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怪談市場 水の章

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2000字前後の短い怪談を取り揃えております。すべて投げ銭なのでお気軽にお読みください。いずれ百物語にする計画です。
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2014年11月の記事一覧

怪談市場 第三十三話

怪談市場 第三十三話

『川下りの夜』

12年前、間中君(仮名)が初めて買ったカヌーで川下りを試みた夜に遭遇した怪異である。

彼は中学のころから椎名誠や野田知佑のエッセイが大好きで、夏休みや連休にカヌー教室へ通うことが何よりの楽しみだった。高校卒業と同時に自動車免許を取り、デザイン関係の専門学校に通いながら必死にバイトして、ついに念願のカヌーを購入した。

当然すぐにでも水に浮かべたい。しかし遠出するには時間が足りな

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怪談市場 第三十二話

怪談市場 第三十二話

『ロバのパン』(マー4)

年下の友人、マーが10年以上前に体験したお話し。

当時、警備会社でバイトをしていた彼は、親子ほども年の違う警備主任のFさん(仮名)と意気投合した。きっかけは趣味のブラックバス釣りである。休日はもちろん、仕事前、仕事終わり、下手をすると昼休みと、1日に2回も3回も連れ立って近所の野池や川に出向き、暇さえあれば2人でルアーを投げた。

とある休日、マーとFさんは県内でも1

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怪談市場 第三十一話

怪談市場 第三十一話

『押し花』

マサエさん(仮名)が20年ほど前に体験した話である。

当時のマサエさんは、まだ結婚3年目。ご主人と関東地方某所の団地に住んでいた。

夫の勤め先は業績が順調、マサエさん自身も健康な長男を産み、育児に追われていた。夫婦仲もよく、絵に描いたような幸せな結婚生活を送っていた。

ただ一点だけ気がかりなことがあった。団地の同じ棟に、少々問題のある人物が住んでいたのだ。

自殺志願者である。

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