見出し画像

中学受験に挑んだ親子のこと2

1 はじめに

前回は、ありがとうござました。
今回は前回より「合格校」の華やかさはないものの、時系列で赤裸々に表現できたらと思います。
引き続き、中学受験をお考えの方、現在進行中の方に、少しでもお役に立てば幸いです。
今回は、こちらの生徒です。
・(仮名)上田君(かえつ合格)

2 小5の春

上田君は、小5の春に入塾しました。
おっとりした性格の良い子で、保護者の言うことをきちんときくタイプの子でした(のちにお母さんに対してのみ、反抗するようになります)。
それまでは日能研に通っていて、その宿題ができないこと、試験範囲が広くなると得点できないことにお困りでした。
当初は、「わからないことを自分で調べることができる」「気づきを与えれば伸びるのでは」という保護者の情報と期待をもとに、まずは算数の指導を開始しました(その後、徐々に4科とも指導します)。
当初の偏差値は40台で、攻玉社を狙っていました。
サッカーを週4回でやっていて、受験勉強と両立することにしました。
主に「試験範囲が広くなると得点できない」ことへの解決策として、次の数点を保護者と約束しました。
①「できるようになった問題」をノートに溜め、宿題として行う
②「塾でわかるようになった問題の解き方」を、帰宅後保護者に説明(解説)する
③演習時、3分手が止まったときは次へ進む(スキップする)
④本人が「わかった」と言っても、口頭か演習で確認する
⑤授業後身についたことを定着させるため、自習する
⑥授業中手遊びすることがあったら注意
⑦宿題の強制化
です。
本人と意思統一ができず思うように進まないこともありましたが、気に入った講師を担当にし、小さくても良いのでまず行動変化を促し、少しでも前進、成長できたらその直後にほめて気づかせることを行いました。


2 小5の夏


約束を守りながら丁寧に進めてきましたが、まずは夏期講習くらいに一度問題が起きます。
夏期講習は授業と自習をミックスにし7〜8時間塾内にいる形をとったのですが、「ペットボトルにいたずらをしたり、数時間ぼうっとしてしまうこと」がありました。
最初は皆で注意をしていましたが徐々に「いつものこと」になり、彼に響かなくなってきました。
そうして過ごしたそ夏休みの終わりには、保護者から「再三の注意もきかない。受験するなら頑張ってほしいが、行動が伴っていない。」と言われるようになりました。
この頃から彼がお母さんを無視するようになり、保護者の要望を塾側がきいて本人に伝えるようになりました。
上田君は次第に自宅にいるのが嫌になり、塾に週4日来るようになりました。
塾では家庭と違った距離感で生徒と接することができるので、上田君を否定しなかったことが彼の信頼を得ることに繋がったように思います。

3 小5の秋から冬


このころから、制限時間がないことを条件に演習の正解率が倍増してくるようになりました。
少し持ち直し、攻玉社のほかに久我山、本郷を志望するようになりました。
朝に漢字と計算を10分程度行う習慣ができました。
このころのインプット状況は国語が4年の終わり、算数が5年の最初、理科が5年の終わり、社会が5年の終わりくらいで、このままいけば小6夏明けから入試対策ができると思っていました。 
しかし、このころからサッカー疲れが出てきて、塾での手応えと逆行するように彼とお母さんの関係は悪化していきました。
「家で勉強しない、何度も同じ問題を間違う、嘘をつく」などです。
それを解決することができず、年明けに一度退塾騒動になりました。
解決策として、「チェックリスト」を用意しました。
それまでの取り決めを全て盛り込んだものを作成し、「これが守れなかったら塾をやめてもらうよ」と本人へ伝えることにしました。
このときも、彼は素直に「わかりました」と言ってくれました。
信頼関係を優先した結果でした。
この時期、首都圏模試の国語、算数とも80点台でした。

