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【あおぎりメモリアル】エピソード“千代浦蝶美”

入学前3月某日
来月入学予定のあおぎり高校に来た。不思議な予感がして、もうすぐ通う学び舎へ足を運んでしまった。
敷地内に入ることはできなかったため、校門から外壁に沿ってゆっくりと歩く。しばらく歩き、獣道のような藪を抜け、満開の桜並木の坂を上っていると、その頂上に人影を見つける。逆光のため正体はわからないが、シルエットから髪の長いツインテールの女の子ということだけはわかった。

「見つけた。」

その女の子がそう言ったように聞こえた。
聞き返そうとしたが、強い風が吹き桜吹雪が舞い上がった。思わず目を瞑ってしまい、再度視界が開けた時には、その女の子の姿は見えなくなっていた。


1年生4月入学式
入学式の式典も終わり、教室へ移動する。
オリエンテーションが始まり、定番の自己紹介タイムとなった。
自分は無難に挨拶を済ませ、次の人の順番になり、後ろを振り返る。
そこには、ピンクの髪をツインテールにした可愛い女の子がいた。

「みなさん、はじめましてーっ!みんなのハートを握りつぶしちゃうぞっ!握力40kgの新入生!千代浦蝶美ですっ!!呼び方は、ちよちゃんでもちよみでも、好きに呼んでください!よろしくおねがいしまーす!」

そんな挨拶をぶちかまし、教室中が静寂に包まれる。

「あ、あれ?前の時はこれでウケたんだけどな。」青ざめた顔で、焦っている。
「え、えへへ、仲良くしてくださ~い。」

そう締めくくり、恥ずかしそうに席に着く。
遅れて、クラスのそこかしこから忍び笑いが聞こえてくる。
変わってるけど面白い子だなと思った。

オリエンテーションも終わり、本日は解散となった。帰宅しようと思い、玄関で靴に履き替えていると、

「ねぇねぇ!」

と、声をかけられる。

「あ、えっと握力40kgの…」

「そこで覚えてるんかーい!あはは!千代浦蝶美だよ、出来たらちよちゃんって呼んで欲しいかな。」

「ちよちゃんね、了解。で、何か用事だったかな?」
「実は軽音部の部室を探してて、場所を知らないかな?」
「うーん、流石に入学したばかりで、ちょっとわからないかな。」
「あー、そうだよね。今はまだそうだよね。」
「ん?今はまだ?」

変な言い回しに妙な引っかかりを覚える。

「あ、えっと、入学したてだし、今はまだわからないよねって意味で。」
「ああ、そういうこと。で、どうする?」
「え?どうするって。」
「いや、軽音部の部室探すんでしょ?」
「そうだけど。」
「なら、早く行こうよ。」
「キミは変わらないなぁ。一緒に探してくれてありがとう。」
「変わらないって、どこかで会ったことあったっけ?」
「ううん、今日が初めてだよ。」
「???」

なぞなぞのような会話に頭が混乱してきた。

「あはは、訳がわからないよね。私が一方的に知ってるだけだから気にしないで。」

若干の違和感を感じつつも、不思議と嫌な感じは受けなかった。
軽音部の部室は第2音楽室の近くにあることがわかったが、入学式の日ということもあり、今日は誰もいなかったため解散となった。

3日後

部活勧誘が始まった。
廊下を歩いているちよちゃんを見かけ、声をかける。

「軽音部に向かうの?」
「うん、そうだよ。」
「この間から気になってたから、一緒に見学へ行かせてもらっていいかな。」
「いいよ!一緒に行こっか。」

二カッと笑いながら快諾してもらえたので、一緒に軽音部に向かう。
特別棟の第2音楽室にたどり着くと、音楽室の中では軽快な音楽が流れていた。
室内にそっと二人で入る。その瞬間、音楽が質量を持った圧のように全身を叩いてきた。
心地よいリズムとメロディに身を任せ、そのまま黙って演奏を聞いていた。

演奏が終わったところで、部員と思われる先輩が声をかけてきた。

「見学希望かな?」
「はい、そうです!あ、彼は付き添いで、私が見学希望なんですけどいいですか?」
「構わないよ、好きなだけ見学していくと良い。うちの軽音部は何代か前にプロも輩出してるのが自慢の部活だからね。本気で取り組む気があるなら、入部も大歓迎だよ。」
「ありがとうございます!」

お言葉に甘えて、そこからしばらく先輩たちの演奏を見学していく。
ジャンルは幅広いようで、80年代ロックからポップス、果てはアニソンまで演奏してくれた。
特にアニソンではちよちゃんがノリノリで反応していたので、微笑ましかった。

何曲か演奏した後で、先輩が再び声をかけてきた。

「そう言えば、君は希望のパートとかあるのかな?」
「私はボーカル志望です!」

すかさず、ちよちゃんがそう答える。

「アニソンが好きみたいだし、せっかくなら一曲歌ってみる?」
「いいんですか?ぜひお願いします!」

こうして、ちよちゃんの歌が突発的に披露されることになった。

歌っているちよちゃんを眺めていが、結論から言えば、ちよちゃんの歌はめちゃめちゃ上手かった。あまりの上手さと熱量に魂が揺さぶられたような気がした瞬間、突然覚えのない記憶がフラッシュバックした。

脳裏によぎった映像には、静まり返る会場と気まずそうなちよちゃんが見える。

ただ、そんな映像はやはり記憶になく、突然フラッシュバックしたことで呆然としていると、いつの間にか歌が終わっていた。

先輩からべた褒めされ、照れているちよちゃんを見ているうちに、フラッシュバックした映像のことは、いつの間にか忘れてしまっていた。

ちなみにちよちゃんは、そのまま軽音部に入部するのかと思われたが、結果として入らなかった。
その後も結局部活は決まらず、二人とも帰宅部になってしまった。

ちよちゃんに理由を聞くと、「本格的なバンドがやりたいわけじゃない。」とのこと。
「以前悔しい思いをしたから、見返したかっただけなんだ。」と舌をペロっと出して答えてくれた。

「それって、歌に失敗して会場がシーンとしたことがあるとか・・・、ってそんなわけn」
「何か思い出したの?!」

すごい食い気味に話に乗ってきた。

「いや、何となくそう思ったっていうか、見えたっていうか。」
「そっか、でも一歩前進だね。」
「前進?」
「あ、いや、ほら、歌で見返せたから、これで次の目標に集中できるってことだよ。あははは・・・」
「あぁ、そうゆうこと」

そんなやり取りをしつつ、この日は解散となった。


1年生5月
今日は、体育館で体力測定をしている。
ふと気になり、ちよちゃんを見てると、反復横跳びをすごい速度で往復していた。
あまりの速さに残像が見える。

次は上体起こし、いわゆる腹筋、これも女子の平均を大きく上回っている。

そして最後は握力測定
最初の自己紹介で言っていたのは、ただの冗談だと思っていたのだが、測定したちよちゃんの周りが騒然としている。

「ほんとに40㎏超えてる。いやこれ50いってるんじゃ・・・」とか、「もはやゴリラ・・・」という声が聞こえてくる。

「ゴリラって言うなー!ゴリラ違うわ!」
そう言って屈託なく笑う彼女は可愛かった。
でも握力40㎏超えてるのか…。場合によってはリンゴが潰せるレベルだと思い、心臓が少しだけキュッとした。


1年生7月
今日は高校に入学して初めての中間テストが返却される日だ。
おおむね平均点を超える成績で満足していると、背後の席で「うおぉぉ…。」と、地の底から響くようなうめき声が聞こえた。
振り返ると、ちよちゃんが返却されたテスト用紙を前に頭を抱えていた。
チラリと見ると、理系の点数が壊滅的だった。詳しい点数は言わないが、そんな点数を取る人が本当にいるんだと驚いた。
点数は見なかったことにして、ちよちゃんに声をかける。

「地獄の釜でも開けたような声を出してるけど大丈夫?」

そう尋ねると、青ざめた顔でこちらを見てきた。

「うぅ〜。理系は苦手なんだよぅ。このまま追試もダメだったら、夏休みが補修で終わっちゃう〜。花の女子高生が勉強漬けで夏休みを終えるなんて、悲劇すぎるぅぅぅ。ぴえんぱおん。」

「割と余裕そうだけど、良かったら勉強教えようか?」

仏心がムクムクと起きて、そんなことを言った途端にちよちゃんは表情を輝かせ、

「ホントに?!お金払ってでもお願いしたいくらいだよ~。相当バカだけどいいの?かなり大変だと思うけど、そこまで言ったら逃がさないぞ!」

そう一気にまくし立ててきた。
若干の狂気を感じて、提案したことを後悔しかけたが、夏休みがつぶれるのを不憫に思い、了承したのだった。

放課後になり、さっそく図書館で勉強を始める。
ちよちゃんの場合、積み重ねる力はあるようなので、中学の頃の基礎からやり直してみたところ、今回の試験範囲までなんとか合格点が取れそうなレベルにはなった。

「ありがとう~。これで無事に夏休みが迎えられそうだよ。君は勉強も問題なくできるみたいだけど、将来何か夢とかあるの?」

勉強が一区切りついたことで、雑談タイムとなったようだ。
しかし、将来の夢ねぇ…。

「んー、まだ特に何も考えてないかな。将来って言われてもピンとこないっていうか。そういうちよちゃんはどうなの?」
「わたしは、うーん…。笑わないって約束してくれる?」
「うん、約束するよ。」
「実はね、私アイドルになりたかったんだ。」
「そうなんだ、素敵な夢だね。」
「やっぱり君は笑わないんだね。」
「うん?笑ってほしかった?」
「そういう訳じゃなくて、普通こんな叶いそうにもない夢を語られたら、引くか鼻で笑うかくらいするでしょ?」

