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リンゴが使ったアビイ・ロードの灰皿、ファン・クラブ限定のソノシート──4/22発売『ザ・ビートルズ・アイテム100モノ語り』ためし読み公開

コンサートのチケット、映画の香盤表、スタジオの灰皿、楽器、服飾品──ファブフォーの活動を新しいかたちで紐解き、浮き彫りにしてくれるモノたちをフルカラーで集大成した本、『ザ・ビートルズ・アイテム100モノ語り』が4/22に発売されました。

著者は、1960年代に地元紙にポップミュージックについて執筆、「メロディーメーカー」や「ディスク」などに勤務後、A&M、Tamla Motown、EMI、WarnerMusicで働き、レコードビジネスで30年のキャリアを積んだ後、 多くの音楽関連書を執筆しているブライアン・サウソール。

目にすることが難しい、貴重な100アイテムをフルカラーで紹介。その裏に隠されたエピソードから、当時のザ・ビートルズの姿をさまざまな角度から現代によみがえらせる。そんな1冊から、ひとつのアイテムを、特別にためし読み公開いたします。

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リンゴが使ったアビイ・ロードの灰皿
135ポンドで売却

 ザ・ビートルズのセッション中に、アビイ・ロードのスタジオ2で〝必須〟だったアイテムのひとつがスタンド付きの灰皿で、バンドのレコーディングでリンゴ・スターがドラムを叩くあいだは、彼のドラム・キットの隣
が定位置だった。
 1960 年代にはまだスタジオ内での喫煙が当たり前のようにおこなわれ、ザ・ビートルズも4人全員が喫煙者だったため、灰皿はセッションに欠かせない〝機材〟のひとつとなるが、スターが愛用した〝お皿〟は実のところ、スタジオの最初期にまでさかのぼる由緒正しい品だった。
 アビイ・ロードのスタジオが開業したのは1931 年11月12 日、1931 年の夏にEMI ができてからまだ半年もたっていなかったころのことで、元々は1830 年、セント・ジョンズ・ウッドというロンドンの格式高い郊外の敷地に建て
られた、19 の寝室がある屋敷だった。その後も個人宅として用いられていたが、それを1929 年に地元の建築業者、フランシス・マイヤーズが1万2000 ポンドで購入し、グラモフォン・カンパニーに1万6500 ポンドで転売したの
である。
 すると1962 年の夏に、リヴァプール出身の4人組が、そのスタジオでプロデューサーのジョージ・マーティンと顔を合わせた。「アビイ・ロードに行った時は、夢のような気分だった」とポール・マッカートニーは語り、「レコーディング・スタジオではたいていの場合、かなり緊張していた」とつけ加えている。
 この灰皿─高さはおよそ75 センチ─は〝リンゴの灰皿〟として知られるようになるが、実際には1930 年代からドラマーやピアニストたちに愛用され、人気ピアニストのミセス・ミルズも、スタジオではしばしばピアノの
横に置いていた。それどころか1960 年代に入院した時も、ベッドサイドに置きたいからと、この灰皿を所望している。退院後、彼女は灰皿をスタジオに返却した。
 1970 年代末に禁煙のルールがスタジオに導入されると、灰皿は倉庫にしまいこまれ、最終的には1980 年10 月にアビイ・ロードで開催されたスタジオ機材のオークションで売りに出された。灰皿はとある女性が135 ポンドで落札するが、数年後、やはりこの灰皿に入札していたスタジオ・マネージャーのケン・タウンゼントと連絡を取り、同額で譲渡した。
 ブライアン・エプスタインの著書『ビートルズ神話』─ザ・ビートルズとジョージ・マーティンのサイン入り─もやはり、その日に210 ポンドで売却され、アルバム《サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド》で使用されたメロトロンは、ミュージシャンのマイク・オールドフィールドが1000 ポンドで買い入れている。タウンゼントがテクニカル・マネージャーに昇進した時、ザ・ビートルズが彼にプレゼントした、〝EMI〟の押印があるトイレットペーパーのロールにも買い手がついた。「スタジオの件で深刻な苦情が出ていると言われて、スタジオ2までザ・ビートルズに会いに行ったんです」とタウンゼントは回想する。「グループはミキシングの卓の向こうに立っていて、ジョン・レノンがトイレットペーパーのロールを差し出しました。彼は『堅くてツルツルしすぎている』と言い、EMI と印刷してあるのは、会社がスタッフを信用していない証拠だと主張しました。そしてそのロールを手渡したんですが、それが冗談だったことに気づかなかったわたしは、スタジオ・マネージャーに報告し、その日の午後のうちにアビイ・ロードのトイレットペーパーを全部、柔らかいものに変更したんです」
 トイレットペーパーのロールは2011 年の9月11 日に、85 ポンドで落札した男の息子がBBC-TV の「アンティークズ・ロードショウ」に持ちこみ、TV 出演を果たしている。
 ザ・ビートルズがアビイ・ロードで過ごした日々が伝説と化し、スタジオと横断歩道の両方が観光名所となったおかげで、観光客は最後のアルバムの有名なジャケットを再現しようと路上に群れ集り、壁に落書きをスプレーし、あげくはアビイ・ロードの道路標識を、壁から引きはがす者まであらわれた。2010 年にはスタジオの建物がグレードⅡのイギリス指定建造物に選ばれ、横断歩道も同じ年に指定建造物になっている。

(下)オークションで売却されるまで、アビイ・ロードのスタジオで50
年以上にわたり、ドラマーやピアニストたちに愛用されていたリンゴ・
スターの有名な灰皿。

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《書誌情報》
『ザ・ビートルズ・アイテム100モノ語り The Beatles Collection Archive』
ブライアン・サウソール 著        奥田祐士 訳  眞鍋 “MR.PAN” 崇 (THE NEATBEATS) 楽器・機材監修
A5・並製・256頁
ISBN: 978-4-86647-169-3
本体3,200円+税
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK313
全国の書店・オンライン書店にて好評発売中


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