【あおぎりメモリアル】たまこあふたー

あるアパートの一室
鳥の鳴き声が聞こえ、カーテンの隙間から朝日が差し込む。
光が瞼を焼き、まどろみの中から意識が浮上していく。
瞼を開け大きく欠伸をすると、眠気に負けそうな頭を覚醒させる。

体を起こし、ベッドを見渡す。
相変わらず隣には誰もおらず、こうして1人での起床はいつもの光景だ。

朝の空気を吸い込み吐き出すと布団をめくる。

「うーん…」足元の方からうめき声が聞こえたので視線を向けると、そこには、体を丸めて寝ている魂子がいた。

魂子はいつも寝相が悪く、だいたい朝は足元で猫のように丸くなって寝ている。
そんな姿を微笑ましく思いながら、頭を撫でる。
「んふっ」なんか変な声出してる。
そのまま顔に手をおろして頬を撫でる。
「ふへへぇ・・・。」なんの夢を見ているんだか。

さらに手をおろし今度は首筋をさらりと撫でる。
「んっ・・・。」ちょっとセンシティブな声が出た。
これ以上は自分の理性も危険と判断し、戦略的撤退、もとい朝食を作りにベッドを抜け出し、キッチンへ向かう。
本日の朝メニューは、魂子から「朝マックみたいなのが食べたい。」と催促があったため、リクエストに答える形で準備する。
マフィンを焼いて半分に切り、型に入れて焼いた目玉焼きと、こちらも一緒に焼いたベーコンを挟む。味付けは有塩バターとケチャップのみだ。付け合わせに、冷凍のハッシュドポテトを解凍して油で加熱する。オーブンではスティック状のアップルパイを焼いている。
全部用意できたところで、魂子のトロピカルジュースを用意し、自分のコーヒー用に湯を沸かす。

お湯が沸くまでの間に、魂子を起こすとしよう。

寝室に戻ると、魂子は仰向けになって大の字で寝ていた。ちょっとよだれをたらしていて可愛らしい。
軽く肩を叩くが、身じろぎをするだけで起きる気配がない。
ここで少しいたずら心が芽生えてしまった。
耳元に口を寄せ、大好きとささやきながら、耳に息をふぅっと吹きかける。
「う〜ん…」とうめき声があがるものの、起きる気配はまだまだ無さそうだ。

あまりに起きないので、この際キスしてやろうかと思って魂子の顔に近づくと、パチッと眼を開け視線がぶつかる。
あまりにびっくりしすぎて固まってしまった。
その隙に抱きつかれ、捕獲されてしまった。

「な~にをしようとしてたのかな~?」ニヤニヤとされてしまった。

起こそうとしてたんだよ。そうしらばっくれながら、抱きついている魂子ごと体を起こす。

「ふ〜ん、そうなんだ。で、起こすだけでいいの?」
・・・。朝食ができてるから食べに行こっか。
あえてはぐらかす。ここでノッてしまうと魂子が遅刻してしまうので、名残惜しいが手を引いて朝食にエスコートする。

用意した朝食を平らげ、魂子は出発の準備をする。
こうして二人、同じ部屋で生活をしているが、残念ながらまだ結婚はしておらず、恋人として同棲をしている。

「それじゃあ、行ってくるね。」そう言って出かける前にキスをねだってくるのが、いつものパターンだ。
おねだりに応え、手を振って見送る。
魂子が出かけた後は、食器を洗い、洗濯や掃除をする。

普段は在宅ワークと主夫業みたいなことをしている。理系大学卒業後、動画投稿サイトの配信用システムやアプリ開発で収入を得つつ、魂子の生活のサポートを主にしている。

魂子は声優専門学校を卒業後、声優業をしている。本日もスタジオで収録をすると言っていた。今はまだちょい役や脇役が多いが、頑張り屋の魂子らしくコツコツと努力を続け、少しずつ世間にも認知されるようになり、重要な役も任されるようになってきている。

働き始めた頃は別々に一人暮らしをしていたが、魂子の生活は壊滅的で、一日放っておけばラーメン一食のみ、一月放っておけば汚部屋のできあがりというありさまだった。見かねて魂子の親御さんに同棲の許可をもらい、すぐに一緒に生活を始めた。「むしろ不審者対策にありがたい。」「なんならそのまま嫁に。」「案外孫の顔も早く見れそう。」と言われたが、自分の収入が安定していなかったため、今まで保留にしてきた。
在宅ワークで開発した配信用システムが、大手企業に複数採用され、最近ようやくその使用料だけで毎月二人分の生活費を稼げるようになった。高校時代に告白できなかったヘタレを卒業し、プロポーズする日も近そうだ。

