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怪談市場 水の章

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2000字前後の短い怪談を取り揃えております。すべて投げ銭なのでお気軽にお読みください。いずれ百物語にする計画です。
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2014年9月の記事一覧

怪談市場 第二十八話

怪談市場 第二十八話

『天使さま』

物心ついた頃から小学4年生の秋まで、トモミさん(仮名)は時折、天使を目撃したそうだ。

「薄曇りの午後、空を見上げると、雲の切れ間から陽の光が筋になって射しこんだりして、綺麗じゃないですか」

トモミさんはうつむきがちに、上目づかいで語り始めた。彼女の言いたいことはわかる。確かに美しく、厳かな光景だ。雲間から放射状に降る幾筋もの光。西洋の宗教画では天使が舞っていたりする。そんな感想

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怪談市場 第二十七話

怪談市場 第二十七話

『逃げ場のない防波堤』

K港のM防波堤は、近郊の釣り人の間で有名である。理由はふたつ。ひとつは、魚がよく釣れるポイントとして。もうひとつは、やたらと死亡事故の多い魔の釣り場として。

沖に向かって4kmも伸びる堤防は、ひとたび海が荒れれば大波に洗われ、逃げ遅れた釣り人たちを容赦なく海中へ引きずり込む。当然、自治体は一般人の立ち入りを禁止しているが、それでも釣り人の侵入は後を絶たない。堤防の入り口

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怪談市場 第二十六話

怪談市場 第二十六話

『碁石ひろい』

美咲さん(仮名)が小学校3年生の夏休みに体験した話。

自由な夏休みとはいえ、現在ほど娯楽が多様化されていなかった当時、子供たちの1日はわりと単調だった。

起床して顔を洗うと近所の公園に出向いてラジオ体操。帰宅して朝食をとり、その後は夏休みの宿題を進めながら、合間に漫画を読んだり再放送のアニメを見たり。昼食を済ませたら食休みもそこそこに家を出る。学校のプール開放へ向かうのだ。当

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怪談市場 第二十五話

怪談市場 第二十五話

『ココロノヤミ』

昭和の時代からJ中学校に伝わる伝説がある。

ときおり、焼却炉のかたわらで泣いている少女が目撃される。彼女は生身の人間ではない。渡す勇気がないまま、あるいは受け取ってもらえずに、焼却炉に投げ込まれた幾多の恋文の化身だ。灰と化した文の無念が少女の姿となり、恋に破れた乙女たちの悲しみを肩代わりして泣き続けるのだ。そんな少女を、生徒たちは「恋文様」と呼ぶ。

その恋文様を、呪いに利用

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怪談市場 第二十四話

怪談市場 第二十四話

『リュック』

ケイイチさんの娘、ハルカちゃんが4歳前後だった頃の話し。

「あー、やまのぼりぃ!」

一緒に街を歩いていると、ときおりハルカちゃんが、人混みを指差して声をあげることがあった。毎回ではないが、5回ほど一緒にお出かけすると、1度はそういった反応を目の当たりにする。

「やまのぼり」

そう口走る娘の指先と視線を追うと、決まって猫背ぎみの人物が歩いていることに、最近になってケイイチさん

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