そういってちよちゃんは苦笑いをする。

「なんで?叶いそうにないって誰が決めるの?目標は高いかもしれないけど、無理じゃないと思う。ほら、あおぎり高校の卒業生には、声優や芸術家、マルチクリエイター、プロミュージシャンとか、叶いそうにない夢を叶えた先輩が何人もいるんだし、ちよちゃんだって叶えられるだけの力を持ってると思うけどなぁ。なんなら在学中に独力で伝説の鐘を修復した先輩なんかは、“諦めず努力すれば願いは叶う”って言ってるしね。」

「すごい語るね。そうだよね諦めずに努力すれば願いは叶うんだよね…。諦めなければ…。」

そこから何かを考え出すちよちゃんを黙って眺める。

「あ、ごめんね考えこんじゃって。でも、夢を馬鹿にしないでくれてありがとう。」
「当たり前だよ。あ、そうだ、ちよちゃんがアイドル目指すなら、マネージャー目指そうか。誰かを応援して支えるの好きだし。」
「あはは、ならそうなった時はお願いしようかな。」

そう答えたちよちゃんを見て、なぜか笑っているのに泣きそうな印象を受けた。

勉強を再開し、閉館まで粘ったおかげか、ちよちゃんは追試に見事合格した。その後、何度も感謝され、お礼に夏祭りのお誘いを受けた。断る理由もないため、快諾したのは言うまでもない。


1年生7月
今日は夏祭りの日だ。
ちよちゃんからの夏祭りのお誘いが、2人きりで行くものだと勘違いしたあの時の自分をぶん殴りたい。
今日は、クラスでも仲のいい連中と夏祭りに来ている。もちろんメンバーの中にはちよちゃんもいる。
女子は示し合わせたようで、全員浴衣を着て来ている。浴衣姿ではしゃぐちよちゃんは、誰よりも可愛いかった。

みんなでワイワイと騒ぎながら屋台を冷やかして進む。しばらく行くと、イベントステージのエリアに出たようだ。ステージでは飛び入り参加型の“のど自慢大会”が催されているようで、友達から「ちよちゃん出なよ~。」と半ば強引に勧められた割には、

「ぐふふ。それじゃあ出ちゃおうかな?」

と、案外まんざらでもないご様子。

「せっかくだから、誰かカメラで撮ってあげなよ。」とクラスメイトの女子が言うと、

「そういえば、君はカメラの撮影が得意じゃなかった?」

そう言って、ちよちゃんから話を振られる。
趣味で写真や動画の撮影と編集をしているが、そのことは誰にも言ったことがないはずなのに。

「カメラが無いから、せいぜいスマホで撮影するくらいだけどいいの?というか、撮影が得意って言ったことあったっけ?」

得体の知れなさを感じ、ちよちゃんに問いかけるものの、

「あれ?そうだっけ?なんとなくそんな気がしただけかも。」

と言われ、まぁそんなこともあるかと、この時は深く考えることはしなかった。

その後、のど自慢大会に出場したちよちゃんは見事に優勝を掻っ攫い、来年もぜひ出場してもらいたいと運営からお願いされていた。

夏祭り以降の休み期間中もクラスメイトたちを交えて、みんなで何度か遊びに出かけたりした。そのおかげか、以前よりさらにちよちゃんと仲良くなれた気がする。

1年生9月
あおぎり高校に入学して初めての文化祭を迎える。うちのクラスは、有志が屋台を出しつつ、Mr.&Ms.コンテストに出場することになった。
参加するのは、うちのクラス1番のイケメン君とちよちゃんのペアだ。
ただ、ちよちゃんはあまり乗り気ではなさそうだった。

クラスメイトにちよちゃんの説得を頼まれ、「アイドルを目指すなら、こういった経験も糧になるんじゃないか。」と言ったら、渋々ながら引き受けてくれた。ただし、交換条件でカメラマンをするように任命されてしまったが。

投票時に使用するペア写真をあらかじめ撮らなくてはならないため、イケメン君とちよちゃんにポーズをとってもらい、いくつか写真におさめていく。妙にちよちゃんに馴れ馴れしいイケメン君は、途中アドリブでちよちゃんの腰に手を回そうとしていた。ちよちゃんが照れたのか、イケメン君の手首を握り潰して悲鳴をあげさせていたので、ちょっとだけザマァと思ったのは秘密だ。

コンテスト本番は特筆すべき出来事もなく終わった。結果は3位と健闘したものの、残念ながら優勝は逃してしまった。

「素敵なカップルだね。羨ましいなぁ…。」

優勝した3年生のペアは実際に恋人同士らしく、そんな二人を見ながらちよちゃんは羨ましそうにしている。

「やっぱりああいうのに憧れる?」
そう問いかける。

「そりゃ、女の子だもん。素敵な恋人に憧れるよ。何年か前に同じコンテストに出場した先生と3年生の先輩のペアの写真が残ってるんだけど、あのカップルが一番素敵だったなぁ~。先輩の卒業の時に二人は交際を始めたんだって!なんだかロマンチックだよね~。」

本当に羨ましそうに、そしてどこか寂しそうにしているちよちゃんに、かける言葉が見つからず、しかし目を離すことができなかった。

1年生12月24日
世間はクリスマスイブ。街中がクリスマスムード一色に染まり、カップルだらけの様相にげんなりしている。家に引きこもろうと思ったら、母親から買い物を頼まれてしまい、リア充の巣窟に出かけるハメになってしまった。

仕方が無いのでさっさと済ませようと思い、お店に向かっている途中で、軽音部を見学した時にお世話になった先輩が路上ライブをしているのを見かける。珍しさもあって足を止めて見ていると、隣に見覚えのあるピンク髪の人物が来た。

「君も見学に来たの?」
「買い物のついでにたまたま見かけてね。ちよちゃんは誘われたのかな?」
「ううん、私も出かけたついでに見かけたから見学してるんだよ。」

ちょうど演奏が終わったみたいで、パチパチとまばらな拍手が送られる。自分たちも先輩に向けて拍手を送る。いかんせんギターだけの演奏で歌が無いため、若干華やかさに欠けてしまっているのが惜しいなと個人的に感じていた。

するとこちらに気付いた先輩が、手招きしている。二人で近づくと、声をかけられる。

「こんにちは、お二人さんは相変わらず仲がいいみたいだね。クリスマスデートの最中だったかな?」

「やだ先輩!デートだなんてぇ~、ウフフフフ」バシバシと背中を叩かれている先輩。なんだか痛そうだ。

「デ、デートでないなら、少しだけ彼女さんを借りてもいいかな?せっかくなら一曲だけでいいから歌っていきなよ。」

先輩の“彼女さん”という発言に二人で赤面してしまった。
しかし、それも一瞬のことで、
「歌っていいならぜひお願いします!」
と、すぐに飛び込む当たり、ちよちゃんの行動力には毎回感心する。

演奏が始まり、クリスマスバラードを歌うちよちゃん。
周辺で聞いている人たちからは、「女の子二人組、てぇてぇ…。」「歌うま!」「…。(無言でピンクのサイリウムと蝶を振るおじさん)」といった反応が見られた。
かくいう自分も思わず体が反応してしまい、ちよちゃんが歌っている様子をスマホで撮影してしまった。

曲が終わると、周りからは先ほどよりもあきらかに量の増えた拍手が送られた。そんな拍手を受けて、手を振ったり、ウインクしたりと反応を返すちよちゃんは、どこから見てもアイドルそのものだった。そんな彼女を見て、ちよちゃんのマネージャーをやりたいという思いが、少しだけ強さを増したような気がした。

周囲からはアンコールの声が上がっていた。先輩ももうお終いだからと言っているが、なかなか止まない。
予定もあるけど、みんなの声にも応えてあげたいというちよちゃんの葛藤が見える気がした。
ここはひとつ泥を被るかと思い、ちよちゃんに近づくと手を握る。
「ごめんなさい!今から彼女とデートなので、アンコールは次の機会があったらということでお願いします!」
それだけ言うと、ちよちゃんの手を引き集団から抜け出す。
先輩からは、何故かサムズアップを送られた。

そのまま、観衆の姿が見えなくなる場所まで移動してちよちゃんを振り返る。

「大丈夫だった?いきなり手を引いたりしてごめん。困ってるみたいだったから、あそこから離れるにはあれくらいしか思いつかなくて。」

そう声をかけるが、ちよちゃんはうつむいたまま。

「ううん、大丈夫。ありがとう。」

そう答えるだけだった。
少し不安になったため、「迷惑だったかな?」と問いかける。

ちよちゃんは、バッと顔をあげた。その表情は赤面して目をぐるぐると回していた。

「め、迷惑なことはないんだけど、あの、その、て、手をそろそろ、離してもらっても…よろしいでしょうか。あ!嫌って事じゃなくて、なんていうか、恥ずかしいというか…。えっと、えっと。」

混乱しているのはよくわかった。手をつないだ状態に照れてしまっているようなので、慌てて手を離す。

「ごめん!なんだか当たり前のような感じがして、手をつないでるの忘れてた。」

そう応えると、ちよちゃんは一瞬嬉しそうな表情をしたあと、しかめっ面になり、最後にはいつものようにニカッと笑って、「ううん!連れ出してくれてありがとう。助かったよ!」と言ってくれた。

こちらも何となく照れくさくなり、話題を変えるために先ほどの路上ライブについて話をする。

「そういえば、さっき歌ってる様子を動画に撮ったけど、また更に歌が上手くなってたんじゃない?SNSに上げたら人気が出そうだよ?一気にアイドルデビューとかしちゃったりして。」

冗談めかしてそう伝える。

「あー、うん、ありがとう。SNSは…。君の判断に任せようかな。なんとなく勇気が出なくって、君が決めてくれれば背中を押されるような気がするから。」

ちよちゃんにしては珍しく、歯切れの悪い返事だった。
いろんな人の目に触れれば、ちよちゃんが目指してるアイドルへ大きく近づける可能性がある。なら挑戦してみてもいいのかもしれない。でも判断はこちらに任された。
どちらを選ぶべきなのか…。


