家族の肖像#03 美大生娘の部屋を片付けています
こんどう治療室です。
今回も治療の話ではありません。
#01 で書きましたとおり、娘が家を出ました。
#03ではかなり吐き出させていただきます!W
彼女の部屋からはありとあらゆる生活必需品(彼女の場合趣味が多岐に渡るので、ものが多い)、洋服も、約4年分の作品群も、インスタレーション作品に使った大きなものが運びきれなかったくらいで、殆どを新居に持って行った。
これは凄いと思ったのです。
私自身は結婚して実家を出て来た時でさえ、何となく服やら本やらは置いて出てきた。
もしかしたら帰ってくるかも、しれないじゃないですか。結局家を建て直した今でも、まだ私のものが残っている。
娘の潔さには感服。
聞くと、
「部屋は全然使ってもらって構わない。
たまにバイトが現地(家の近くの画塾の講師をしておるが、基本はオンライン先生)の時泊まるけど、寝られればいい。」
だそうで。
そうか、ではこのGWは大掃除とお姉ちゃんの部屋に今はみ出している荷物を入れさせてもらってスッキリするのだ! と決めている。
たまたま仕事がキャンセルで時間が出来たので、造り付けのクローゼットを掃除しておこう!
と思い付いた。
棚を拭いたり、捨ててもらって構わない。
と置いて行ったもので、何か使えるものがないかなぁ。と物色。
で、急にそうだ!と思い出したのが窓!
2年程前だったと思う。酷く大きな台風の直撃があり、家中の窓に養生テープを貼りまくったが。
台風が過ぎ去った後、娘の部屋以外の窓はテープを剥がして、自分の部屋のテープは剥がすようにお願いしたのだった。
いつまで経っても剥がす気配なく、かといって
では剥がしてしんぜよう!は甘いだろうと放っておいてしまった。
結果がこれである!
これ、剥がし途中。
北側の窓とはいえ、西陽が激しく差すこの窓。
テープはすでにパリンパリンに乾いていてポロポロしておる。
40分くらい粘ってコリコリ剥がしてみたけれど、さすがに飽きてやめました。
接着剤は残るし。
あとで「養生テープの接着剤 剥がし方」とかで検索してみよう。
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残っていたものの中にこれ。
両眼が真っ黒に墨で塗られただるま。
塗り方がえげつないよなぁ。
白眼残そうよ!
否、それくらい 気持ちは強かったのかもしれない。
受験の前の年、高校2年生のお正月に買ってあげた。
「ほれ、だるまじゃ! 念を持って片目を塗り、それが叶ったらもう片方の目を感謝の気持ちで塗るしきたりがあるのだ! 叶えたい事があるのならだるまだっ!」
彼女は直ぐに片目を塗った。2年生になる時点で、彼女は進路を決めており受験は先端芸術表現科、これ一本!と決めていた。 4回まではトライさせて欲しい。
4回目駄目なら私立に行く。3回目までは一本勝負です。と。
そうですよね。
そういう風に 育ててきたから。
「美術? 嗚呼、いいよ やれば?でもね、やるなら1番のところに行きな。君は人と違う。
それは多分私が1番近くで君を見ていて知っていること。君の発想は全然人と違う。それは特別な才能なんだよ。絶対人の役に立つ人間になると思う。 全力で応援するよ。
でも、1番の大学に行こう! それがひとまずの目標だぞ!」
何故、1番の大学なんて言ったか?って?
うーん、良くわからない。ずーっと昔自分も美術の道に憧れて公立の美術科に見学に行った経験がある。新設校で校舎もピカピカであちこちに置かれている石膏像や見たことない道具にワクワクした。片道2時間かかること、そしてなんのかんの言って私には人より秀でた美術の才能はないと思ったこと。 ちょっと悔しかったんだなぁ。
「私には無理」って諦めたことが。
やるなら本気でやれ! と言いたかった。
それだけなのかも。
高校入学までもかなり険しい道のりだった。
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小さな頃から 紙と鉛筆を持たせていれば何処ででも時間がもつ子だった。 人当たりも良くて、誰に対しても笑顔で。知っている人なら誰でも大好き〜!
