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実家へ #6 転院編

2か月半ぶりで実家方面に向かっている。
父の転院に付き添う。2月下旬に骨盤骨折、誤嚥性肺炎、前立腺肥大で入院した父の容態は面会禁止の今、看護師→兄嫁→私の伝達ゲームで、良く分からない。
一日にムース食を一食は食べるらしいが、
それ以上になると誤嚥性肺炎を起こすらしく熱を出すので、食事回数を増やせない。あとは点滴で栄養補給。
施設はまだ無理で、病院で管理してもらわなければならない為、次の病院へ。

生きる気力がどのくらいあるのか。
何か欲しいものはあるか。
話が出来るのなら、何でも言っておきたい事は言って欲しい。

電車で向かいながら、酷く緊張している。

         ⭐︎⭐︎⭐︎


大腸癌で7〜8年前にお世話になって、それ以来、食道の初期の癌、肺炎と入院した病院は数年前に新しい場所に建てられて、今時の病院は
広々として採光も良く昔の暗くて陰湿な病院の雰囲気はない。

入り口でコロナの為の簡単な質問を受けて検温。病棟に上がる。

転院まではなかなか時間がかかるもんで。
薬のことやら荷物のことやら、支払いや、転院先の病院への申し送りの書類、父のお支度やらなんやら。

ほとんどの管理を兄嫁が担ってくれていて、
私はほとんど役に立たないのね。
介護タクシーに付き添いが1人だけ。とのことで、兄嫁が気を利かせて私にこの役割を当ててくれたのです。

         ⭐︎⭐︎⭐︎

待ちに待って、介護タクシーに父が乗り込んだ。ほぅ。ストレッチャーのまま乗れるし、
ストレッチャーにベルトで固定。
付き添いの私はストレッチャーの直ぐ隣りで、
父の顔見ながら移動できる。
2か月半ぶりに見る父はかなり痩せて小さいけれど、顔色は良い。
乗り込む時に、私が来ていることにちょっと驚いて、「おぉっ? 燈子か。」とちょっとウンウンと頷いた、良かった良かった。ちょっとは喜んでくれたかな。

何か欲しいもの、見たいもの、食べたいものはない? 
「・・・」
ないらしい。

どこも痛くない?
「・・・」
大丈夫らしい。

掛けられた毛布に手を突っ込んで、脚を摩ったり、手を握ったり、ついでに脈状を取ってみた。なかなか元気な脈でちょっと驚く。
ほとんど食べないで点滴だけでも、人間結構イケるもんだな。
もちろん歩かないし、どんどん弱っていくのは避けられないだろうけど。

あと5歳若ければ、肺炎も前立腺も膝の問題もクリアしてうちに帰れたんじゃないかと思った。あ、5歳若ければこんな怪我しないか。

あれが欲しい、あれが食べたい、誰かに会いたい。そんな事当たり前にできるうちに、存分にしておくべきだな。
出来なくなるんだ。いつか。
それは、突然かもしれないし
父のように徐々にかもしれない。

明日があるのか 今日が最後か
最優先するべき事は何か
自分にとって、自分が大事に思う人々にとって。
今は考える気力も体力もある。
自分が80になった時。あるのかな。あるといいな。

空っぽの実家は、兄が時々風を通して
要らないものを処分する為に出入りしてくれている。今日は仕事が待っているので、寄らすに帰る。母の入所先にも時間的に無理で寄るのは断念。
行っても会えないんだけれど。
コロナが恨めしい。

転院して、ホッとする間もなく
次に引き受けてもらえる特養を探すそうだ。
この2か月半で、元気になるより衰退してゆく父よ。うちに帰りたいのか?
帰りたいなら、頑張れよ!
って言うつもりで来たけれど。

言えなかったわ。

とても言えねーな。

私はまだ人の看取りの経験がない。
自分のワンコを4頭送ってきたが。
人もワンコも大きな違いはないはずなのだけれど。人は延命の為に胃瘻も出来ちゃうし、脳が反応していなくても植物状態でも生かされる場合もある。

父は無理くり生かされて喜ぶとは思えない。
80歳が若すぎるとも思わない。
父の身体が、これで終わりだよ。と告げるところまで彼の魂に寄り添ってくれたらそれでいいんじゃないかと思う。

少しずつ 少しずつ 此処から離れていけたら。それが一番楽なんじゃないかな。

骨折も直っているし、癌も進行していない。痛いところない。

うちの最初のワンコ、ゴールデンレトリーバーのデゥークの死に際に両親が会った時のこと。
大好きな両親が来てくれて、もう立てないのにシッポをブンブン振るデゥークに驚いた。
興奮した勢いか、トイレしたい!と意思表示したのでシートに誘導してちょっと出て。
出たからちょっとお水飲もうね。とスポイトでお水を飲ませて。
その器をキッチンに持って行って帰ってきたら、息を引き取っていた。

私と両親は顔を見合わせて、何て良い死に際だったのか!と感動さえ覚えた。

「嗚呼! 俺はこんな風に死にたい!」
父の感嘆の声は忘れない。

きっと叶えられると、私は信じている。

ただ、付き添いたい。
会えるようになるまでは頑張れ!
あ、頑張れって言っちゃった。

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