1月1日深夜2時
さんざん悩んだ挙句、ちよちゃんの動画はSNSにアップした。その結果動画はかなりの注目を集め、大手プロダクションからちよちゃんにスカウトが来た。
そこから、あっという間にアイドルデビューを果たし、デビュー1年未満で某赤白歌番組に出場を果たすほどの人気を博した。

それと引き換えに、ちよちゃんは高校を辞め、手の届かない遠い存在となってしまった。
最後の挨拶の時には、精一杯の笑顔を浮かべながら、ぼろぼろと涙を流すちよちゃんが印象的だった。

もし、あの動画をアップしなければこんなことにはならなかったのにと後悔し、自分は遠くのアイドルよりも、近くで笑ってくれている彼女のことが好きだったんだと自覚したが、すべては後の祭りだった。


1年生1月1日深夜2時
慌てて体を起こす。テレビをつけたまま、コタツで眠っていたようだ。
初夢というにはあまりにもリアルで不吉な夢を見てしまい、冷汗が止まらなかった。
初夢は正夢という話もあるくらいなので、あの悪夢も十分ありうる未来の可能性の一つなのではと考えてしまった。途端に不安感が襲ってくる。
先日の動画は、まだSNSにアップしておらず手元に残している。
不吉なものを感じ、しかし消してしまうのも嫌だったので、シークレットフォルダに入れて封印することにした。

夜が明け、近所の神社に初詣に出かけると、タイミングよくちよちゃんに出会う。初夢のせいでブルーな気分だったが、本人を見ることで安心できた。そのままちよちゃんに声をかける。

「ちよちゃん、あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう。今年もよろしくね!なんだか嬉しそうだけど、いいことでもあった?」
「新年早々夢見が悪かったんだけど、ちよちゃんに会えたら何だか安心してね。」
「そうなんだ、どんな夢を見たの?」
「この間の動画をSNSにアップしたら、ちよちゃんがアイドルデビューして、手の届かないくらい遠くに行っちゃう夢だったよ。」
「…ほんとにそんな夢を見たの?」
「すごく現実味のある夢で、よく覚えてるから間違いないと思うよ。」
「そっか、それでその夢を見て不安になったってこと?」

そうちよちゃんに指摘され、自分がめちゃくちゃ恥ずかしいことを告白していると自覚した。
自覚してしまった。

「~~~~~~~~。」
「わっ!顔が真っ赤になっちゃった。」

言葉が発せず、恥ずかしさからその場でうずくまってしまった。

「(ボソボソ)」

ちよちゃんが何かを言っても、聞き取れないくらいには羞恥心にやられていたと思う。

その後、気を取り直して二人で初詣を済ませた。神様にはもちろん「今言ったことを忘れてもらえますように。」と必死にお願いをしたのは言うまでもないだろう。


1年生2月14日
世間はバレンタイン真っ只中。たしかに、ほんの少しだけ期待していた。ちよちゃんとも仲良くなってきて、ワンチャン義理チョコくらいはと思った邪な考えは、見事に打ち砕かれた。

本日、ちよちゃんは家庭の都合で休みとなっている。しかし、ここで諦めるわけもなく、他の男どもとの熾烈なあみだくじ争いを勝ち抜き、ちよちゃんの自宅にプリントを届けるという大役を手に入れた。

そして、ほんの少しの期待を胸にちよちゃんの家を訪問した。しかし、我々は失念していた。家庭の都合ということは、出かけている可能性が高いこと、そのため家を不在にしている可能性も高いこと。
この時はそんなことにも気づかず、ウキウキと千代浦家のインターホンを押して、在宅中のおばあちゃんから不在を告げられ、膝から崩れ落ちた男とは自分のことである。

まぁ、大げさに語った部分はあるが、バレンタインの日にちよちゃんがいないのは、どことなく寂しさがあった。
そんな様子を見た、ちよばぁちゃんが、「まぁ少し上がっていきんさい。」と言って家に招き入れてくれた。

お言葉に甘えて上がらせてもらう。

「ほれ、お茶出してやるからそこに座りなさいな。」

案内に従ってちゃぶ台の傍に座る。
そこにちよばぁちゃんがお茶とまんじゅうを持ってきてくれた。

「あんた、いつもちよと仲良くしてくれてた子じゃろ?ありがとうねぇ、ちよから話しは聞いてるよ。」
「こちらこそ、蝶美さんにはお世話になってます。」
「いつもみたいにちよちゃんでいいよぉ。あの子もそれを望んどる。」

「?、わかりました。」
何か違和感を感じたが、気のせいかと思い話しを続ける。

「あの子はこのお茶が好きでねぇ。よかったらあんたも飲みんさい。」

そう言ってお茶を勧められる。手元の琥珀色のお茶に口をつけると、香ばしい匂いと味が口に広がり、おいしかった。

「これ、おいしいですね。」
「そうじゃろ?ねこじゃらし茶じゃよ。あの子はこのお茶がほんに好きでなぁ。」

言われて驚く、ねこじゃらしって雑草のねこじゃらしだよな…。
気になったので、ちよばぁちゃんに作り方を聞く。

「なぁに、炒ってお湯で煮出すだけだよ。炒ったらふりかけにもできるからね。」
そう言って、「ふぇっふぇっふぇっ」と笑うちよばあちゃん。笑いすぎて入れ歯が口から飛び出してた。

「昔からあの子は無鉄砲というか、ドジというか、おっちょこちょいな子でねぇ。無事に友達ができるか心配してたけど、あんたみたいなボーイフレンドがおって、わしゃ安心したよぉ。アイドルになるっちゅう夢は、ちと揺らいでるみたいだが、あんたみたいな友達が支えてくれるなら叶えられるかもしれんのぅ。」

そう言って、お茶を一口すするちよばぁちゃんは遠い目をしていた。
それ以降は簡単な世間話をして、プリントを置いて、帰宅した。
翌日、ちよちゃんからプリントのお礼を言われた。

「そんな大したことじゃないよ。それにちよばぁちゃんにお茶ごちそうになっちゃったし。おいしかったってお礼伝えておいて。」

そうして、ちよばぁちゃんのお茶の話しから、実は施設住まいで、たまたま一時帰宅をしていたこと、両親は急な用事で、自分は夕食の買い出しでたまたまいなかったことを聞かされた。

「君が来てくれたから、おばあちゃんの一人になる時間が短くて助かったよ。一人にするのは心配だったけど、買い物はしなきゃいけなくて不安でしかたなかったんだ。ほんとーに、ありがとう!!」とお礼を言われ、普通では手に入らないバレンタインのプレゼントを貰ったような気がした。

2年生4月
無事に進級を果たし、今年もちよちゃんと同じクラスになれた。昼休みになり、時間も余ったので、今はちよちゃんと学内を散策している。

「そう言えばこうして学校の中を見て回ったこと無かったよね。」そう言って楽しそうに歩くちよちゃん。「な~にがあるっかな~♪」と、歌いながら進んでいる。

ちょうど中庭に差し掛かったところで、大きな木とその向こうに時計塔が見えた。

「そういえばちよちゃんは、あおぎり高校の伝説って知ってる?」
「うん、知ってるよ。女の子から告白して成立したカップルは永遠に結ばれる伝説の木と、女の子から告白して時計塔の鐘に祝福されると永遠に結ばれるって伝説と、場所は知られてないんだけど、裏門から延びる旧道のどこかに、坂の下の石塔と坂の上の社があって、その間の坂で、運命の日に桜の舞い散る中で愛を誓いあった二人は永遠に結ばれるっていう伝説だよね。」
「詳しいね。」
「そりゃ女の子だもん。こういうのに憧れるよね~。」
「ちなみにだけど、ちよちゃんならどの伝説が好きなの?」
「ん~。私は伝説の坂かなぁ。」
「へぇ、理由は?」
「フッフッフッ、君は伝説の坂に由来があるのを知っているかな?」
「知らない…。」
「なら聞かせてあげよう。」

そう言ってちよちゃんは居住まいを正した。その瞬間周りの雰囲気も厳かなものへと変化したように感じた。

「伝説の坂は、別名“恋人坂”って呼ばれてるんだけど、あの伝説には由来があるんだよ。時代は明治時代まで遡るんだけど、とある華族の娘と庶民の男が恋に落ちてしまったの。当時の風潮からすれば、結婚は家同士がするものでしょ?華族は華族と、庶民は庶民と、それが当たり前の時代で、そんな身分差を超えて二人は愛し合ってしまった。もちろん娘の家から妨害があり、男の家族は権力者に逆らえず協力できない。そんな状況でも、二人は諦めず、駆け落ちをしてこの地域まで逃げ伸びてきたんだって。でも、権力と言うのは本当に強くて、二人を捕らえるために何人も追いかけてきて、二人を追い詰めていった。いよいよ逃げ場が無くなってしまい、さらに娘が傷ついてやせ細っていく姿を見て、男は娘に生きてほしくて、身を引くことを決心した。“来世で一緒になろう”という手紙を残し、男は恋人坂の頂上の崖から身投げをしてしまった。翌日、遺体となった男に泣き縋る娘を見て、娘の家族は手を引き、坂の麓に男を供養するための社を建てた。娘はこの坂の上に社を建てて、そこで男への操を守って余生を過ごしたんだって。」

「へぇ、そんな悲しい話しがあったんだ。」

「そうなんだよ。それでね、この話には更に続きがあって、娘が亡くなった後この坂には不思議な力が宿るようになったんだって。“強い心残りがある恋人たちに奇跡を授ける”そんな伝説も残されているんだよ。ただ、この話しはあまりにもオカルトすぎて、誰も信じていないみたいだけど。」

「そういうちよちゃんは信じてるの?」

「私?もちろん信じてるよ。だから私は伝説の坂の話が好きなんだ。例えばだけど、もしかして引き裂かれた恋人の時間が巻き戻ってやり直せるとか、長年昏睡状態の思い人が目覚めるとか、そんな奇跡があるかもしれないじゃない。」