走り寄ってハグ!しちゃうような、愛嬌のある子。
でも、私は不安だった。
優しい子のまま育ちますように。
彼女の名前には儒教五常の徳のひとつに当たる「仁」の文字を。
そして彼女が生まれてきてくれた季節の文字を。
本当に強い人は、「優しい人」
私は常々そう思っている。慈しみを持ち続ける為には日々鍛錬が必要なのである!
バイオリンの先生、歌やピアノの先生、タップダンスの先生、英会話の先生、コンテとジャズのダンスの先生。沢山の大人たちに育ててもらって来た。
私ひとりじゃ育て切れない。
そんな子だった。
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中学に入る年の、春季講習から近所にある画塾に通い始めた。
小学生のうちは、誰にも彼女の自由な羽ばたきを阻ませなくなかった。
長女を見ていて、成長の過程の色々はもちろん
大変だったけれど(かなーり変わっていたと思う。良く不登校とかならなかったな)私はずっと彼女が好きだった。
漢字が覚えられなくてどうしたら覚えられるのか一緒に考えたり。何が好きで何が嫌いなのか。
なぜ?彼女の応える事、自分と違いすぎて面白かった。
中学生になったら通っていいよ。
絵の書き方を教えてくれるよ。きっと楽しいよ。
画塾の保護者説明会。
仕事が忙しいけれど、始めくらいは行かなくちゃ。と思い時間をつくった。
「この春から、通ってくださる生徒さんには、今後 都立SG高校をお勧めします。もちろんその他にも私立美術専攻の高校もあります。
SG高校には、SB画塾講師も勤務しております。高校とタッグを組んで東京藝術大学を目指せる人に育てて参ります!」
はっ?
都立の美術専攻?
タッグを組んで 藝大?
絵が描けて楽しい!だけではすまないらしい。
何を? うちの子に教えてもらえるのでしょうか? 一発目の保護者会で、ハラハラ ドキドキしてしまうのでした。
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中学1年生の秋、SG高等学校の文化祭。
なんて素敵な高校なのかっ!?本当に都立?
もはや大学のキャンパスみたいじゃん?
皆んな好きな服着て、好きな髪色して、本当に楽しそう。
「私、この高校に入りたい!」
その日のうちにそう言っていたのでした。
やんわ〜り、誘導していたのは確かかもしれないけれど。
SG高等学校に入れた時点で、
次は藝大かっ? のところは不確かかつ不思議な感覚でした。
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都立SG高等学校では、美術科デザインコース。
彼女は、デザに席を置きながら、苦悩の日々を送っていた。
デザの先生に、課題の構想を話すと
「それはデザじゃないよ。」と言われる。
自分が思いついた事は、デザしゃないのかな。
じゃあ、デザってなんなの?
そんなところから、2年次には画塾の先端芸術表現科を選択。
かというと、先端では自分の思い付いたことなんて何かの真似か?ちょっとした思いつきくらいにしか扱われない。
やはり、デザイン科を目指すべきなの?
話の種にもならない彼女自身の発想力に、もはや本人が辟易としてきた頃。
「それ、面白いね。毎日そのテーマで、例えば365日同じものをつくれば充分テーマになるね!」と言われた!と。
嬉しそうに、創る取っ掛かりが見つかった!
と、報告されて。
私も素直に嬉しかった。
そして、「へーっ」と 「なるほど」
美術って、こういう角度もあるんだ。
デッサンの意味とか、デザインの勉強とか、色や素材やそれまでも色々「なるほど」はあったけれど、先端の「なるほど」はなかなか新鮮だったのでした。
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受験
受験
受験は本当に大変。わかってはいたけれど、想像以上。高校の卒業制作が終わって、即受験に向かって全力になるのだけれど、卒制ですでに睡眠不足。体力限界。脳みそドロドロ状態。
その状態でポートフォリオ制作に向かう姿は凄まじかった。
何日も風呂ははいらず、ずっと興奮状態の目をして「鬼だな」と思った。
中学の3年間も画塾で友達を作らなかった。
「私は誰にも負けたく無い。絶対勝つ。この中で入れるのは数人。誰かが受かれば誰かが落ちる。
友達とそう言う関係になりたくはない。」
画塾の先端の中でも特に仲の良い友達は作らないと話していた。
何日かに一度は 自分は凡人だー! こんなんじゃ駄目だー! 絶対に間に合わないー!