昼食は残り物で適当に済ませ、夕食の材料を買いに出かける。繁華街に出てくると、大型ディスプレイには魂子が脇役で出演しているアニメの広告が流れていた。丁度、魂子の登場シーンで声が流れている。周りからは、「あのキャラの声優の声、めちゃめちゃ可愛いよな。」「宣材写真見たけど、すっげー美人だった。」大学生くらいの男たちのそんな話し声が聞こえた。
魂子を応援している気持ちはもちろんある。しかし、ふとそんな街角の声を聞くと、自分の恋人なんだぞという自慢したくなる誇らしい気持ちと、独り占めしたいという独占欲、そんな反する二つの気持ちに葛藤ばかりしている。
でも、やっぱり何かに向かって頑張る魂子が好きなので、これからも応援し続けるしかない。

帰宅途中で、スマホから新着メッセージを告げる着信音が鳴る。内容を確認すると、「今から帰るね。」と言う魂子からのメッセージが入っていた。
急いでアパートに戻り、夕食を作って魂子の帰りを待つ。
それから30分程度で魂子は帰ってきた。
食事にする?ご飯にする?
そう尋ねると、「んー、キミにしようかな~。」と少し濡れた声で言われる。
お風呂も食事も冷めちゃうから、バカなこと言わないで決めちゃって。
あえてスルーしていく。今朝の仕返しだ。

夕食を食べ終え、魂子は入浴に向かった。その間に洗い物を済ませる。魂子が出た後で、入浴を済ませた。

お風呂から出ると、魂子はリビングでゲームをしていた。画面を確認してみると、有名キャラたちが格闘する対戦ゲームをしているようだった。全国の人たちとネット対戦を楽しんでいるようで、その様子を見ながら飲み物を二人分用意する。
魂子の後ろから近づき、そっとテーブルに飲み物を置く。びっくりしたようで、その拍子にキャラが吹き飛ばされ、ゲームオーバーが確定したようだ。
「もー、びっくりしたじゃんか。でも、飲み物ありがとうね。」いたずらしてもそんなに怒らない魂子はやはり仏様かな。そんなくだらない事を考えながら、魂子の隣に座る。

しばらく、魂子のプレイ画面を眺めていたが、負け越しているようで「ムキィー!!」と悲鳴があがっている。

見かねて、次は自分と対戦しようよ。と声をかけた。
「オッケー、わたしに挑むとはいい度胸だ。ボコボコにしてあげるから覚悟してよね。」と、煽ってくる。可愛いかな?

ゲームのリモコンを持って、いざ対戦開始となった。
ギリギリまで削らせてから、とどめを刺そうと飛びかかってきた魂子のキャラを華麗にかわし、陸地の外へ叩き落す。その後、復活してきた魂子に殴り飛ばされた。
次はアイテムを使って徐々に追い詰める。しかし、特殊能力をうまく活用しつつ、コンボを叩き込まれあえなく吹っ飛ばされてしまった。残機は残り1なのに対し、魂子は2もある。

突然、「このゲームで勝ったほうが、負けたほうに何でも好きなことできるからね。」と言ってきた。自分が有利な時に言うとは卑怯な!と責めるが、「勝てばいいのだよ、勝てば」とさらに煽ってくる。

俄然やる気が出た。過去にこれの前作ゲームで、強すぎて友達を何人も失ってきた。その実力を見せてやろうじゃないか。

ハメ技のごとき、即死コンボを叩き込み、魂子のキャラをお空の星に変えてやった。

「うわ、大人げなーい」そういう魂子に、どの口が言うんだと反論する。ここまでくると、どちらも引けない。白熱したラストバトルが幕を開けた。

お互いに一進一退の攻防を繰り広げる。ダメージも蓄積し、あと1撃で吹き飛ばせるところまで来たところで、場外に放り出される。
冷静に復帰しようと画面に集中していたところで。

「ぺろっ」
耳を舐められた。

ゾワリと背筋を衝撃が走り抜けた。同時に操作をミスし、自キャラは奈落の底へと落ちていった。

驚きのあまり、魂子のほうを見ると、怪しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ふっふっふっ、夕方の仕返し。」
耳元に口を寄せ、ささやくように「朝からずーっと我慢してたんだからね。」そう言ってもう一度耳を舐められた。もちろん拒否なんてするはずもないのだが。

その後については、想像に任せる。

ここから1年後、魂子と結婚するのだが、それはまた別の機会に話すとしよう。

fin


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