「でも、そんな奇跡は現実に起こりえないと思うんだけど。」

「かもしれないね。でも本当にあったら素敵だと思わない?」

そう言って微笑むちよちゃんの髪を風が揺らしていく。どこか大人びた表情を見せる彼女が、この時はなぜか年相応の女性には見えなかった。

2年生5月
大型連休の真っ只中、自分は今買い物に出かけたことをひどく後悔している。

「お兄さん楽しい場所があるんだ。時間は取らせないからさ、ぜひおいでよ!」

こんな感じでしつこいキャッチに捕まっているのだ。

「すみません。ツレが来るので。」

大嘘だが、断り文句の定番を言ってみる。

「なら、そのお友達も一緒にゴーしてエンジョイしちゃおうよ!」

こんな調子である。
さて、どうやって逃げようかと思案していると、

「お待たせ!遅くなってごめんね~。」

そう言って、ちよちゃんが登場した。どうやらこちらの状況を察して、助けてくれようとしているみたいだ。

「待ってたよ。それじゃあ行こうか。」

ちよちゃんとその場を離れようと試みる。

「おっと、お姉さんもかわうぃ~ねぇ~!良かったら彼と一緒にうちのお店においでよ~。」

めげないキャッチの男。ちよちゃんは違うところに引っかかったようだが。

「可愛いとか、彼とかって…。」

そう言いながら赤面してモジモジしている。手もモジモジと動いて、おもむろに買い物カバンの中からリンゴを取り出した。手の中でコロコロと転がしている。

「あらあら、可愛らしいカップルだ!二人のアツアツエピソードをお店で聞かせてよ!」
「やだ!カップルじゃないですってば~。ぐふふふふ」

照れたちよちゃんは、そのまま手の中のリンゴを

グシャァ

と、握りつぶしていた。
若い女の子がリンゴを軽々と握りつぶした様子に、さすがのキャッチの男もドン引きしたようで、「あ、用事あったの忘れてたわ!それじゃ~。」と言って、一目散に去っていった。

男の姿を見送った後、ちよちゃんに向き直る。

「ちよちゃんありがとう。助かったよ。でも、リンゴ潰しちゃってよかったの?」
「どういたしまして。気付いたらリンゴが潰れてたんだけど。今日食べる予定だったのにどうしようかな。」

握りつぶしたことは無かったことになったようだ。

「なら、助けてもらったお礼に買ってあげるよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。」

そう言って、二人でスーパーまでリンゴを買いに来た。二人してあーでもない、こうでもないと言いながら、おいしそうなリンゴを選ぶ。そんな様子に、何となくデートみたいだと思ってしまい、口角が自然と上がるのを感じた。

無事にリンゴを購入できたが、何となくこのまま解散するのももったいない気がして、二人で散歩しながらちよちゃんの家を目指す。

「そういえば今日はカメラを持ってるんだね。」

そう指摘され、首から下げている一眼レフのデジタルカメラを持ち上げる。

「うん、今日はこれのメモリーカードを買いがてら、写真を撮ろうと思ってね。で、写真を撮ろうとしたらキャッチに捕まって、さっきの有り様だったんだ。だから、ちよちゃんに声かけてもらって本当に助かったよ。」
「うふふ。助けになれたなら良かった。君にはいつも助けてもらっちゃってるからさ。」

そろそろ夕方という時間帯で、日が暮れ始めて周りが茜色に染まる中、ちよちゃんはそう言いながら数歩先に踏み出してこちらを振り返る。

「これからも、仲良くしてね。」
そう言って、ニカッといつもの笑顔を見せてくれる。

気付けば、何も考えずカメラを構えて、シャッターを押していた。

「あ、勝手に写真撮ったな~。」
そう言うちよちゃんだが、怒ってはいないようだ。

「ごめん、あまりに綺麗で思わず撮っちゃった。」
素直にそう応えると、

「そう言ってくれるなら、許そうじゃないか。まぁ、君に撮られるの嫌いじゃないんだけどね。」
そう言って可愛らしく笑いながら、首をかしげる姿は、まさしくアイドルだと思った。

2年生7月
今年も夏祭りの時期がやってきた。中間テストの追試も見事に回避したちよちゃんと今年は二人きりで夏祭りに来ている。去年のメンバーはクラスが違ってしまったり、恋人ができていたり、用事があったりと、全員都合が悪く、たまたまちよちゃんと二人だけで回ることになった。

屋台を冷やかしながら歩いていると、今年もイベントステージで、飛び入り参加型の“のど自慢大会”が開催されていた。

見学していると、運営席の方からおじさんが一人こちらに近づいてきた。

「突然すみません。去年のど自慢大会で優勝した、千代浦蝶美さんですよね?」

そう声をかけられる。

「はい、そうですよ。」
とちよちゃんが答えれば

「お願いします!今年も出場してもらえませんか!」
土下座でもしそうな勢いでお願いされてしまった。

事情を聞くと、去年ののど自慢大会を聞いていた一部の人が、ファンになっていたようで、「今年は出ないのか」という問い合わせが多数寄せられたんだとか。

そんな風に頼まれると、ちよちゃんは断れるはずもなく、
「私なんかでよければ、是非出場させてください。」
と、二つ返事で了承するのだ。

しばらくして、ちよちゃんの出番が来る。

今日も用意してきたカメラを構え、歌うちよちゃんをレンズにおさめていく。

「いくぜー!!!」
そんな掛け声と共に歌う姿は、ますますパワーを増しているようで、キラキラと輝いていた。

無事に歌い終わり、ステージを降りてきたちよちゃんを出迎える。

「お疲れ様。やっぱりちよちゃんのステージは楽しそうでパフォーマンスもキラキラとしてるよね。アイドルみたいで素敵だったよ。」

そう素直な感想を伝えると、

「本当に?めっちゃ頑張ったかいがあったよ~。」

ニカッと笑いながら、そう返してくれる。本当に嬉しそうで、こちらまで嬉しくなる笑顔だった。

「そう言えば、今年はカメラ持ってきてたね。やっぱり君にはカメラが似合うよ!」

そう言われた瞬間、去年の会話を思い出す。

(「そういえば、君はカメラの撮影が得意じゃなかった?」
「カメラが無いから、せいぜいスマホで撮影するくらいだよ。というか、撮影が得意って言ったことあったっけ?」
「あれ?そうだっけ?なんとなくそんな気がしただけかも。」)

今まで気のせいだと思っていたことも、考え出したら全てがおかしく思えてきた。

「去年もそうだったけど、ちよちゃんは何でカメラが趣味だって知ってたの?他にも普通に考えたら、ちょっと辻褄の合わない返事をしてる時もあったし。」

「あ、あはは…。そうだったっけ?」

そう言いながら、視線は泳ぎ、言葉に詰まっている。ちよちゃんは何か隠している、そう確信に至るだけの何かが、そこにはあるような気がした。

「ちよちゃんは、以前こっちのことを“一方的に知ってる”って言ってたけど、それって…」

「あちゃ~。さすがにちよっちゃったかなぁ。」

そういって、項垂れるちよちゃん。しかしそれも数秒のことで、すぐに顔を上げると

「説明させてもらっていいかな?ここだと話しにくいから場所を変えよっか。」

そう言って歩き出す。そんなちよちゃんの後を追って、自分も移動をするのだった。

お祭り会場から少し離れた神社の境内で、ちよちゃんと石段に座っている。会話は無く、気まずい沈黙だけが辺りを支配している。

そのまま永遠に沈黙だけが続くかと思われたが、

ドーン

という音とともに花火が上がった。二人とも花火に視線を奪われる。
花火の迫力に魅了されている横で、

「君はタイムリープって知ってる?」

突然ちよちゃんはそんなことを言い出した。

「そりゃ知ってるけど、それってSFの中だけのお話でしょ?」

そんな話しを切り出すのはどういうことか、何となく予想はついたが、あまりに現実離れしていて、思わず疑ってしまった。

「普通はそう思うよね。でも、タイムリープは現実に起こってる現象なの。現に私は数年後の未来からこの時代に来てる。そして…。」

嫌な間が空いている。ちよちゃんはしばらく迷った後、こちらを見てこう言った。

「たぶん君もタイムリープしてる。記憶は封印されてるみたいだけど。」
そうちよちゃんに言われた瞬間、以前起きたフラッシュバックがまた起きた。

見えた映像の中で、今より大人っぽくなったちよちゃんがアイドルをしており、その傍らでちよちゃんと話しをしている、マネージャーらしき自分がいた。
ただ、二人の関係はそれだけに収まりそうになかった。ちよちゃんが泣きながら何かを訴えている。自分はそれを受け入れ、ちよちゃんを抱きしめていた。

そこで現実に帰ってくる。

「…。ちよちゃんは未来でアイドルだった?」

「そうだよ。1年生のクリスマスにSNSで投稿された動画がきっかけで、BGっていう事務所から声がかかって、在学中にアイドルデビューしたんだ。だから君の見た初夢は、本当にあったことだよ。他に何か思い出した?」

「ちよちゃんのマネージャーをしていたけど、今のところはそれだけ。」

「そっか…。私からはこれ以上未来の出来事を話すことはできないんだ。君が思い出して確認してくれる分には答えられるんだけどね。」

ちよちゃんは何かに耐えるような表情でそう語る。

「君さえ良ければ、思い出せそうな場所に連れて行くことはできるよ。」
「知りたい。」

間髪入れずにそう返事をする。

「うん、私も思い出してほしい。それじゃあ、夏休みの間にいくつか思い出せそうな場所を巡ろうか。」

そうして、二人で未来を思い出すための小さな旅が始まった。

7月30日
最初は、ちよちゃんの在学中におこなわれたデビューライブの会場へ足を運んだ。丁度今日がその日だ。

思い出が蘇る。

「うぅ~。デビューライブ上手くいくか不安だよ~。」

そう言って不安そうに体を揺らすちよちゃん。
バックパスを貰って、楽屋に応援に来たが、不安感からナーバスになっているようだ。

「大丈夫だよ。あんなにアイドルになりたいって練習してたじゃん。入学の時のあの地獄のような歌披露から、すっごく練習してたじゃん。見てきたからこそ保障してあげる。ちよちゃんは必ず歌い切って、デビューライブを成功させられるよ。」
「そうだよね!君と一緒に努力してきたんだもん!絶対成功するよね。」

