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ダンスタン・ベビー・ランゲージのエビデンスについて

ダンスタン・ベビー・ランゲージは生後0〜3、4ヶ月の赤ちゃんの泣いている理由を聞き分け、的確なお世話をすることで、赤ちゃんを比較的早く落ち着かせてあげられるようにするメソッドです。具体的には、次の5つの主な音の聞き分け方と、それぞれの対処法を学びます。

お腹がすいた=ネェ
げっぷがしたい=エ
眠い= アゥ
お腹に空気がたまっている=エア”
不快=へ

このような泣き声の聞き分けが本当にできるのか、エビデンスはあるのか、皆さん気になるところだと思います。

まず、医学的なエビデンスですが「ネェの泣き方をした時に胃が空っぽになっているかどうか内容物を確かめる」「エア”の泣き方をした時に下腹部の気泡が多くなっているかどうか計測する」といったような検証や解剖医学的なリサーチは行われていません。

それではどうして「赤ちゃんが泣く主な理由が音で聞き分けられる」ことが証明できるのでしょうか?ダンスタン・ベビー・ランゲージは以下のような方法で確立され、検証されてきました。

①徹底的な観察に基づく泣き声の分類
②生理学的な根拠
③実際に両親にメソッドを使ってもらっての有効性のリサーチ(コントロール・グループとの比較検証)
④音声学的なリサーチ

①徹底的な観察に基づく分類

このメソッドはオーストラリアのプリシラ・ダンスタンが、1998年に生まれた自分の赤ちゃんがとてもよく泣く子だったことをきっかけに開発したメソッドです。子供の頃から音に対する並外れた才能を持っていたプリシラは、声楽の勉強を通して「体や精神の状態がどのように発声に影響するのか」を熟知していました。自分の赤ちゃんが時と場合によって違う声を出していることに気付いた彼女は、そのパターンを分類することに成功します。

その後、異なる人種のすべての赤ちゃんが同じ泣き方をするのかどうかを検証するために、児童心理学や教育リサーチの専門家である自分の父親、マックス・ダンスタン博士の協力も受け、リサーチを開始しました。

まずはオーストラリア国内で、オーストラリア、ニュージーランド、タヒチ、トルコ、オランダ、アメリカなどのルーツを持つ400人以上の赤ちゃんの観察調査が行われました。

次に42家族の家を訪問し、赤ちゃんの泣き声をビデオで撮影し、カテゴリー分けを行いました。カテゴリー分けされたビデオは地元の大学教授、医師、看護師に公開され、大人がそれらの泣き声の違いを聞き分けられるかどうかが検証されました。

②生理学的な根拠

次の段階のリサーチや検証についてご紹介する前に「そもそもなぜ聞き分けができるのか」「なぜ新生児が皆同じ泣き方をするのか」「なぜ理由によって異なる泣き方をするのか」といった疑問に答えるために、このメソッドが成り立つ生理学的な根拠についてお話します。

簡単に言ってしまうと、くしゃみやしゃっくりの音を聞き分けることができるのと同じ原理です。

「欲求/要因」→「体の反応/動き」→「音」

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上記の表で分かるように、体の中で何らかの欲求が生じたり、刺激などの要因があったりすると、意識しなくても体が欲求や要因に対処しようと反射的に動きます。そして、体が反射的に動いたり反応したりした時に声を出すと独特の音になります。その独特の音を聞き分けることで原因となる欲求や要因を判別することができるのです。

新生児の赤ちゃんは多くの原始反射を持って生まれてくることが医学的に証明されています。新生児のうちはまだ自分の意思で体を動かすことができないため、意識しなくても体が勝手に動く反射作用によって生命を維持する必要があるからです。この原始反射は人種の差に関係なく、ほぼすべての赤ちゃんに見られます(自閉症など何らかの違いを持っている赤ちゃんについては未検証です)。

ダンスタン・ベビー・ランゲージでは新生児の赤ちゃんが主に原始反射によって体を動かし発声しているという特性に注目して「空腹、げっぷ、眠気、お腹のガス、肌の不快感」に関する欲求の聞き分けを行います。これらの5つの欲求が低月齢の赤ちゃんの泣く主な理由であり、かつ聞き分けがしやすい音が発せられるからです。