とか言いながらワンワン泣いた。
疲労と興奮で感情失禁の様になった。
何故創るのか。 彼女がどうなりたいのか。
今までに創ってきたもの、そして彼女の思考の流れや今必要なこと。決して今の状態は間違ってないこと。
そして、私はずっとずっと前から、彼女がまだ落書き帳に鉛筆で落書きをしているころから貴女の描くもの、創るものが大好きだったこと。
そんな事を話し続けた。
実際 彼女のポートフォリオはキラキラと美しいもの、彼女の夢が詰まっていて素敵だった。
3年間でこんなものが作れる人になってることに驚いていた。
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一次試験はデッサン。
自分はデッサン死ぬ程描いてきたんだ!
先端のデッサンはこれだ!って思えるところまで描いてきた。兎に角集中力、コンディションが大事。
「鍼打ってください!」
前の晩に治療を施す。
鍼打つと違うらしい。W
当日は野外でのデッサン。
与えられた時間は6時間、飲食の為にはその場を離れて室内に移動しなくちゃならないから水もお弁当も食べずに6時間描き通したそうだ。
「楽しかったー!」
上手く描けたかは別として、かなり集中できた!
やりたい事はできた。9枚提出してきた!
少なくともやる気は伝わるよね!
笑顔。
久しぶりに笑う顔からは「鬼」は去っていた。
一次合格。この時点で定員盧約半数まで絞られる。
二次試験の制作に関しては、作品そのものとプレゼンテーション。教授陣の前で作品を説明。
質問に応える。
泣いたらしい。プレゼンテーションで!
彼女の面倒なところ。自分の事を話すとき良く泣く。メソメソしながら話す。小さい頃からそう。
学校の三者面談でも意味なく泣く。
やめてよー、何か家で問題でもあるように思われるじゃん!っていつも困った。
「ちゃんと、泣いちゃうと思うんですけど!って断ったから大丈夫!」そーかなぁ。
彼女の作品に興味を持ってくれた教授が優しく質問をしてくれたのだそう。先端の先生方はなんだかあったかかったよー。
いっぱいお喋りさせてもらった!楽しかった!
あー
それは 良いんでないでしょうかっ!?
高校受験も相当頑張ったけれど、
その比じゃなかった。
食べることも寝ることも生活の他の全てを犠牲にしても、絶対創る!絶対描く!自分が納得できるところまで!
肌もボロボロだし、彼女のこだわりの白い髪はだいぶん黒髪が伸びてきていた。
でも、やりきった達成感に満ち溢れた顔。誇らしく思えた。
ここまで頑張れたら、結果がどちらでも来年に繋がるね。
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合格発表
10時数秒前に階段を転がり落ちるように彼女が降りてきた。
(余談ですが、藝大の合格発表は毎年フライング気味に出るらしい)
「受かったーーーー!!!」
私も旦那さんも、「マジか」
抱き合って喜んだが! 俄に信じられなかった。
その日から私の胃痛は消えた。
睡眠もぐっすり取れるようになった。
あの日から一年以上が経った。
一年次も課題に追われて大変そうだったけれど。
楽しくてしょうがない様だ。
羨ましいぞ。
やりたいこと
好きなこと
大学で存分に創ることの出来る幸せを感じて
ひとつひとつ、しっかりやっていこう!
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君の部屋は此処にある。
いつでも帰っておいで。
そう言える親でいたいなぁ。
自分の好きな様に壁に絵を描いたり、
壁紙貼ったり。
君が好きだったこの部屋はいつでも君の為に在るよ。
私がかつて両親にしてもらえたように。
その恩を全部子どもたちに与えられるように。
私も 頑張ろう。
あなたがどんどん 外へ
広い世界へ翔けるように。
帰る事の出来る 此処 を守ります。
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