ここで現実に戻された。

8月1日
今日は、ちよちゃんが所属していたBGという事務所の近くに来ている。少し歩くと公園があり、そこに足を踏み入れた瞬間、思い出が蘇った。

帽子にサングラス、マスクも着けて完璧な“芸能人オーラ溢れる”変装をするちよちゃん。

「さすがにそれだとすぐバレると思うな。人間なんて単純なものだから、髪型変えてサングラスくらいで案外バレないものだよ。」

そう伝えると、ちよちゃんは髪型をポニーテールにし、サングラスだけにした。

「やっぱり、あからさまな変装はダメかぁ。」
そう愚痴をこぼす。

「そりゃそうだよ。っていうか、マネージャーとしては、あまり無防備に外を出歩いてほしくないんだけど?」
「たまにはいいじゃん。あおぎり高校にいた頃から、一体何年ぶりの再会だと思ってるの?たまには昔を思い出して、一緒にお昼くらい外で食べようよ。」

そう言ってお弁当箱を2個ぶら下げてアピールするちよちゃん。
こうやってお願いされると断りづらく、仕方ないと言い訳しながら一緒にお昼を食べることが何度かあった。実際自分もそういう状況を楽しんではいる。きっとまた社長にドヤされることは覚悟しなければ。

ここで現実に戻された。

次に、よくレコーディングで利用していたスタジオに行った。丁度利用客もいなかったので、見学ということで中を見せてもらう。

また思い出が蘇る。

自分がいるのは録音機材の操作室だ。ガラスの向こうの防音室で歌っているちよちゃんを眺めている。スタジオスタッフが音響を操作しつつ、ちよちゃんの歌を録音している。

ふと、向こうのちよちゃんと目が合う。いつものニカッとした笑顔でこちらに手を振ってくれる。高校生の頃から変わらない笑顔に、当時を思い出し胸が高鳴ってしまった。自分はマネージャーだと言い聞かせ、深呼吸をする。
スタッフがこちらを向いてニヤニヤしていたので、作業に集中するよう注意してあしらう。
ため息をつきつつ、自分の感情がどんどん抑制できなくなってきていることに、危機感を抱いていた。

ここで現実に戻された。

翌日
武道館へ足を運ぶ。敷地内に足を踏み入れた瞬間、思い出がフラッシュバックした。

「ねぇ、私ついにやったよ。こんな大きな箱で単独ライブできるくらい、人気出たよ!」

そう言って、興奮冷めやらぬ様子で話しかけてくるちよちゃん。

「すごいね、アイドルになりたいって高校の頃に言ってたけど、そこから数年でこんなに人気が出て、ついに武道館ライブまで出来るようになるなんて、もう一流のアイドルだね。」

手放しでちよちゃんを褒める。自分がマネージャーになるまでは、なかなか売れなかったちよちゃんだが、傾向や対策をちよちゃんと考えながら、二人三脚で頑張った結果がこうして現れると、感動もひとしおだ。
しかし、マネージャーとして釘を刺すことも忘れない。

「でも、ここがゴールじゃないからね。これからもこのレベルの人気を維持するために努力は続けなきゃ。」

「あはは、わかってるよ。でも今日ぐらい何も考えずに喜ばせてよ!それに、一応の目標は達成できたんだから、何かご褒美あってもいいと思うんだけどなぁ~。」

そう言いながらこちらのネクタイをクルクルと巻き取る。

「あ~、何か考えておくよ…。」

何を求められてるのかはわかっている。だが、言葉を濁すことしか出来なかった。

ここで現実に戻され帰ってきた。

夏休みの間中、ちよちゃんと二人で色々な思い出の場所を巡った。全てが未来の記憶を思い出せる場所ばかりではなかったが、それでもアイドルとマネージャーとして奔走していた、辛くとも楽しい思い出が多く思い出せた。どれも輝いていて、でもどんな思い出でもちよちゃんの視線はこちらを向いていて、その瞳の中に特別な感情が見え隠れしていた。
そしてマネージャーである当時の自分の胸中にも特別な感情が揺れ動いていたことに気付いてしまった。

2年生9月文化祭
今年の文化祭で、我がクラスは演劇をすることになった。しかもやるのは肉弾戦が得意な魔法少女もの。
主人公は、われらがアイドルちよちゃんである。
ちなみに自分は、雑魚戦闘員Bの役だ。

問題は劇の本番中に起きた。
派手な戦闘アクションを売りにした劇だったが、それが裏目に出てちよちゃんが転倒しそうになった。
近くで戦っていた自分が慌てて下敷きになり、ちよちゃんを抱きかかえて助けてしまった。
本来の台本にない動き、しかも悪役が主人公を助けてしまった。

ここからどう挽回すべきか迷っていると、悪の親玉役のクラスメイトが機転を効かせたアドリブを挟んだ。

「貴様!裏切ったな!」

ある意味悪ノリとも言う。
ここでちよちゃんもこの流れにのっかる。

「彼は正義の心に目覚めたんだよ!」
こうして、ちよちゃん&雑魚戦闘員B VS 敵軍団という構図になってしまった。

本来なら、ちよちゃんにやられて早々に退場する予定だった。そのシナリオに戻すため、本来味方である、悪の軍団にやられ倒れたフリをする。

ちよちゃんがこちらに駆け寄り、抱き起される。
「戦闘員B!あなたのことは忘れない、あなたの分も私は戦い抜くわ!」
ここでなぜか、一瞬だけフラッシュバックが起きた。

記憶の中では今と同じような体勢で、ちよちゃんが泣き崩れてこちらに縋りついているように見えたが、すぐに現実に戻された。

こうして物語は正規のシナリオに戻り、クライマックスを迎えた。
劇が終わり、会場からは盛大な拍手が送られ、無事に幕を閉じることができた。
しかし、不可解な未来の記憶が、頭の片隅にこびりついて離れなかった。

2年生12月24日
今年はちよちゃんからお誘いがあり、ちよちゃん、ちよばぁと一緒にささやかなクリスマス会をすることになった。

ささやかながらも楽しいクリスマス会を終え、そろそろ帰ろうかと言う時に、ふとちよばぁがこんなことを言った。

「そういえば、これくらいの時期になると、恋人坂へお参りに行く人が増えたもんさねぇ。今は藪で隠れちまってるだろうけど、あおぎり高校の裏手に獣道があってね、昔はそこの脇に雄社(おやしろ)って書かれた石塔が見えてたんじゃよ。で、そこから桜並木を抜けて頂上に行くとな、今度は雌社(めやしろ)が石塔と一緒に建ってるんじゃよ。昔は、誰か彼かが手入れをしておったが、今では放置されたままじゃろうのぅ。荒れてなければいいんじゃが。」

そんな話を聞いた後だったため、気になってしまい、あおぎり高校の裏手に周り、いくつかある獣道の脇の藪を探してみた。いくつか見て回っていると、藪の中に石塔があるのを発見する。
その石塔を見た瞬間、いつものフラッシュバックが起きた。

武道館ライブから数か月後のクリスマスイブ、イベントも終わりあとは帰宅するだけだったが、あおぎり高校の近くを通りかかったため、二人で昔を懐かしんで寄り道をした。
敷地の周りをぐるりと散策していると、いつの間にか高校の裏手に回っていた。
冬だからか、下草が少し枯れており、偶然石塔を見つけることができた。石塔には雄社と書かれている。

「ここって、伝説の恋人坂じゃない?」
そうちよちゃんが言う。近くの獣道は上に向かって伸びている。

「それっぽいよね、行ってみる?」
そう誘うと、ちよちゃんは二つ返事で「行く!」と言った。

二人で枯れた桜の木の並木道を進む。しばらく歩くと頂上にたどり着く。そこは視界が開けており、近くに石塔と朽ちた社が建っていた。石塔には雌社と書かれている。

「へぇ~こんなところに恋人坂があったんだ。」
ちよちゃんはぐるりと辺りを見渡している。

「ねぇ、少しだけ戻ってみない?」
突然、そんな提案をしてきた。何となく、何を狙っているのかわかったため、黙って一緒に坂の途中まで戻る。

「私ってさ、高校中退になっちゃったじゃない?本当はさ、ちゃんと卒業したかったんだよね。あ、でも夢が叶ったから、後悔してるわけじゃないよ?ただ、ちゃんと最後まで君と通って、卒業式の日にここで告白したかったなって思っただけ。」

「でもアイドルって恋愛禁止なところが多いから、BG事務所も恋愛禁止だし。それはできなかったかもしれない。」
マネージャーとして、最後の悪あがきをしてみる。

「でも、事務所によっては、大丈夫なところがあるし、何よりこんな激しい感情を抑えておくのは、私には無理かな~。」
「だから、この間のご褒美、ここで貰っちゃおうかな。」
そう言っていつものニカッとした笑顔を見せてくれる。
それに対して、何も言うことができなかった。

「私は高校の頃から君のことが好きだよ。アイドルとしてデビューしても、伝えられなかったこの感情が、ずーっと燻ってた。たぶんそのままだったら、私は途中でダメになってたと思う。君がマネージャーとして来てくれたから、ここまで来られたんだよ。でもね、この気持ちはもう抑えられない。だから私のマネージャーじゃなくて、恋人になってほしいな。」

ちよちゃんの告白。高校の時に叶えられなかった想い。いつまでも心を蝕む感情。そういったものを抱え続けたちよちゃんの本音。それを受けて自分はどう応えるべきなのか、あの武道館ライブの後からずっと考えていた。その結論は…。