また、他の赤ちゃんの泣き声の研究との決定的な違いは、ダンスタン・ベビー・ランゲージが、本格的な泣き方になる前の音に注目する点です。他のリサーチでは、赤ちゃんの泣き声が大きくなってからの音量や声の持続する長さ、間隔、高低などを解析する試みがなされていますが、声が大きくなると原始反射由来の音がかき消されてしまい、聞き分けをすることはかなり困難です。

③実際に両親にメソッドを使ってもらっての有効性のリサーチ(コントロール・グループとの比較検証)

実際に聞き分けメソッドが使えるかどうかを知るためには、次の点を検証する必要があります。

- お世話をする大人が音の違いを聞き分けられるかどうか
- 音に対応するお世話(例:空腹→授乳)をすることで赤ちゃんが泣き止むかどうか
- 聞き分けを行うことでメリット(ストレスが減少するなど)があるかどうか

まずは、30家族を訪問し、赤ちゃんが泣いた時に「泣く理由にマッチした正しい対処方法をしてもらう」場合と「泣き声にマッチしない別の対処方法をしてもらう」場合を比べる検証が行われました。その結果、泣く理由にマッチした正しい対処方法をした場合の方が早く赤ちゃんを落ち着かせてあげることができるという結果が出ました。

引き続き行った小規模の消費者テストで、テストに参加した家族から圧倒的にポジティブなフィードバックを得ました。

その後、2006と2007年に、米国、オーストラリアにおいてより大規模なリサーチが独立機関(The Leading Edge)によって行われました。リサーチは(a) 両親が5つの泣き声の聞き分けを学ぶことができるかどうか、(b) 聞き分けをすることの有効性と両親にとってのメリットがあるか、の2つの目的に焦点を当てています。

対象:正期産で生まれた生後2〜12週の赤ちゃんのいる母親。オーストラリア・シドニーの113人米国・シカゴの219人。アングロサクソン系、ヨーロッパ系、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック、アジア系、ヨーロッパ系、中東系、中国系、インド系、アジア系、アボリジニ/トレス海峡諸島人、ラテン系アメリカ人、マオリ系を含む。
期間:リサーチ開始前、2週間後、4週間後の3つのデータポイントを比較検証
グループ分けテスト・グループの母親は聞き分け方とそれぞれの対処法を学習。コントロール・グループの母親は対処法のみを学習。
測定方法:3つのデータポイントにおいて母親アンケートに答えてもらうことで2つの指標「母親の自己評価」と「 子育てストレス指数」を比較測定。

2つの指標の詳細は以下の通り:
「母親の自己評価」--- 以下の5つのサブカテゴリーを総括。スコアが高いほど自己評価が高いことが示される。
- 赤ちゃんの世話をする能力
- 母親としての心の準備
- 赤ちゃんを受け入れる度合い
- 赤ちゃんとの関係への期待感
- 妊娠と出産に関する感情

「 子育てストレス指数」--- 以下の3つのサブカテゴリーを総括。スコアが高いほどストレスが大きいことが示される。
- 親のストレス
- 親子関係の機能不全
- 対応が困難な赤ちゃんの行動

結果:
- オーストラリアのコントロール・グループでは2週間後と4週間後に「母親の自己評価」が下がったのに対し、テスト・グループでは上昇した。
- 米国のコントロール・グループでは2週間後と4週間後の「母親の自己評価」はほぼ横ばいなのに対し、テスト・グループでは2週間後に微増、4週間後には有意な上昇が見られた。
- オーストラリアのコントロール・グループでは2週間後と4週間後に「 子育てストレス指数」が上がったのに対し、テスト・グループでは下がった。
- 米国において、2週間後と4週間後の「 子育てストレス指数」はコントロール・グループ、テスト・グループともに下がったが、テスト・グループの方が下げ幅が大きかった。

テスト・グループを対象に同時に行われた2週間後、4週間後のアンケートでは以下の結果が出ています。
• ほぼ全員が「DBLは理解しやすい」と回答
• 10人中8人が「DBLを使うのは容易」と回答
• 10人中7人が「赤ちゃんのニーズを理解しやすくなった」と回答
• 3人中2人が「赤ちゃんを早く落ち着かせてあげられるようになった」と回答
• 2人中1人が「赤ちゃんも自分たちも一度に寝られる時間が増えた」と回答
• 2人中1人が「授乳/哺乳瓶がうまくようになった」と回答
• 2人中1人が「より赤ちゃんとの絆を感じる」 と回答
• 母親と父親の両方がDBLを学んだ対象者の70%が「家庭内のストレスが軽減された」と回答

