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実家へ(うちには寄らなかったけど)続編#08 母の施設を訪ねる


こんどう治療室です。

入所以来初めて母のグループホームを訪ねてきた。
コロナのせいもあったけれど、時期的に仕事や子どもたちの用事を優先してきたので何度かあった行ける機会を失っていた。

正直緊張していた。
入所の時とさほど認知の状況は変わってないと聞いていたけれど、自分を認識してくれなかったら
どう接したらよいのかなぁ。と。

おやつの時間を狙って母も好きな餡蜜を手土産にいざ!


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実家最寄りの駅からバス、停留所から10分。
って、バス1時間に一本じゃん!
こりゃ駄目だわ。タクシー乗り場へ。

タクシーの運転手さんが、「面白い名前の施設だから覚えてるよ! 」 と話してくれたが、そうなの可愛い名前のグループホーム。

父の葬儀の日に霊柩車と一緒にぐるり施設の周りを周ってベランダの母に手を振ったあの日以来、中に入るのは初めて。
周りは民家と畑。 直ぐ近くに山々が見えて母が好きそうな風景。
とにかく母は空が広くて土があって山の見えるところが好き。
23で結婚して熊本を出てきたけれど、やっぱり生まれ故郷に近い風景が好きだったんだろうなぁ。

そういう意味でも、このグループホームに入所できて良かったと思っている。


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面会ノートに名前を記入して、直ぐ母の個室に案内してもらう。 
職員さんは母を「てるちゃん」と呼んで、手を取り、時には友人になり、時には親になり、時には厳しく先生になり、しながら何から何までお世話をしてくれているようだ。
親しげに「てるちゃん」を連発する彼女がちょっとだけやけた。
母を側でサポートできない自分が悔しくも思えた。

仕方ないんだけど。

認知が始まって入所までの約7年余り。
父と何とか頑張って暮らしていたけれど、
分からなくなる苛立ちもあったし、忘れてしまう事で疑ぐり深くなったり、父を責めたり、時には私も父の肩ばかりもつ!と責められたりもした。

入所するころには、大分落ち着いて温和になり
認知症にも段階があるんだと痛感した。

今日の母も落ち着いていた。

「お客さんだよ! ほら! てるちゃんの娘さんです!とうこちゃん!」

「うーーん。 わから、ないなぁ。」

笑 ですよね。
あまり期待はしてなかったのよー。
いいの。いいの。

わからないなぁ。って言う割にはペタペタ私を触ってはニタニタしますね。
分からないふり?いや、なんだろこの人懐こさは。
お母さん、可愛い!

その頃には私も緊張がとけて、ホッとしてた。

おやつがあるのよ。一緒に食べよう!
白玉餡蜜に黒蜜たっぷりかけてあげると、
うまい!うまい! を連発しながら一気に食べてしまった。凄い食欲! 元気な証拠ね。

数カ月前に肩の痛みを訴えて、整形外科にかかったと聞いていた。ちょっと様子。診たかったのもあるのでマッサージしようか?と聞くと、すんなりうん!と。

ベッドに横向きで寝てくれた母の脚からマッサージしていく。
ちょっと筋肉落ちてるな。でもまだまだ大丈夫そうだ。膝周りも硬いっちゃー硬いが、直ぐ解れるし。足指もしっかり動く。腰周りは随分スッキリしてる。
入所前は、食べたこと忘れてしょっちゅうお饅頭やら残ったおかずやらに手を出していたのでプクプクしていた。
ホームでは、食事もしっかり管理してしてくれるからちょうど良い体重にキープされている。

肩周りや首、母はいつも凝っていたなぁ。
と思いながら触るも、やわらかめ。
ほぅ! 肩が張らない落ち着いた生活をしているんだなぁ。良かった、良かった。

認知症が良いとは思わないし、だんだん分からなくなっていく辛さは本人にしか分からないだろうとも思う。でも、今の母はとても穏やかで。
ひとつの年の取り方と思えば、無理矢理だけど納得も出来る。

「認知さえなければ!」
と悲観することも出来るけれど、
私はそういうの、嫌い。

病気や加齢やいつか来る死。
そういうネガティブなイベントとも仲良しでいたい。調子の良いこと言ってんなー。
とか思われるかもしれないけれど。

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マッサージ途中で母はぐっすり眠ってしまった。
スースー気持ち良さそうに寝息をたてていた。
実家に風通しに行きながらテレワークしている兄がホームから駅まで会議終わったら送るよ。と言ってくれていたのでLINE。
カメラも使って母の様子を見せてたら目覚めて、
兄の顔見て、「あら!? きてたの?」
あれ?お兄ちゃんって分かるのかな。
いやいや、テレビ電話だよぉ〜!
今テレビ電話っていうかな、とか思いながら。
スマホの画面に映る兄の顔をツンツンしてた。
面白いね、今は便利なんだよ〜って。

兄が迎えに来てくれる間も、ベッドから起きようとせず、
「まだ いいわよ。」ともっとマッサージ!ということね。

認知以前の母は、どちらかと言うと私の治療は遠慮して「もういいわよ。疲れるでしょ?大丈夫。」って言う方だった。
実家に帰る度に、ちょっとでも治療してきた。
大体肩は凝っていたし、膝を悪くしている時もあったし。
近くに、もしくは一緒に住んでいたら鍼治療もしてあげたい。
最近患者さんたちに試してきた治療を母にしたい。嫌って言われるかな。

結局のところ殆どの時間マッサージをして、母は寝ていた。
もう帰るよ!と起こすと、ちょっと驚いたような顔で、
「あら? 帰る?もう?来てたのね、あらー」
急に私を認識した様子。名前は呼んでもらえなかったけど、娘と言うことは分かったみたい。
「遠いのに、来てくれてありがと!ありがと!」
なんだー! 帰る間際かぁー!
分かってもらえてすんごく嬉しくて泣いた。
名残惜しくなっちゃうじゃん!

でも、良かった。
会えてよかった。
分からないお母さんにも、分かってくれたお母さんにも会えてよかった。

寝起きが1番ハッキリしている。と職員さんが教えてくれた。 また好きなおやつを持って会いに行くね。

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