2年生2月14日
ちよちゃんから、「雌社に来てね。」という連絡があった。場所がわかっているので、獣道から入り、桜並木を登っていく。頂上にたどり着くと、見慣れたピンクのツインテールが揺れていた。

待ち人の背中に声をかける。

「お待たせ。」

ちよちゃんが声に反応して振り返る直前に、またフラッシュバックが来た。

クリスマスの告白の後、ちよちゃんと恋人になった。それで浮かれていたのだろうか、お正月を迎えた頃に週刊誌にスクープされてしまった。そこからが地獄の始まりだった。

自分はマネージャーという立場で表に出ない分マシだった。ちよちゃんは、ファンに叩かれ、炎上し、ついには事務所から別れるか、それができないなら解雇するという最終通告を受ける。

もちろんこちらにも、事務所から通告がきた。ただしその内容は…。

「私がどうにかするから心配しないで。」
自分が大変なはずなのに、いつもそう言ってこちらを安心させようとするちよちゃんが、日に日に憔悴していき、傷つき、ついに限界を迎えそうになる姿は見ていられなかった。

そんなちよちゃんの様子に、ひとつの決意を固めるのは自然な流れだったのかもしれない。

準備を進め、全てが完了したのはバレンタインの日だった。
ちよちゃんとの思い出がある恋人坂を進む。
ちよちゃんと過ごした高校生活や、マネージャーになってから一緒に歩んだアイドル活動、その一つ一つが素敵な思い出で輝いていた。

どこで判断を間違えたのか

ちよちゃんと結ばれてはいけなかったのか

そんな事をグルグルと考えていると、あっという間に頂上へたどり着いてしまった。
頂上にある雌社の裏は切り立った崖になっている。その淵に立ち、下を見下ろす。その高さに足がすくみそうになった。
崖の近くに手紙を置き、脱いだ靴で抑える。

一度、崖から距離を取り

大好きなちよちゃんのあの笑顔を思い出してニカッと笑う。

そして決心が鈍らないうちに助走をつけて…。

そして現実に戻ってきた。

「その様子だと思い出したみたいだね。」

こちらを覗き込むように見てくるちよちゃん。
その表情は、こちらを心配して気遣ってくれているのがよくわかった。

「そっか、ちよちゃんを守りたくて、未来ではそんな決断をしてしまっていたんだね。」

今思えば、なぜちよちゃんを一人残すような決断をしてしまったのか。と考えてしまうが、あの時はそれ以外に選択肢が無かったのも事実だった。

「次の日にニュースを聞いて駆けつけた時には、もう手遅れだった。君の、文字通り命がけの献身のおかげで、アイドルに戻れそうだって事務所は言ってたけど、君を失ったことで私はアイドルを続けることが出来なくなってしまった。そこからは後悔の連続。どうしてもっと早くアイドルを辞める決断が出来なかったのか、って悩み続けてた。そんな後悔を抱きながら、少しでも君の近くにいたくて、縋るようにこの坂へ何度も通ってた。そんな日を繰り返してたら、気付いたら入学前の3月のこの坂にたどり着いていた。タイムリープの仕組みはわからないけど、私は過去を取り戻すチャンスだと思ったよ。そこからの出来事は君も知ってのとおりだね。」

「ちよちゃんは過去を取り戻せたのかな?」

「どうなんだろ?それは今の私では判断できないかもね。私は未来に生きている人間で、今を生きるのはこの時代の私なんだから。」

ちよちゃんの言葉に、嫌な予感がして思わず聞き返す。

「そろそろ終わりが近いってこと?」

「終わりじゃなくて、元に戻るだけ。終わるのは恋人坂の伝説がくれた、奇跡の時間だけだよ。」

「ちよちゃんと作り上げた思い出は?一緒に過ごした時間はどうなるの?」

「きっと無しにはならないよ。でも、君なら私と一からやり直しても大丈夫だと思うけどね。」

「そっか、ちよちゃんは未来に戻ったらどうなるのかな?」

「それは私にもわからないかな。」

「えっと、他に話しは…。」
少しでも終わりを引き延ばしたくて、話を探す。

「名残惜しいけど、そろそろ時間が来たみたい。未来が変わったのかわからないけど、君といた時間はやっぱり素敵でかけがえのないものだったよ。本来の私に戻っても、仲良くしてくれると嬉しいな!」

そう言ってちよちゃんのツインテールが解けた。
突然のお別れに涙が溢れてしまい、少し目を閉じていたが、しばらくして目を開けるとちよちゃんと視線がぶつかる。

「ん?こんなところでどうしたの?」

さっきまでいたちよちゃんとは、別人だということがすぐにわかった。でも、同じ人物だということも理解できた。
未来のちよちゃんが言っていたように、元に戻ったちよちゃんとも変わらず仲良くしていこうと思った。だって、こんなにも彼女のことが好きなんだから。

「なんでもないよ。ちよって迷子になったかも。」

そう言って、彼女にならってニカッと笑う。
そうすれば、

「なーんだ、君もちよることがあるんだね。」
そう言って、彼女もニカッと笑ってくれるんだから。

その後は二人で帰った。今日だけは未来のちよちゃんに思いを馳せながら、明日から今までみたいに仲良く過ごせるように祈りながら。

3年生4月
ここまでちよちゃんの様子を見てきたが、未来の自分が入っていた時の記憶は、自分が体験したこととして引き継がれているようだ。ただし、その時の感情までは追いついていないようで、例えるならテレビで他人の人生を追体験したようなものだろうか。
しかし、あれ以来ちよちゃんがツインテールにすることは無かった。

3年生に無事進級し、今年もちよちゃんと同じクラスになれた。
元のちよちゃんに戻ってもすることは変わらず、いつも一緒に下校したり、たまにクラスのみんなや、二人で出かけて遊んだりしている。

楽しそうにしているちよちゃんを見て、この笑顔を守りたいと改めて思った。

3年生5月
大型連休になった。今日はちよちゃんを誘って出かけている。目的は以前お世話になった軽音部OGの先輩が、路上ライブをすると言うので、その応援に駅前に行く予定だ。

先輩を見つけたので、二人で近づく。

「おや?お二人さん、こんにちは。相変わらず仲良しカップルだね。」

相変わらず先輩はからかってくるが、

「そんな、カップルだなんて。デュフフフフ」

ちよちゃんも相変わらずのようだ。

「で、先輩。今回ちよちゃんを呼んだってことはやっぱり?」

「そうだね、ちよみ君に今回も歌ってもらえると、私としても嬉しいんだけれど。」

そう言って、二人でちよちゃんを見る。

「私で良ければ、喜んで歌わせてもらいますよ。」

ちよちゃんは意気込んで返事をする。
そんな様子を微笑ましく思いながら、路上ライブは始まった。

今回は事前に準備ができたため、カメラに指向性マイクと風防をつけて動画を撮るようにしている。ちよちゃんのパフォーマンスの様子を残さず撮影していくためだ。

先輩の演奏に合わせて、歌って踊るちよちゃんは衆目を集め、あっという間に人垣を作り上げていた。

演奏を重ねるたびに、会場のボルテージが上がっていく。

どこからともなく振られ始めるピンクのサイリウム。
それが見せた幻覚なのか、観客から蝶と虹が飛び交い、緑の看板で“メンシギフト、蝶内会へようこそ”という文字が見えたような気がする。

未来をフラッシュバックしすぎて、幻覚でも見えるようになってしまったのだろうか?
一瞬の後には、サイリウム以外見えなくなっていた。

路上ライブはあまりに盛り上がりすぎて道路を塞いでしまったため、早めに解散することになってしまった。
名残惜しそうな先輩とちよちゃん、観客のみんなを見て、いつか大きな箱で気兼ねなくライブをさせてあげたいと思った。マネージャーという言葉が脳裏をよぎる。

機材の片づけを手伝った後、ちよちゃんを自宅まで送り届ける。

「実は今日親がいないんだよね…。」
ちょっと意味深な感じでちよちゃんが言う。

「良かったら寄っていく?」

まさか、これは薄い本でよく見た展開に…。

「独りぼっちは寂しいから一緒にご飯を食べてくれよぉ~!」
そんな事は無かった。

あまりに泣きつくので、夕食だけ一緒に食べることになったのだが、

「あれ?…ない。え?噓でしょ。お金…なーいー!まさか落とした!連休中の食費がー!ちよったー!」
最寄りのスーパーで食材を買おうとしたら、お金がないことに気付くちよちゃん。

「大丈夫?食材費くらい出すよ?」
そう声をかけるが、ちよちゃんはすぐさま立ち直り

「だいじょーぶ!他に方法あるから任せてよ!」

そう言って食材を買わずにお店を出る。そして帰り道の途中で、雑草を摘みはじめた。

「まさか、それを食べるの?」
「うん、そうだよ!何かあった時のために、食べられる野草を調べておいたんだ。ねこじゃらしのふりかけも美味しいけど、お腹に溜まらないからね。今日は二人分摘んでいかなきゃ。」

そう言って楽しそうに雑草を摘んでいる。
さすがにちよちゃん一人に任せるのも申し訳なかったため、教えてもらいながら一緒に摘んでいく。
中には毒性のある雑草もあるから、食べるなら良く調べてから自己責任でねと言われてしまった。
まぁ、ねこじゃらし茶も美味しかったし、意外と野草も悪くないのかも。

そんなことを思っていた時期がありました。

雑草料理は、意外と食べられるものも多かったが、基本的にはそこまで美味しいものではなかった。ちよちゃんは、これを連休中ずっと食べるつもりなのか。

さすがに不憫だと思い、連休中は毎日食材を持ってちよちゃんの家に通った。
最終日には、「うぅぅ、助かったぜ〜。ありがとな!最後は昆虫食べるしかないと思ってたよ。」と、男前なお礼を言われた。
こんな変な形ではあったが、ちよちゃんを助けられて良かったと思う。
むしろそう思わないと、何か大事なものを失うような気がした。