これらのオーストラリアとアメリカでの研究結果は、ダンスタン・メソッドによる有意な介入効果を示しています。ベビー・ランゲージを学んだ親は、学ばなかった親と比較して、自己評価が上がり親としての自信が持てるようになり、子育てストレスが減少することが実証されました。

また、2016年にサンプル数27名というかなり小規模のリサーチですが、フィリピンのイースト大学ラモンマグサイサイ記念医療センターにおいて「The efficacy of Dunstan baby language in decreasing the parenting stress levels of housewives with 0-2 month old infants: A quasi-experimental study」というリサーチが行われています。

「ダンスタン・ベビー・ランゲージのメソッドを学んだテスト・グループ」と「一般的な育児方法だけを学んだコントロール・グループ」に分け、ベースライン→1週間後→2週間後→4週間後のアンケート調査を行ったところ、総じてテスト・グループの方がストレス・レベルが低いという結果が出されました。https://www.uerm.edu.ph/Forms/research/HSJ%205.1%20Jan.%20June%202016.pdf#page=6

④音声学的なリサーチ

赤ちゃんの泣き声をコンピューターによって解析しようという研究が世界中で行われていますが、ダンスタン・ベビー・ランゲージの5つの音が研究対象になることも少なくありません。音声解析をするためには、解析するための音声とその定義が必要です。例えば「空腹時の泣き声」にはどのような特徴があるのかを解析するためには「これが空腹時の泣き声である」と定義された泣き声音声データが必要であり、それをどこから入手するのかが大きな問題です。以下のリサーチでは、そういった音声をダンスタン・ベビー・ランゲージのビデオから入手し、コンピューター解析によってダンスタン・ベビー・ランゲージと同じ分類ができるかどうか?が検証されています。

音声学的なリサーチは、ダンスタン・ベビー・ランゲージの有効性を証明するものではありませんが、研究者によって「実績のある確立した泣き声聞き分けメソッド」として認識されていることが分かります。

インドのGhousia College of Engineeringによるリサーチ「Decoding baby talk: A novel approach for normal infant cry signal classification」ではKNN(K-Nearest Neighbor - k近傍法)の手法でネェ は80%、「エ」は90%、「アゥ」80%、「エア”」 90%、「へ」は90%の確率で分類できるという結果が出ています。
https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/7292392/metrics#metrics

ルーマニアのResearch Institute for Artificial Intelligence(AIリサーチ研究所)やPetru Maior大学などのメンバーによるリサーチ「Testing the Universal Baby Language Hypothesis -
Automatic Infant Speech Recognition with CNNs」では、機械学習の手法CNN(Convolutional Neural Network - 畳み込みニューラルネットワーク)によって、ダンスタン・ベビー・ランゲージの5つの音が89%の確率で分類できるという結果が出ています。
https://ieeexplore.ieee.org/document/8441412

インドネシア大学の「Infant cry classification using CNN – RNN」というリサーチではCNNとRNN(Recurrent Neural Network -  回帰型ニューラルネットワーク)を組み合わせた手法でダンスタン・ベビー・ランゲージの5つの音が94.97%の確率で分類できるという結果が出ています。
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1742-6596/1528/1/012019/meta

こういった研究は、NICUなどにおいて赤ちゃんの泣き声をもとにいち早く異常を検知する音声モニタリング機器の開発などを目的に進められており、ダンスタン・ベビー・ランゲージは病理的でない一般的な泣き方の分類を提供することにより、研究に貢献しています。

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ダンスタン・ベビー・ランゲージは2006年にアメリカのオプラ・ウィンフリー・ショーで紹介され脚光を浴びて以来、世界32カ国以上において、小児科医、助産師、看護師、睡眠・授乳コンサルタント、自然療法士、ベビーマッサージ・セラピストなどの乳児ケア専門家によって実践され、推奨されています。また、実際に数百万人もの両親によって使われ、圧倒的にポジティブな評価を得てきました。

これまでのリサーチでは、赤ちゃんへのメリットは測定されていませんが、愛着への影響や乳幼児の発達に与える好影響があるかどうか、関心の高いテーマになっています。

また、産後うつや産後クライシスを悪化させる条件を減らすことができるか、リスクのある家族(低所得、10代の母親など)への有効なサポート手段になるかどうか、など様々な可能性も模索されています。

最後までお読みくださりありがとうございました。



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