美濃加茂市長汚職事件の真実 6
「タカミネさんよろしくお願いします。オカダです」
目の前に座った刑事は、予想していた「前回事情聴取をした親玉刑事」ではなく、明らかにお勉強しかできなさそうな若造だった。
「あれ?〇〇さんじゃないんですか?」
「ああ、〇〇は藤井の方聞いているので」
(こいつバカか?「違います」だけでいいだろ。なんでわざわざ「藤井の方聞いている」とか言うの?さらに名刺まで渡してなんか浮き足立ってるなw)
と一瞬で相手の戦闘能力がザコである事を見抜いた。
もう1人の顔見知りのザコは前回同様壁に背を向けてメモを取っていた。
「藤井がNからお金もらった事は知ってましたか?」
「知りません」
「本当に知らなかったですか?」
「知りません。知ってた方が都合いいんですか?」
「いや、知ってたかどうか知りたいだけです」
「知ってた方がいいならいい聞き方がありますよ。昔幸福の科学のアンケートで『あなたは大川隆法主宰がエルカンターレの生まれかわりだと言うことを①知ってた②今知った』って言うのがあったんで、そうすればどちらの答えでも知ってるになりますよ(笑)」
私のジャブでオカダの顔が少し緩んだ。
「そうやってざっくばらんに本当のことを話してもらえればいいので」
と少し緩んだところで
「っつーか何時までやるつもり?任意だろうが携帯まで取り上げやがって、ふざけるなよ!」
と少し強い口調で言うと、少し怯んだオカダの後ろから、フジシロが振り向き
「まぁまぁ形式上なんで」となだめにきたが
「フジシロさんは上にやらされてるだけでしょ。だから恨んではないですよ」
とフジシロに寄り添いながらも嫌な気分にさせる言葉を放った。
(はい、2人とも嫌な気分になったー。さぁこっからは良い人モードでいこ)
と自分のフィールドを整え、いつも通り深く椅子に座り直した。
「まず○月○日ガストで藤井とNと会いましたね?」
「日にちは覚えてないけど会ったと思います」
「どこに座りました?」
と資料に書いてあるガストの見取り図を見せ聞いてきた。
その時その資料とは別のファイルで資料の大半を覆い隠していた。
(ああ、ここは見られたくない所なんだな。メモメモ・・)
と頭の中にその日付をメモした。
「で、何を注文しましたか?」
「ランチです」
「ドリンクバーは?」
「付けたと思います」
「ドリンクバーは誰が取りに行きました?」
「あー、覚えてないですねー。皆んなで取りに行ったと思いますよ」
「本当ですか?」
「だから覚えてないですって。なんか意味があるんですか?」
「いや、聞いてるだけですよ。で、なんの話をしましたか?」
「いやいや、覚えてないって言ってるのに『本当ですか?』ってどう言うこと?人の話を聞く気あるの?めっちゃ気分悪いんだけど、チッ」
と舌打ちをし、不機嫌そうなフリをして、横を向いて座った。
「いや、すみません。特に意味はないので気を悪くしないでください」
最初にかました「ニコニコから突然切れるキチガイ」というキャラ設定が完全に効いているその部屋では「とにかくタカミネを怒らせない」という不文律が生まれていた。
その後N氏のお金の流れや、生活態度など前回の事情聴取と同じ質問が続く。
その際も所々「それ前回も言いましたよ」と怒ったフリをし、その都度「すみません。確認なんで、気を悪くしないでください」と言うやりとりが繰り返された。
その後またガストの話に戻る。
「ドリンクバーはタカミネさんが取りに行ったんだよね?」
「え?どう言う意味ですか?」
「タカミネさん藤井とNの奴を取りに行ったんでしょ?」
「は?ありえないありえない。逆はあっても俺があいつらの取りに行くなんてありえない」
「でも市長(議員)だよ。Nはスポンサーでしょ?」
「ないないない、なんで俺があいつらの取りに行かなきゃいけないの?河村たかしでも取りに行かないよ」
「それは常識的におかしくないですか?目上の人のものは取りに行くでしょ」
「だからその3人で目上の人は俺だって。それに俺は仮に目上の人だって、そんな媚びの売り方はしないし。あーそう思うとNが全員分取りに行った気がする。そういう人だから。そもそも藤井が俺と話したいって言うのが会う目的だから、多分そうだと思いますよ」
オカダはあからさまに「うーん」という表情を浮かべまた別の質問に移った。
「(押収した)資料を見てるとお世辞抜きでタカミネさんは凄く頭がキレて、内容もすごいんだけど政治のことどこで勉強したの?」