3年生6月
そろそろ受験が本格化する気配に、受験生はビクビクと恐れおののいている。かくいう自分もその一人だ。
ちなみに、今隣で座っているちよちゃんはというと、

「うぉぉぉぉ…。」
地の底から響いてきそうな唸りを上げている。

「やっぱり理系は苦手だよぅ。こんなバカのままだったら、この厳しい受験戦争に生き残れないじゃないか。どうしよう、ぴえんぴえん」
「深刻な悩みの割には、余裕そうだね。」
「そうでも言わなきゃ、不安に押しつぶされちゃうよー。」

確かにそうだろう。毎年、理系のテストはかなり対策をしてギリギリ通過できるくらいなんだから。

「でもね、今年はすごい案を思いついたんだ!図書館だとできないから、この後私の家に集合ね!」
そう言って、ニカッと笑いながらあっという間に帰って行ってしまった。

勉強で疲れた時用にミルクチョコでも差し入れるか。

コンビニで差し入れを買って、ちよちゃんの家に上がらせてもらう。

「で?すごい案ていうのは何なの?」

さっそく本題を切り出す。

「私バカだから頭で覚えるのは苦手なの。」
「いや、そんなことはないと思うけど。」
「でもね、体で覚えるのは得意なんだよ!」
「ふむ、それで?」
「そこでこちら!」

じゃじゃーんという効果音を自分で言いながら、2枚のお皿に乗ったプチシューを取り出した。
「こちらのプチシューはなんと、ロシアンシューとなっております。」
「ほうほう」
「こちらを利用して、君には理系の2択問題を出してもらいます。そして正解には甘いシュークリーム、不正解にはこのジョロキアかデスソースの入ったシュークリームを置きます。」
「ふむふむ」
「で、私がそれを食べて不正解なら辛さで悶絶するから、嫌でも正解を覚えられると、こういう完璧な勉強法なのです!」

「なるほど…。バカなの?」

「ひどい!いいの、これで出来るようになるはずなんだから!」
「ま、まぁちよちゃんがやる気出るなら良いと思うけど、確か辛いのめちゃくちゃ苦手じゃなかったっけ?」
「だから良いんだよ!苦手な食べ物も克服できて、苦手な科目も克服できるとか、もう天才の発想でしょ。」

苦手on苦手って苦手の相乗効果で、もはや苦手が渋滞してるというか…。まぁ水はさすまい。

ちよちゃんのやる気を応援するため、黙ってシュークリームをそれぞれの解答に見立てた皿に置く。
「それじゃあ、第1問いくよ」

こうしてちよちゃんの地獄の特訓は始まった。

辛いシュークリームに悶絶しながらも、本人のやる気だけで正解率が上がってきた。
そして、用意したシュークリーム的にも最後の1問となった。

ちよちゃんが唇を真っ赤に腫らしながら、正解の皿からシュークリームを取る。
こちらでは、密かにガッツポーズを取る。
そして、そのシュークリームを口に入れた途端

「正解なのに何で辛いのー!」そう叫んでちよちゃんは気絶した。

置き間違えてしまったかと思い、ハズレのシュークリームを一口かじってみると、中身はデスソースだった。

まさかの両方とも激辛シューというオチに、どこまでも“ちより”の波からは逃れられないのだなと思ってしまった。

すまぬちよちゃん…。ミルクチョコレートお供えしておくね。合掌

3年生7月
毎年恒例の夏祭りがやってきた。今年もちよちゃんと二人で来ている。
しかし、なぜかちよちゃんはソワソワして、落ち着かない様子だ。

「落ち着かないみたいだけど、どうしたの?」
「え?あはは、バレちゃった?いや~、今年はのど自慢の運営さんに捕まらないようにしたいなぁと思って。」
「今年は歌わないの?」
「うん、他にしたいことがあるから、今年はいいんだ。」

そんな話しをしていると、離れたところから

「千代浦さーん!今年ものど自慢お願いしますよー!」と、大声で呼ぶ男の人がこちらに向かってきていた。

「やば、見つかっちゃった!」
そう言って、ちよちゃんに手を引かれ走り出す。
「ごめんなさーい!今年は出られませーん!」
そう言って、あっという間に人混みを抜け、会場から少し離れた神社の境内に移動してきた。
この神社はよく覚えている。去年、未来のちよちゃんから、タイムリープの事実を打ち明けられた場所だ。

お互いに走って乱れた呼吸を整える。

落ち着いた頃にちよちゃんが話し始めた。
「今年は、ここで君とゆっくり花火が見たかったんだ。」
そう言って微かに微笑む。
それと同時に花火が上がり、辺りを照らし出す。

「君と過ごした去年までの2年間の記憶はあるんだ。」

突然そう切り出される。

「ただね、君と楽しく過ごしてたはずなのに、そこに楽しい気持ちが無いんだよ。」

ちよちゃんにそう言われ、厳しい現実を突きつけられたように胸がズキリと痛んだ。

「でも、その思い出を振り返るたびに、君は私にとって大事な人なんだって、すごくよくわかるの。不思議だよね、他人事みたいなのにすごく理解できるのって。君はいつでも私を助けてくれる。傍で支えてくれてる、だからそんな君が私は…。」

そこで一際大きな花火が上がり、全ての音をかき消した。

「…あはは~。こんな肝心なところでもちよっちゃうか~。」
「ちよちゃんが何を言おうとしたのか、詳しくはわからない。でも、たぶんそれを決めるのはまだ早いんだと思うよ。」

嘘だ。本当は何を言おうとしたのかわかってる。でも、ちよちゃんが確信を持てないのに言ってほしくないと思った、自分のエゴで止めただけだ。

「でも、私の中でアイドルになりたいって夢は、すでに“なりたかった”に変わってしまってるんだよ?そうしたら、私に残るものって何なんだろうね。」

そう言って、ちよちゃんは寂しそうに笑う。

「本当にそうなの?何かに引きずられてるってことはない?」

本当はちよちゃんがアイドルになった後の結末を知っている。でも、未来のちよちゃんが過去を変えようとしたみたいに、未来も変えていけるはずだと信じている。
なら、そんな悲しい未来の記憶に影響されて諦めるなんて、バカバカしい話じゃないか。きっと本来のちよちゃんなら、いつもみたいにニカッと笑って諦めないと思うんだ。

でも、それを本人に伝えることは混乱させるだけだから、ならばせめて傍で支えてあげよう。

大型連休の時でもあんなに楽しそうに歌ってたちよちゃんが、アイドルの夢を捨てられるとは思えないから、あの不幸な未来を回避する方法を見つけるしかない。
そう覚悟を固めるには十分な出来事だった。

3年生9月
文化祭が今年もやってきた。我がクラスでは、今年も1年生の時と同じで屋台を出しつつ、Mr.&Ms.コンテストに出場することとなった。
出場するのはちよちゃんと、何故か選ばれた自分だ。

ちよちゃんから、「相方は君以外ありえないからね」と言われた日には、断れるはずもなかった。

そしてコンテスト本番の時間が来た。
投票用のペア写真はそれぞれで撮影し、お互いの衣装は直前まで秘密にされた。

ステージに送り出され、反対側の袖から出てきたちよちゃんを見る。
アイドルのような華やかなピンクと白と黒のドレス。紫の蝶ネクタイが良いアクセントになっている。腰を横に揺らせば、合わせて揺れるスカート。先端がハートマークになっているベルトも揺れる。
まるで、“アイドル千代浦蝶美”がそこにいるかのようだった。
ちなみに自分はというと、昭和の男性歌手のようなタキシード姿で、ちよちゃんと並ぶことでギャップを演出している。
予定ではここでちよちゃんと手をつないで、一周回る予定だったが、観客がたくさんいることと、何故かこちらを見て鼻息荒く興奮しているちよちゃんによって、お姫様抱っこをされ、走り回られるハメになった。

あまりの恥ずかしさに顔を両手で覆ったのは言うまでもない。

そんな男女逆転のギャップによる面白さや、可愛らしいちよちゃんの人気があり、見事コンテストは優勝することができたのだった。

3年生12月24日
ちよちゃんから「学校に集合ね!」と呼び出しがあった。世間はクリスマスイブなのに、なぜ学校なのか疑問に思いながら、急いで支度をして向かった。
集合場所は学校の裏手で、獣道のような細い道の手前にちよちゃんはいた。
近くの藪に“雄社”とかかれた石塔が見える。どうやら、ちよちゃんが枝をどかして見えるようにしたようだ。

「ここが伝説の恋人坂っぽいんだよね。上に雌社があったら当たりだと思う。」
そう言って坂を上り始める。

もちろんここが恋人坂だということは知っているが、ちよちゃんがここを探し当てたのも何かの運命だと思い、何も言わずそのまま後ろをついていく。

藪があるのは最初だけで、しばらく進むと開けた桜並木の道になる。坂を登り切った先には、綺麗に手入れされた小さな社があった。その近くには“雌社”と書かれた石塔が建っている。
社には蜘蛛の巣が張ったりしているが、割と最近まで手入れがされていたようだ。
ちよちゃんは、社の先にある崖まで行き、景色を見渡している。
その後ろ姿を見ながら、未来の自分のような決断は絶対しないと、改めて心の中で誓った。

「…やっぱりそうだったんだ。」
景色を見終わったのか、ちよちゃんが言葉をこぼす。

「どうかした?」
「ううん、色々と思い出しただけだよ。私は、ここのこと知ってたみたい。」

未来のちよちゃんの笑ってる顔が思い浮かぶ。
「…そうなんだ。」

「そっか、そうだったんだ。だから私のこの気持ちも…。」
「大丈夫?」

ちよちゃんの様子に不安になり、声をかける。タイムリープの影響とかが、今頃出たのだろうか。

「大丈夫、だいじょーぶ!色々と疑問だったことに納得しただけだから!」
そう言った後、「もう用事は終わったから帰ろっか。」と言って坂を下り始めた。

帰り道では、なぜかいつも以上にちよちゃんの距離が近かった気がした。

3年生2月5日
今日はちよちゃんの誕生日だ。
過去の2年間はタイミングが合わず、プレゼントも渡せなかった。
今年こそはプレゼントを渡すため、学校の玄関でアイドルの出待ちをするかのごとく、ちよちゃんのことを待っている。

