美濃加茂市長汚職事件の真実  8

朝9時昨日のリムジンとは大違いなお迎えの車に乗り込み県警本部に向かった。


県警本部に入る際はまたもや
「一応、念の為」
と外から見られないように身体を屈めた。

昨日同様、改装中で迷路になっている建物内を小走りで進み多分昨日と同じであろう部屋に入った。

昨日と同じ部屋かが定かではなかったのは、迷路のような道のりもあるが、部屋の空気が明らかに昨日は私が完全に支配していたそれとは違っていたからだ。


オカダも昨日とは違い手にした台本を元に取り調べが進む。


「Nの営業の片棒を担いでたんだろ?」

取って付けたような台本通りのタメ口で切り出した。

「あくまで政策としての提案ですよ」

とあしらうよう答えると、間髪入れず後ろにいたフジシロが立ち上がり
「そんなわけないだろ!自分が素晴らしいと思って描いた絵が実現したら嬉しいだろ!」
と語気を荒げて行ってきたが、それはあたかも
「練習し過ぎてつまらなくなってしまった漫才師」
のような滑稽さだった。

「そういう意味なら嬉しいですねー」

「なら大きな意味でNの為にやっているということだろ」

と「政策シンクタンク」「企業」「政治」という健全な関係を否定し、私の役割を「企業の提案」としようとしているということが見え見えだった。

「そうやって捻じ曲げようとしても無理ですよ」


(藤井の家から押収した)銀行の封筒を見せ

「この封筒は見たことある?」

「現場ではないですね」

「でもどこかで見たことはあるんだよね?」

「いや、藤井とNと一緒にいた現場では見てないです」

「でもこの封筒自体は見たことあるんだね」

(酷い誘導尋問だ。やっぱりこいつアレだな)


「他に封筒は見てない?見てない事を証明できる?記録には封筒を持って行ったってあるんだけど」

「そう言われると自信はないですけど・・ならば持って行ってたんですね・・見た記憶はないけど」

「絶対に見てない?四角い資料が入るような封筒見てない?」

「うーん、覚えがないです」

「小さいものじゃないから見てないはずがないんだけど」

「じゃあ見てるかもしれないですね・・うーん、見てると言われれば見たような気もします。Nはいつも資料持って歩いてたんで」

「じゃあ、封筒を見たんだね」

「・・・・・あ、封筒って資料を入れるような大きい封筒で、銀行の封筒じゃないですよ」

ちょっと頭の緩い人なら完全に「銀行の封筒を見た」と証言を捻じ曲げられるパターンだ。


午後になるとまた例の答えのないクイズが始まる。

これは私の持病をボディブローのように抉り、自律神経の機能が乱れていった。


誘導尋問や捻じ曲げが通用せず、結局調書を作ることもできず空振りに終わったバカコンビの年下リーダーオカダが

「タカミネさん今は参考人として任意で聞いているけど、何か証拠が出たらすぐに容疑者になるからね」

と脅し。

「やれるもんならやってみろ」

の言葉でその日の取り調べは終わった。


後にわかる事だが、警察は私のありもしない容疑でいくつも逮捕状を請求していたらしい。

それを聞いた時は「(家宅捜索をされ、携帯電話、パソコンなど)全てを掴まれているにも関わらず、我ながら潔白なんだなw」と自分を再評価した。


不毛な取り調べは昨日の10時間半を下回る9時間半で終了した。


次の日(26日)は、警察の調べではなく検察の事情聴取を受けた。

「よろしくお願いします。タカミネさんが言いたくない事があれば言わなくてもいいので」

と、担当のイトウ検事は警察のそれとは違い紳士的で、また見た目も愛嬌のある憎めない若者、横にいる書記もイケメン有能な佇まいで県警のバカコンビとは雲泥の差だ。


「始める前にひとついいですか?押収されてるiPhoneは2月にNが最初の逮捕をされた以降に契約したもので、この事件とは一切関係ないですし、またデータも既に抜き取ってるはずなので返還してもらえませんか?話はそれからで」