「いや、病気なんですよ(笑)」
「え?どんな病気?」
と「美濃加茂市長汚職事件の真実 4」https://note.com/dsplab2011/n/n7d7966f04e1d
で書いた持病の話をする。
「はぁ、そんな病気あるんですね。で、病名はなんでしたっけ?」
話の途中から熱心にメモを取りながら聞き始めたので
「まぁ、あんまり気分の良い話じゃないので」
と病名までは伝えず、その話を終わらせた。
その後
「そういえばガストでトイレとかは言ってるよね?」
「いや、行ってません」
「え?トイレくらい行くでしょ」
「いや絶対行ってない。藤井といる時はとにかくアイツが一瞬の間も勿体ない、と言う感じで俺の話を聞きたがってるので、トイレは行ってないです。そもそもあんまりトイレ行かないし」
「そうなんですね。ドリンクバーって最初はNが取りに行っててもお代わりは自分で取りに行ってますよね?」
「多分お代わりはしてないと思う。仮にしてても藤井やNが取りに行くついでに持ってきてもらうくらい。それぐらい藤井といる時はいつも藤井に捕まってる状態ですよ」
ここまで来ると流石に「なんとかして俺を席から立たせたい」という意向が見え見え。
予想通り、間抜けな刑事だ。
「Nはタカミネさんが席を立ったって言ってるんだよね。本当に立ってない?」
「立ってないって言ってるでしょ。別に俺が居たって資料渡してるんだからその中にお金入れれば渡せるんだし。他の議員の時もそうやってやってるから、同じパターンで渡したんじゃないですか?」
自分の言葉にハッとした。
過去の贈収賄事件で「紙袋に入れたお菓子の下に金が紛れ込まされていた」という事件があり「お菓子だと思って受け取ったものにお金が入っていても気づかない可能性があるので立件できなかった事件がある」というのを思い出した。
確かに資料に金が紛れ込まされていても、気づかず資料を放置して後にそのまま捨ててしまえば、贈収賄にはならないし、仮にその金に気づいても「自分が入れて忘れていたものだと思っていた」という言い訳ができてしまうから立件できないとある弁護士が「ニコニコ生放送」で話していた記憶があった。
(今後この手記を読み続ける際に、この話と「そんな話をしていた弁護士がいた」という事はしっかり覚えていてほしい)
・・そういうことね
と全てを悟った。
つまり警察は
「タカミネが席を外した時にお金を提示して渡した」という事実をどうしても確定しておきたいという意図だった。
そんな渡し方をするわけがないし、Nは以前別の議員にお金を渡した時も資料に紛れ込ませて渡している事実がある。
何よりもNは私に「議員にお金を渡す」事を絶対に知られたくなかった。
過去に注意したこともあるし、その当時は私に払うべき金どころか微々たるものだが私から借りているお金もあった。
その私に別の人間にお金を渡している事は決して知られたくないことだった。
その後誘導や、言葉のねじ曲げを駆使し質問を続けてきたが、「相手の欲しいもの」を完全に理解した私はそれに応じる事はなかった。
調書をまとめひとまず休憩に入った。
「タカミネさん弁当食べますか?」
本来なら取調べと言えば「カツ丼」なのでカツ丼を食べるというおふざけをする所だが、今後の作戦を練る為1分でも早く解放されたかった私は、「いりません早く終わらせてください」
といい席から立つこともしなかった。
オカダは席を立ちどこかに行ったが、私が動かない為フジシロは席を立つこともできない。
痺れを切らしたフジシロは「ここに弁当持ってくるから食べて」と提案してきたが「早く帰りたいので食べません」と断る。
取調室には重くピリついた空気が充満していた。
小一時間するとオカダが戻ってきた。
それと入れ替わるようにフジシロが「やっと解放された」と安堵の表情を浮かべ取調室を出ていく。
「早く始めましょう」
と私が言うと
「フジシロが戻るまで待ってください。その間にトイレとか休憩とかしておいてください」
「いや、フジシロさんは飯食ってるだけでしょ俺食ってないんだから呼び戻して早く始めてくださいよ」
と言うとオカダはフジシロを呼びに行きその両手には2つの弁当があった。
「タカミネさんも食べてください。食事を取らせなかったって訴えられても困るので」
「そんな訴えしませんよ、どっちにしろこんな弁当まずいでしょ」とオカダに言うと
「いや僕も食べてないんで」
(じゃあこの小一時間こいつ何やってたんだ?)
