【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ田中健一編#5
あんたも誰かの企画に乗っかって何か書くことってあるかい?
今回もこの企画に乗っかってみようかね。
企画ページ本体はこっち。
前回のはコレ。
で俺の持ちキャラはこいつ。
今回はまたもどって田中健一目線にしてみるか。
んで、原点回帰でこの記事からヒトをもってくるかね。
ちなみに今までの登場人物や出来事、場所みたいな設定をおおさわさんがまとめた力作メモがあるから、そっちも見てくれよな。
その日田中は苛立っていた
全く持って俺は不満だ。
よりによって本稼働2週間前に仕様変更たぁどう言う了見だ。
まあ、1項目だけを1画面に追加ってだけだからテーブル変更と画面の修正、そして、その項目のチェック内容のテストだけで済むからなんとか対応するけれど、そのタイミングだと実際そのプロジェクトだと請求のし直しをする事務手続きが間に合わねぇんだよ。
次のプロジェクトで帳尻合わせってのが定石だけれど、次のプロジェクトなんていつになんだよマジで。
とりあえず、仕様書の修正を担当メンバーがして、その内容をチェックし、コーディング担当にまわす前にテスト仕様書のテスト項目を追加し、その内容をチェックして、コーディング担当にまわすところまでで21時を回った。
コーディング担当はもう帰宅しているというか帰らせたので、実際の直しは明日以降ってことになる。
だって、仕様の修正とチェックだけで今日終わっちまうのは目に見えていたから。
ってかこの状況PA会でどう報告すりゃ良いんだよ。
※PA会:プロジェクトアセスメント会議の略。上司に「おめぇどうなってんのよ」って叱られるのを避けるために事前にプロジェクトが上手く進んでいることを説明する作戦を練るのがプロジェクトマネージャの仕事の一部。
だいたいコーディングを1日でこなしたとして単体テストで半日、結合テストは今回のケースでは考えないでいいから良いとして、システムテストで1日、顧客テスト1日で修正日を1日挟んでおいて、その次の日に本稼働判定会議……。
それまでに部長に話を通しておいて稼働後のPA会での話し方を決めておく。
うへぇ。
「みんな、おつかれ。仕様はこれでいけると思う。今日は上がって休んでくれ」
「うぃーす」
メンバーたちもうんざりという感じがにじみ出ている。
ええい、PA会のことは一度置いておいて、俺も上がっちまうか。
で、溜まったメールにざっと目を通して会社を出たのが21時半。
真人には午前中の段階でこの悲劇が見えていたのでメールしといたから、なんとか凌ぐだろ。
ええい。憂さ晴らしでもしとかんとメンタルが保たんわ!
俺は凝り固まった肩をぶん回しながら「葵」へと足を向けた。
「葵」の人々
「葵」についた頃は22時くらいだったか。
もう、ある程度出来上がった面々が何人かいた。
「いよぅ、田中さんじゃん」
「出来上がってんなぁ。タカさん今日はもう上りかい?」
「まあねぇ。今のやつは昼間の動向チェックがメインだからねぇ」
タカさんはゴツいガタイの探偵だ。
ってか飲み仲間に自分が探偵だってバラしちゃダメなんじゃないのかね。
「うん?今日はガッキーもいるんか。珍しいな」
「私だって飲みたい日もあるわよ」
ほんのり朱に染まった頬は、まあまあ飲んでんなって感じだった。
「で、ママに愚痴りに来たってわけか。
ママ、I.W.ハーパーダブルをロックで」
「田中さんも、愚痴りたそうね」
ママはいつだって鋭い。
「まあ、大人やってりゃ誰だってそうだろうさ」
苦笑いを浮かべながらタカさんのゴツい体の隣、つまりガッキーの正面に座った。
垣野先生
「で、ガッキーはご自慢のNINJAはどうしたよ」
ガッキーがダンと音を立ててグラスを置く。
「聞いてよ。ほんと。なんかエンジンの音がいつもと違うと思って仕事帰りにバイク屋に見てもらったら、シリンダーの同期がズレてるっていって、シリンダーヘッドとっかえないとダメかなぁとか言われてさ!明日から当分電車通勤よ!」
そんなふうにいって机の上のドライジンを一気に飲み干す。
「ママ、おかわり!」
「はいはい」
ママはいつもどおりのアルカイックスマイルでおかわりを作る。
「こっちはどうやって古典の魅力を伝えるかで精一杯なんだから、バイクくらい健康でいてほしいわ」
「そう言えばガッキーは古典を教えてるんだっけか。
こういうときはどんな俳句になんだい?」
「しばらくは 花の上なる 月夜かな ってところか?」
タカが珍しく教養めいたことを言ってくる。
「松尾芭蕉かよ。似合わね~」
と軽口で返しておく。
まあ、バカじゃ探偵なんてやってらんないだろうけどね。
「菜の花や 月は東に 日は西に かしらね」
寂しそうな表情を浮かべながらガッキーは呟くように言った。
「与謝野蕪村かぁ。なるほどな。NINJAだもんな。次の月が登る頃には返ってくるといいな」
「そういう田中さんはどうなのよ?」
ガッキーが聞き返してくる。
「そうだなぁ。 たんぽぽの ぽぽのあたりが 火事ですよ」
「じゃあ飲んでる場合じゃないじゃんか」
すかさずタカさんが突っ込む。
「水はかけてきたさ。とりあえずはね」
「坪内稔典ねぇ。まあ、たんぽぽの綿毛を『ぽぽ』で表しているんだから次が来るってことかもね」
いかにも古典を教えているようなヒトのセリフだと思った。
まあ、こういう言葉遊びもたまには悪くない。
明日も東から日は昇るんだから。