検事は

「それはご迷惑をおかけしています」

とどこかに電話をし

「私が責任持って早急にお返ししますので、もし信じていただけるのなら始めさせていただいてもよろしいですか?戻るまで話せないと言うなら待ちますが」

あまりにも丁寧かつ、紳士的な態度だったので、検事を信じ調べは始まった。

「まずは、この事件に高峰さんが関わっていないことはわかっています。それを明確にすることで、あくまで政策シンクタンクとしての活動であることをまとめさせてください」

「昨日警察では、逆の誘導尋問されましたよ」

「あー、やっぱり。まずそこ否定しないとタカミネさんに迷惑が掛かるし、事件が無茶苦茶になってしまうので」

「やっぱりってなんか情報入ってるんですか?」

「まぁそれは・・」

とその場は濁したが、数日後の調べで検事が「警察がいくつか逮捕状請求してきています。それを否定する調書を作っておきましょう」と言っていたので、警察はこの時点で私を逮捕しようと容疑をでっち上げ逮捕状を請求していたようだ。

丁寧で長い取り調べであったがその都度調書をまとめながら調べは進んでいった。

書記官が調書をまとめプリントしている間待機時間があり、その間には検事と雑談を交わす時間も多くあった。

この雑談の中で検事との関係が構築され検事も仕事を忘れ私の哲学論や、バカ話など興味深く聞いていた。


昼休み明け検事が戻って来るとその手には私のiPhoneがあった。

「ご迷惑をかけました。約束の物です」

という誠実な態度もひょっとすると数時間後に起きるこの事件で唯一私が犯したミスを誘発したのかも知れない。


調書作成は一言一句、「てをには」の助詞の一文字まで神経質に修正しながら進めた。

まとめの部分で

「Nが藤井に金を渡したという供述をしていると聞きましたが、私はその事実を見ても聞いてもいません。もし渡したとしたなら私が席を立った時である」という調書が取られた。

これが私の唯一のミスだった。

この日も9時間半の調べであり、連日一度も席を立つこともなく(トイレにも行かず)さらには「持病」を刺激され疲弊していたことで起きたミスだった。

どのようなミスかというと後に裁判でこの調書の

「もし渡したとしたなら私が席を立った時である」
の部分だけ取り上げて「
あたかも席を立った時にお金を渡した」
と供述したようにねじ曲げられた。

しかし、裁判で
「その前段があるはずです。『Nが藤井に金を渡したという供述をしていると聞きましたが、私はその事実を見ても聞いてもいません』その後「席を立ってもいない」と言っているのでそれはそういう意味ではありません。前段を伏せるのは卑怯」
と証言できる記憶があったので事なきを得たが、そのまま行っていたら
「一審無罪」
は無かったと思う。

調書を作成する際「てをには」まで神経質に作成していた為、事なきを得たが、後にその私の神経質さに検事は全身に蕁麻疹ができるほど疲弊し、途中で取り調べを打ち切ることもあった事を余談として記しておく。

「てをには」直しを含めた調書作成はたたき台が出来てから3時間を要した。

検事の読み上げと共に確認をし、署名。

やっと終わったと思ったが検事が見返し「一行抜けて空欄になっている」と指摘。

プリントし直し再度署名を促されるが、1ページ目の改行に違和感を感じた為「これさっきの物と違う気がします。プリントし直してください」と要求。

全てを読んではいないから「すり替えをした」かどうかは定かではないが流石俺の「病気」だ(笑)

(この「病気(持病)については「美濃加茂市長汚職事件の真実 4 に詳しく記しています。 https://note.com/dsplab2011/n/n7d7966f04e1d


間違いのモノの1ページ目に大きな×印を付け廃棄をしたが
「それちゃんと全部に×印付けてください」
と仕上げの神経質な要求をし、要求通り処理された事を確認し検察の初日の調べは終わった。

検察を出ると久々に戻った私のiPhoneにひとつの着信があり、その番号にかけ直した所から事件は大きく動き出すことになる。


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