太陽光発電 + ヒートポンプ + 蓄熱槽

個人的に、太陽光発電は20世紀最大の発明ではないか?と思っているのだが、いろいろ弱点も多い。

一番の弱点は、発電量が日照量によって左右される点だろうと思う。コストなども以前は大きなネックになっていたが、いまではどんどん価格が下がってきており、それほど大きな問題ではなくなってきた。

これからの問題はおそらく設置場所をどう確保するか?とか、設置費用をどう削減するか?といった問題が大きくなってくるだろう。

一方で、残っている問題が発電量が気象に左右されてしまう問題だ。この問題を解決するには、単純にはバッテリーなどで直接電気を貯めてしまう方法が使えるが、バッテリーのコストはまだそれほど安いとは言い切れない。

ただ、家庭という環境に限定すれば、この問題はかなり簡単に解くことができるのではないか?と思っている。電気としてではなく、熱としてエネルギーを貯めてしまうのだ。つまり、お湯を沸かしてしまえばよい

家庭でのエネルギー消費

自分も調べてみるまではよく知らなかったのが、実は家庭でのエネルギー消費の多くは給湯や暖房だったらしい。

実に、家庭でのエネルギー消費の6割以上は給湯や暖房だったのだ。このデータは古いので、いまはもう少し改善しているかもしれないが、ここを改善すれば家庭でのエネルギー消費は多く改善できる。

特に、給湯や暖房をガスや石油などの化石燃料に依存している場合は、ここを削減できれば、脱炭素化を大きく進めることができるはずだ。

例えば、多くの人は夜お風呂に入ると思うのだが、そのお風呂のお湯をガスで沸かすのではなく、昼間の温かい時間に太陽光発電による電気で沸かしてしまう。そうすれば、日中余る可能性のある太陽光発電のエネルギーを消費してしまうと同時に夜に使う分のガスを大幅に減らすことができる。

加えて、お湯としてエネルギーを貯めることにすれば、新たにバッテリーなどをつくる必要がなくなり、リチウムなどの鉱物資源の消費が抑えられるということになる。最新技術でもなんでもないが、単純にタンクにお湯としてエネルギーを貯めるようにすることで、次のようなメリットが生まれるのではないか?と思っている。

- 夏場などでも太陽光発電により電力が余ることがなくなる
- 電気会社の系統に負担をかけずに済む
- 家庭で使う化石燃料を大幅に減らすことができる
- バッテリーを使わないことでコストが抑えられる
- バッテリーの生産によるリチウムなどの消費を抑えられる
- バッテリーとは異なり、反復使用による劣化が発生しない
- ヒートアイランド現象が緩和される(ヒートポンプを使う場合)
- インバータが不要になる(直流で動くヒートポンプがある場合)

エネルギーをどれくらい貯められるか?

では、太陽光発電が日中に発電するエネルギーをお湯として貯めておくとしたら、どれほどのエネルギーを貯めることができるのだろうか?

例えば、1000L のタンクの水を 10度から45度まで温めることを考えると、単純計算では概ね 40kwh のエネルギーを貯めることができる。

つまり、縦 1m X 横 1m X 奥行き 1m くらいの水槽があれば、いまどきの電気自動車が積んでいるくらいのバッテリーに相当するくらいのエネルギーは簡単に貯めることができるという訳だ。

但し、「お湯を沸かす」という目的のためには、ヒートポンプという技術があり、この技術を使うことで、かなり効率よくお湯を沸かすことができる。空気中の熱をうまく使うことができるためだ。

ヒートポンプを使うことで、通常は 3倍くらいは効率よくお湯を沸かせるので、1000L の水槽に貯めることのできるエネルギー量は電気に換算して 1/3 の 13.3 kwh くらいになる。

ちなみに、テスラ のパワーウォールというバッテリーがちょうどこれくらいの電力(13.5 kwh)を貯めることができるのだが、税抜きで 99万円ほどらしい。工事費を入れると、もう少し高くなると思うのだが、結構いい値段になる。

同じくらいのエネルギーを貯めるのならば、電気を直接貯めることを諦めて、お湯として貯めることにすれば、コストは大きく減らすことができる。実際、バッテリーで電気を貯めるとしても、最終的にお湯としてエネルギーを消費したいのであれば、どうしてもヒートポンプは必要になる

もちろん、「お風呂だけはガスで行く」ということであれば、ヒートポンプは不要になるが、家庭でのエネルギー消費の6割近くを給湯や暖房が占めていることを考えると、脱炭素化からは大きく遠ざかってしまう。

現状では、1000L ものお湯を貯められるエコキュートはおそらくないのではないかと思うが、500Lくらいの容量のものはあるので、2台組み合わせれば、これくらいの容量のシステムは割と簡単に実現できるのではないかと思う。

ただ、こうしたやり方をするとなると、場所を取るので、少し田舎の一軒家でないと無理かもしれないが、理屈上は並列化で容量は幾らでも増やすことはできる。農業用ハウスの暖房等にもヒートポンプは使えるかもしれない。

大雑把な計算

日本の世帯のうち、もし 100万世帯にこうした蓄熱槽を設置することができたら、どれくらいのエネルギーを貯めることができるようになるだろうか?

