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怪談市場 土の章

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2000字前後の短い怪談を取り揃えております。すべて投げ銭なのでお気軽にお読みください。いずれ百物語にする計画です。
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2014年6月の記事一覧

怪談市場 第十二話

怪談市場 第十二話

『網戸』

大石君(仮名)の部屋で最近、異変が発生している。知らないうちに網戸が開いているのだ。

彼は現在私立大学の2年生で、アパートで独り暮らしをしている。問題の網戸は、6畳1Kのベランダに続く掃き出し窓の網戸である。それが、ここ1週間で5回、気がつくと30cmほど中途半端に開いているのだ。

「自分で閉め忘れたんじゃありませんからね」と大石君は釘を刺す。建て付けのよくない安アパートは、ややサ

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怪談市場 第十一話

怪談市場 第十一話

『人喰い踏切』

弘美さんは、人が電車にはねられる瞬間を、間近で目撃した経験がある。

「あれは高校に入学してまだ間もない頃。下校途中、進行方向の踏切で遮断機が下りたの。日は暮れかけてたけど辺りを見渡せるほどには夕陽が残っていて、自転車をおりた主婦がひとり踏切り待ちをしていた。買い物帰りらしく、ママチャリのかごには丸々太ったスーパーのレジ袋が詰め込まれ、ネギの頭が飛び出ていたのを覚えてる。鳴り響く

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怪談市場 第十話

怪談市場 第十話

『カエルの合唱』

夏場は深夜に近所の田んぼ道を散歩する。

時間が時間、場所が場所だけに、人に出くわしたことは一度もない。ときおりタヌキが行く手を横切ったり、名も知らぬ鳥から気まぐれに威嚇をうける程度で、至極快適な散歩コースだ。周囲はひたすら田んぼ。鳴き交わすカエルの声でうるさいぐらいだ。そのカエルの声に関して先日、珍しい現象に遭遇した。

「天使のお通り」を御存知だろうか。パーティーなどで、そ

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怪談市場 第九話

怪談市場 第九話

『おじぎ池の主』

釣り好きのヒサシ君(仮名)が、小学校4年生の時に体験した話である。

家の近所に「おじぎ池」という農業用水用の溜め池があった。面積は小学校の体育館ほどで、湧水があるらしく比較的澄んでいる。池のほとりに数本のシダレヤナギが植えられていて、その枝が頭を垂れる様子から地元の人々は「おじぎ池」と呼んでいた。近隣の小川や野池に比べて格段に魚影が濃く、生息する魚の種類も豊富だ。大人の釣り人

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