その背後でガツガツと弁当を食べるフジシロの後ろ姿を哀れに見つめていると「フジシロさん早くしてください」とオカダに急かされ、渋々フジシロは弁当の蓋を閉じ部屋を出ていった。
フジシロが戻ってもオカダは紙ペラ一枚の資料を食い入るように見つめ、何か書き込んでいるだけでしばらく取り調べが再開される事はなかった。
息をする事も憚れるような空気に私の苛立ちが頂点に達する直前オカダが堰を切った。
「じゃあクイズ出します。最初のガストの席なんですけどどこに座りましたか?」
「よく覚えてないけどここじゃないですか?」
「そうですか。じゃあどうやって座りましたか?」
「まぁ俺が上座的なソファ席で、トイメンに藤井、Nは俺の横ですかね」
「そうですか」
とオカダは最初に見ていた資料に目を移し何かメモをしていた。
そのまま沈黙が続いたため
「で、クイズの答えは?」
と聞くと
「それはちょっと」
と回答はせずに次のクイズに移った。
同じようなどうでもいい「答えのないクイズ」が延々と繰り返されるだけの時間が過ぎ、度々うとうと眠るフジシロに対しオカダが「おいっ!」と年齢を感じさせない言い方で叱責するサイクルが繰り返される。
随分な時間が過ぎていたであろうが、時計もなく窓もなく時間もわからない状態で不毛な時間が過ぎて行った。
このような「答えのないクイズ」を繰り返され思考を止められることは、私の「持病」を刺激し、体脂肪の割合と比例し、温厚になっていた私を、バンドマン時代の常に苛立ちに苛まれていた状態に落とし込み、十数年ぶりの身体の異変と呼吸の乱れを悟られないように平静を繕った。
ドアがノックされオカダが出て行き戻った時にようやく部屋の空気は動いた。
「これまだ続くんですか?」
と尋ねると
「しばらく毎日来てもらうから覚悟しておいて。タカミネさんが色々思い出してくれればすぐに終わるけど」
と脅しにも似た言葉が放たれた。
それに呼応するように私は
「あ、いくつか思い出したんですけど。○月○日のさっきの資料見せてもらっていいですか?」
オカダは「よしきた!」と言う表情で資料を見せてきた。
「あー、この日じゃないか・・多分ガストのちょっと後だった気がする」
と言うとオカダは資料をペラペラめくり、最初に見せてきたガストの見取り図のページを見せてきた。
数時間前と違うのは先ほどは別の資料で隠されていた部分を隠す事を忘れていた。
(やっぱりちょろいな)
私は心の中でほくそ笑み、あたかも何か記憶を喚起しているようなフリをして、「持病」駆使し、先ほど隠されていた部分を覗き見た。
そこには、この事件の唯一の証拠が書かれていた。
その瞬間この事件は完全に私の掌に乗った。
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