蓄熱槽が電力 13.3 kwh に相当するエネルギーを貯めることができると仮定すれば、100万世帯 = 1330 万kwh となる。単純に原子炉の出力を 100万kw と仮定すると、おおよそ原子炉1基をフルパワーで稼働させたときの 13時間分の電力は貯めることができることがわかる。340万kw の出力を持つ火力発電所であれば、おおよそ4時間分くらい。

太陽光発電で日中の数時間分の発電量が余るとしても、これくらいのエネルギーのバッファがあれば、十分に吸収できるのではないだろうか?

技術革新は必要か?

電気を電気のまま貯められるバッテリーは素晴らしい技術だが、実際の問題を解くという観点からはヒートポンプと水槽という既存技術の組み合わせでも問題を解くことができるのではないかと思っている。

実際、テスラ のイーロン・マスクもヒートポンプに目をつけているようで、来年からヒートポンプに手をつけるかもしれない、と言っている。日本では既に当たり前の技術だが、それをおそらく新しい切り口で持って来ようとしているのだと思う。

イーロン・マスクは、次々に革新的な産業のタネを生み出しているが、この人は基本的にはゼロから新しい技術を生み出しているようなケースは実は少ないのではないかと思っている。むしろ、目の前にある問題を解決するために、既にある技術をきちんと見直して、新しい視点で組み合わせているだけのような気がする。こうしたやり方を取ることで、数年という極めて短い期間にさまざまな分野で成功を納めているのだ。

私は個人的には「エンジニアリングは既にある技術をきっちり組み合わせて、困っている人を助ける仕組みをつくること」ではないかと思っている。そういう意味では、イーロン・マスクは「研究者的な意味での天才」というよりは、エンジニアとしての圧倒的なバランス感覚を持った「エンジニアリングの天才」だと思っているのだけど、どうだろう?

もちろん、技術者や研究者の視点からは、新しい技術をつくることは楽しいし、やりがいもあるのだが、時間もかかるし、コストもかかる。また、リスクもある。新しい技術を生み出すことは技術者・研究者冥利に尽きる楽しい部分ではあるのだが、そうした面でマイナス面も多く持っていることを忘れてはならないだろうと思う。

日本は、いつも革新的な要素技術を生み出すところまではうまく行くのに、なぜか事業化する段階くらいからコケまくる…というか、産業になるくらいの段階くらいからコケまくる…というか、そういう傾向があるように思う。

まあ、「すごい要素技術ができた〜」というのは、技術力をアピールするにはいいのだけど、ビジネスとしてはそこから先が重要というか、そこからが勝負というか、そういう気がしている。

けれども、日本の過去何十年かを眺めてみると「戦術レベルでは勝利しているのに、戦略レベルでは負けている」みたいなことが何度も起きている。もっと言うなら「ガンダムはちゃんとできていたのに、なぜか戦争には負けちゃった」みたいなことが何度も起きている。そんな印象があるのだ。

でも、今度こそはそんな風にならないよう、偉い人が「ザクでもちゃんと勝てるような戦略」を立ててもらえたらと思うのだけど…

もっとヒートポンプを推進するには?

とは言え、ヒートポンプの技術についてはもっといいものになって欲しいと思っている。

例えば、エコキュートのエネルギー効率は段々と向上してきているが、本当に 90度のお湯として貯めておく必要があるのか、ちょっと疑問に思っている。もし、これを50度まで下げたら、エアコン並みに COP を向上させられたりするのだろうか?とか、いろいろ思ったりしているのだが…

もし、この部分で更に細かな性能向上を積み上げて、COP を更に向上できれば、かつての日本の自動車が燃費で優位に立てたように、この分野でも圧倒的な優位性を確立できるのではないかと思っている(こういう磨くタイプの技術革新は日本は得意なはず…)。

おそらく、今後ヒートポンプが日本再生の武器になるか否かは、このヒートポンプが脱炭素のための有力なツールであることをどれくらいうまくアピールできるかどうかにかかっていると思う(Wiki によれば、ヒートポンプは既に国際機関でも高く評価されているとのこと)。

さらに海外を見ると…

海外を見ると、暖房をいわゆるセントラルヒーティングでまかなっているところが多く、実はこうした古いタイプの暖房をヒートポンプに替えるだけでもかなりの脱炭素化を進めることができるのではないかと思っている。

ドイツなども太陽光発電は進んでいるものの、古い建物などではまだ石油でセントラルヒーティングを動かしているんじゃないかと思う。おそらく、ヒートポンプでそんな高温をつくれると思っていなくて、諦めているんじゃないだろうか(あるいは高過ぎるとか…)。でも、そういうところにこうした日本の技術をうまく売り込めれば、実は大ヒット!みたいなことになるんじゃないかと密かに期待しているのだけど、どうだろう?

ヒートポンプは機械部品も多く、故障が少ない製品を作ろうとすれば、一朝一夕では作れない。まさに日本のお家芸的な部分だと思っているのだが…

技術立国としての日本の華々しい時代を見てきた世代としては、世界中のボイラーを日本のヒートポンプで置き換えられるような日が来ればいいな…と思う。

余談

この記事を書き終わって、ふと思ったのが「自分のうちの給湯はヒートポンプにできるだろうか?」ということだった。古い団地だし、設置スペースは狭いし、完全に諦めていたけど、どうなんだろう?「ガス給湯器と同じスペースに…」というのは難しいのかな。

ウォークマンみたいな精密なメカの塊を作れた日本なら、そういうのもできそうだけど…


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