4 小6の春から夏


この頃、保護者から「第一志望を本郷にしたい」と要望を受けました。
家庭では、変わらず「誰かが見てないとやらない、ゲームをするようになった」とのお悩みでした。
本郷だと現状との偏差値ギャップが大きいことをふまえ、自然と偏差値が伸びた場合に到達する中学を選びましょうと提案しました。
「少し手を伸ばして届く目標設定」を試みる時期だと、判断しました。
そうして浮上したのが、かえつでした。
保護者からは「目標を下げたのだから完全管理のもと授業、自習をがっちりやってほしい」とオーダーがあり、それをもとに夏期講習に入りました。
ちょうどこの頃、私が他校舎も同時に担当することになり後任の塾長(新米)にも保護者面談に同席してもらっていました。
悪いことにこの者と保護者の関係性が良くなく、このことも受験に影響することになります。

5 小6の秋


受験が迫る中での保護者のストレスと新塾長の件から、「我が子の様子はどうなのか、メールで細かく報告してほしい。中高生がスマホを取り出している、注意しないのか。なぜ生物を指導してるのか、覚えれば済むことを授業で扱わないように。」と、やりとりにも保護者のイライラが出てくるようになりました。
これを受け、私は保護者の精神面のケアにも一層力を入れました。
こうなると全てが後手にまわり、成果が遠のいてしまいます。
様々なところに綻びが生じ連鎖した結果、上田君はこの時期に「コピーを楽しむように」なってしまい、通塾する中学生と仲良くなり22時まで遊んで帰るようになってしまいました。
この状態で、保護者と志望校などについて話し合いました。
「かえつしか受けない。その代わり、絶対に受からせてほしい。そのために、過去数年の出題傾向を分析し、オリジナルで類題(予想問題)を作成してほしい。『捨て問題』はあってはならないし、『解けませんでした』という報告はあってはならない。」という話でした。
これまでの不甲斐なさと「何とかしたい」という一心で、我々はオリジナル予想問題を手作りで何題も作成しました。
彼が「できるかできないか」のちょうど良いレベルの問題を優先的に作成し、どんどん増産しました。
それを、何度も繰り返し行ってもらいました。
彼は、3週間経過したくらいが忘れてしまうタイミングだとわかっていたので、その周期で宿題に出しました。
やるべきことを最小まで絞ったことで、上田君もシンプルに頭の中を整理できた様子でした。
また、このころにはサッカーを週1回にしていました。


6 そして受験へ


かえつ一本に絞った彼は、1月入試も受けませんでした。
12月のプレ入試を、1月入試代わりとしました。
受験直前期には「予想問題」の正解率も上がってきていたので、そのことを承認し、「もっとやろう」と促していました。
このとき合否に関して、「『予想問題』は繰り返せば解けるようになるが、本番出る問題に果たして対応できるか、またそれらにターゲットを絞りすぎたが故に他の簡単な問題を取りこぼさないか」を心配する気持ちでした。
ですが、彼は見事合格を勝ち取りました!
このときの彼の安堵の笑顔は忘れることができませんし、一人の生徒にスタッフ総出でとりかかって成し遂げた達成感を分かち合うことができました。

7 おまけ

合格後上田君の保護者に書いていただいたアンケートには、こう記載がされていました。
「入塾当初の希望からだいぶ偏差値の低い中学に入ることとなり、残念でした。」
このことは、スタッフには伝えませんでした。

私が上田君の件で思うことは、次の数点です。
厳しく管理しすぎると良くない(せめてどこかに遊びや逃げ道を用意する)
・第一志望校との数的ギャップが大きい場合、受験生の夏から秋口にかけて「手の届く目標」に切り替えて、やるべきことを絞って短期(期限付き)で頑張らせることが効果的(特にマルチタスクを苦手とする子)

上田君の中学受験の道程は、様々な困難や課題を乗り越えながら進んできました。
彼の性格や状況に合わせた指導や対応が求められ、保護者との信頼関係も築かれました。
特に、彼の興味や関心を引きつける問題やアプローチ方法を工夫し、モチベーションを高めることが重要でした。
また、保護者のサポートや精神面のケアも欠かせない要素でした。

最後に、この道程で彼を支えてくれた保護者やスタッフや皆さまに感謝の意を表します。
まだまだご紹介したい生徒はおりますので、表現法を試しつつ、受験生の皆さまに少しでもお役に立ちたいと思っています。
今後とも、よろしくお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?