しばらくして、ちよちゃんが出てきた。声をかけるタイミングを図っていると、向こうから気付いてこちらに来てくれた。

「もー、一緒に帰ろうと思ったのにいないから探したじゃんか。」

そう言って、少しご立腹である。

「あ、ごめん。先に玄関で待ってるって言うの忘れてた。」

緊張して、自分もちよちゃんのことを言えないくらいちよってるなと思った。

「うふふ、こうして見つかったから別にいいよ。」

何でも許してくれる優しいちよちゃんに惚れなおしそうだ。

「で、何で先に玄関に来てたの?」
「実はこれを渡そうと思ってて。」

そう言って一つの包みをちよちゃんに渡す。

「これは?」
「誕生日プレゼントだよ。」

そう伝えると、ちよちゃんは微笑みを浮かべ、包みを大事そうに抱きかかえた。

「開けてもいいかな?」
「いいとも~」
「なにそれ」

そんな冗談を言いながら、ちよちゃんは包装を解いていく。
中からはピンクの髪留めが2個出てきた。

「可愛い髪留めだね。」
「ずっと髪を下ろしたままだけど、そろそろ上げても良いのかなって。それにほら、ちよちゃんは何となく髪を結んでないと落ち着かないっていうか。」
「そっか、ずーっと忘れてたけど、私髪を結んでたよね。ありがとう早速着けさせてもらうね。」

そう言って、ツインテールに髪を結ぶちよちゃん。この日から、また以前のような髪型に戻ったのだった。

3年生2月14日
世間ではバレンタインデーだが、彼女もいない自分には縁のない日だと思っていた時期がありました。
早朝にちよちゃんから「助けて〜」と一言だけのチャットが届いた。
何か一大事でも起きたのかと思い、慌ててちよちゃんの家に駆けつける。
家に行くと、何かの液体でずぶ濡れなちよちゃんが出てくる。

「手作りチョコにしようと思ったんだけど、中にフルーツ果汁を入れようと思って。でもミキサーがなかったから、手で絞ってたら爆発してかかっちゃった。ぴえん」そう言って泣いている。

ちよちゃんには着替えに行ってもらい、その間にキッチンの掃除をする。砕け散った果肉や果汁が、ちよちゃんの握力のすごさを物語っている。
しかし、ミキサーがないからって手で潰すかね。そう思い、でもそんなところがちよちゃんぽいなと思い至ると、思わず苦笑が漏れてしまった。
「家からミキサー持ってくるから、戻ったら足りないフルーツとか買い足しに行こうか。」

ちよちゃんに声をかける。

「ありがとー。いつもごめんね。」

謝るちよちゃんに

「むしろいつも通りで安心してるよ。」

そう返答して、ミキサーを取りに一旦帰宅した。

ミキサーを持ってきてからは作業も早く。
夕方頃にはチョコが完成した。

「今日はありがとうね。渡す相手に助けを求めて一緒に作るって言うのも変な感じだけど、これ良かったら食べて。」

そう言って、包装された本日の努力の結晶を渡される。

「それなら一緒に食べようよ。せっかく一緒に作ったんだしさ。」

包装紙を開け、その場でちよちゃんにもチョコを渡す。

二人で食べて、「美味しいね」と感想を言い合う。そんな時間がなんだか幸せで、この先も続いたらいいのにと思っていた。

3年3月
今日は卒業式だ。
式典が終了し、クラスメイトと別れを惜しむ。彼らとも、たくさんの思い出ができた。
友人たちとの挨拶も終わり、机に荷物が残っていないか最後の確認をする。
机の引き出しを探っていると、中から手紙が出てきた。
手紙には短く、「恋人坂でお待ちしてます。」とだけ書かれていた。差出人は不明だが、誰が出したのか予想はついていた。
急いで教室を飛び出す。

満開の桜並木を駆け登る。

坂の途中に見慣れたピンクのツインテールを見つける。
桜の色と混ざり、まるで妖精のように見えた。

「お待たせ。」

息を切らせながら、後ろ姿に声をかける。

「思ったより早かったくらいだから、そんなに待ってないよ。」

そう言って、ちよちゃんはこちらを振り返った。

「来てくれてありがとう。君にどうしても伝えたいことがあるんだ。」

そう前置きをして、ちよちゃんは話し始めた。

「夏祭りの日に話したこと覚えてる?3月頃から、突然沸いた感情に戸惑って、恋心かもって思ったけど、確信が持てなくて、でも君と過ごしていれば恋心を抱くなんて当たり前のことだったんだよね。君はいつでも私の味方で、何を犠牲にしてでも私を守ろうとする人。でも、それが行き過ぎれば私は取り残されることも知ってる。12月にここに来た時に全部思い出したよ。」

そう言って、こちらを見るちよちゃんの目には、確かな覚悟があった。

「だからもう間違えない。何を優先するべきなのかわかってる。」

一歩こちらに近づく。

「私の気持ちに応えてくれなくてもいい。一度はあなたを見殺しにしてしまった私だから、あなたが元気で生きてくれるならそれでいいから。」

そう言いながらちよちゃんは泣きだしてしまった。

そんなちよちゃんの手を握る。顔が上がり視線がぶつかる。

「元気に生きてほしいなら、その笑顔を守らせてほしい。嫌なら跳ねのけていいからね。」

そう言ってちよちゃんを抱きしめる。

「そんな、ずるいよ。フラれてもいい覚悟してたのに、揺らいじゃうじゃん。」
「そんな覚悟はいらないよ。ちよちゃんだから一緒にいたいんだ。」
「我慢してたのに、そんなに私をちよらせたいかなぁ。」

苦笑いをこぼしている。

「…あなたが好きです。アイドルの夢を追いかけるより、あなたと共にあることが私の一番の望みです。」

ちよちゃんのありったけの感情を込めた告白。そんな思いを伝えられたら答えは一つしかない。

「ちよちゃんのことが好きです。でも、夢は諦めてほしくないかな。」

そう言って、とある紙をちよちゃんに見せる。
“採用通知 株式会社クリエイト〇ング”と見出しの書かれた内定通知を見せる。その中には、アイドルデビューの概要と、恋人がいる場合は初めから告知する。の一文が添えられていた。

「これで同じ悲劇は繰り返させない。二人で夢を叶えるために頑張ろうよ。」
「君は、本当に、信じられない!なんで、どうして」
「GWの路上ライブ映像をここの事務所に持ち込んでみたんだ。社長さんが優しい人で、ちよちゃんとマネージャーの二人セットで採用してくれるって。」
「夢も君も諦めなくていいの?ちゃんとその未来に行くことができるのかな。」

時間の針が止まった未来のちよちゃんは、過去を変えるために頑張ってた。未来へ帰って、本来のちよちゃんが戻ったけど、やっぱりちよちゃんはちよちゃんで、魅力溢れる元気な女の子だった。本質は何も変わっていない。

そして、確かに過去は変わっている。ならば未来だって変えられるはずだ。

「二人で頑張れば、絶対大丈夫だよ。」
そう言って、きつくちよちゃんを抱きしめた。
彼女もいつもの、ニカッとした素敵な笑顔を見せてくれる。

桜の花が盛大に舞う。遠くから男女の祝福する声が聞こえた気がした。

これから大きな困難が待っているかもしれない。それでも二人でなら今度こそ乗り越えられる。
恋人坂の伝説を信じるなら、二人は永遠に結ばれるのだから。

fin





あとがき

みなさま長らくお待たせしました。

そして間に合いました!
2022年11月11日は千代浦蝶美さんの新衣装お披露目3Dライブ記念ということで、何とか間に合わせようと頑張りましたwww

ということで、今回は千代浦蝶美さんのSSを書かせてもらいました。

解釈違いで蝶内会にぶっ叩かれないかと思い、冷や冷やして全然SSが進みませんでした、ごめんなさい。
フィクションなんでその辺は、生暖かい目で見てもらえると嬉しいなぁ。とか言ってみたり。
でもね、じっくり取り組ませてもらえたおかげか、ちよちゃんらしい素敵なお話が書けたんじゃないかと思ってます。

でね、今回は今までとテイストを変えて、時間遡行モノのSFチックなお話に仕上げました。(某時かけガールのお話はまったく参考にしてません。)

理由としては、ちよちゃんは特にあおぎりメンバーの中で属性モリモリの子なので、せっかくなら非現実的な設定も似合うだろうと思って、他のメンバーよりも、よりドラマチックに仕上げようと思った次第です。

チャレンジ精神豊富なちよちゃんを見習って、新たなスタイルに挑戦してみて、書き手として一つ成長できたような気もしてます。

え?気のせいだって?
少しはうぬぼれさせろいwww

自分の書いた物語ながら途中で泣いちゃって、書くの辛いくらいだったけど、読んでくれる皆さんがいると思うと、ファンのために頑張る推し達のような気持ちでSSを書きあげることができました。

ちなみに、気づいてる人は気づいてるかもしれませんが、今回は例のときめきメ〇リアル3の伝説の坂の話からも離れてるんです。

坂っていう設定だけ残して、それ以外はまったくオリジナルです。雄社、雌社なんて無いですからね。

さて長々とあとがきを書くのもあれなんで、今回もこの辺で!
残るあおぎりメンバーはあと2人!
ちょいちょいアフターとかアナザー書いたりしながら仕上げていこうと思うので、気長にお付き合いください。

それではみなさん、おつちよ~

2022年11月10日

づにあ

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