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世界の送電網の炭素強度(時間別排出係数)の比較

世界の送電網の炭素強度(時間別CO2排出係数)を比較してみました。米国カリフォルニア州(CAISO)・米国東海岸(PJM)・英国・東京電力・九州電力管内の配電網です。


ただし、東京電力・九州電力は揚水と系統連系を考慮しない概算値で、また火力の石炭・天然ガス・重油の内訳は公表されていないので十分に精緻ではありません。また、他国も一部概算値ですので、データの正確性を保証するものではないことを予めご了承ください。ざっと眺めるために作成したものです。

いくつかの大きな特徴から。まず、英国の炭素強度が24時間を通じて200g-CO2/kWhを下回っていて、低いですね。その理由は、以下のグラフでわかります。英国の再エネは、この日は、24時間を通じて安定的に風力発電で供給され、昼間はさらに太陽光発電で追加供給されていました。ですから、風が吹かない、日照が少ないといった再エネ発電量の気候条件に伴う変動にどう対応して安定給電を続け、停電リスクを避けるか、という課題が常にある訳です。この課題は、下で見るカリフォルニア州(CAISO)では、さらに顕著です。



では、英国だけ抜き出して炭素強度のグラフをもう一度作ってみましょう。



すると、結構時間格差があることが分かります。正午が最低の115g-CO2/kWh、午前5時が最高の200g-CO2/kWhなので格差は1.74倍です。正午には風力に加えて太陽光の再エネ発電量が追加されて大きく炭素強度が下がり、反対に午前5時には風力発電だけでは需要に対応しきれなかったため天然ガスによる発電で補っていました。従って、全体として炭素強度が小さい場合でも小さいなりに格差は発生するので、脱炭素のためには、再エネ比率が高い(つまり、炭素強度が低い)時間帯に蓄電して、再エネ比率が低い時間帯にそれを使って給電して炭素強度を下げるといったタイムシフトの必要性があることを示唆しています。

次に米国東海岸(PJM)を見てみましょう。



再エネ発電比率が全体的に低いことが分かります。比較的風力発電が多く、太陽光発電は少ないです。下に示したカリフォルニア州(CAISO)と違って、天然ガスと石炭の割合が大きいです。特にこの日は、朝のピークを天然ガスでかなり賄っていたことが分かります。

これに対して、カリフォルニア州(CAISO)は以下の通りです。



英国と同様、再エネ発電比率(風力発電と太陽光発電の内訳は、残念ながらこの統計では不明です)がどの時間も高いです。原子力発電もベース電源として、1日を通じて炭素強度の低位安定に寄与していると言えるでしょう。

それでは、各地域の炭素強度最低値を100として指数化してみましょう。


この日はカリフォルニア州(CAISO)管内で格差が特に大きかったことが分かります。東京電力管内と九州電力管内の格差も大きかったです。上で見たように、英国でもかなりの格差がありましたが、米国東海岸(PJM)では格差があまりありませんでした。

従って、絶対水準は各地域で異なるものの、それぞれの水準で時間別に大きな格差が見られる地域も多くあります。ですから、再エネ発電比率の高い(つまり、「きれいな」電気が潤沢に給電できている)時間帯への(例えば、EV充電や洗濯機・乾燥機の使用といった「不急の」あるいは「時間的に融通が利く」)需要のタイムシフト(「昼シフト」)、需要ピーク時への再エネ電力の(例えば、蓄電施設からの給電による)タイムシフト(「夜シフト」)による需要と供給の相互追従の必要性があると言ってよいでしょう。



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