになります)。そしてもう一点大切なのが、疲れすぎるとギャン泣きになってしまい、寝付くのがさらに難しくなってしまう、という点です。こうなってしまうと抱っこやトントンをしてあげても寝かしつけは容易ではありません

ダンスタン・ベビー・ランゲージでは、赤ちゃんが疲れすぎる前のタイミングで、眠い時に出す声(ギャン泣きになる前の音)を聞き分け、寝やすい環境にすぐに連れて行って寝かしつけをすることをお勧めしています。

「眠い」以外の理由があった可能性もあるのでは?

このツイートの場合は、@shinshinoharaさんが推測されたように、赤ちゃんが眠かった可能性が高いですが、他の理由で泣いていた可能性も十分にあります。

ダンスタン・ベビー・ランゲージでは、低月齢の赤ちゃんが泣く主な理由は次の5つと考え、聞き分けを学んでいきます。

①空腹・・・このケースではミルクをあげたばかりとのことなので可能性は低いですが、飲みながら寝てしまったり、暑い時に普段より喉が乾いてしまったりした時にはミルクをあげた後でも泣く場合があります。

②げっぷ・・・げっぷはさせた、と書いてあるのでこちらも可能性は低いですが、一回げっぷが出てもまだ出しきれていない場合や、泣いているうちにまた空気を飲み込んでしまうこともあります。

③眠い、疲れた・・・上記参照

④お腹が痛い・・・下腹部にガスがたまり、オナラとしてうまく出すことができない時に、下腹部の不快感や痛みとなり、激しい泣き方をすることがあります。

⑤肌の不快感・・・このケースではおむつは汚れていなかったとのことですが、暑すぎる、寒すぎる、服がちくちくする、バウンサーのベルトがきつい、などの理由で泣くことがあります。

このツイートのケースでもそうですし、赤ちゃんが自分で寝付くまで泣きっぱなしにさせておくネントレの場合でも、眠い以外の理由で泣いている可能性がある状態で、泣き寝入りするまで意図的に放置することは避けるべきです。

ダンスタン・ベビー・ランゲージでは泣かせっぱなしにするネントレは推奨していませんが、もしどうしてもするのであれば、しっかりと聞き分けをして「眠い」以外の要因で泣いていないことを確認してから行ってください。

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長文をお読みいただきありがとうございました。ダンスタン・ベビー・ランゲージにご興味を持たれた方は、ぜひ他の記事も読んでいただければと思っています。赤ちゃんが泣く5つの理由の聞き分け方法を学ぶオンライン・クラス(二時間で完結)を開催している他、クイズ形式で学べる携帯アプリももうすぐリリース予定です。

ダンスタン・ベビー・ランゲージについてのリサーチやエビデンスについて、近日中にNoteに執筆したいと思っています。


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