#1 資本主義世界での医師

「医師という職業は人の命を預かる神聖なものであるから、そこにお金の思想を持ち込んではならない」、と言いながらいつも患者さんから心付けをいただく先輩医師がおりました。まだ医療業界に飛び込んだばかりのころで、こんな昭和的慣習がまだ残っているのだと驚愕した記憶がありますが、お金という概念を診察という神聖な領域に持ち込まないためには心付けを断ったほうがいいのではないかと考えたのですが、そう一筋縄ではいかないようです。

医療業界でお金の話はタブーであるというのはほかの先輩医師医師からも言われたことがあります。「僕はね、お金で働いてるわけじゃないんだよ。君みたいな医療サービスを提供する対価として患者は金銭を支払うなんて発想はいただけないね。医療は気持ちでするもんだよ」と。おっしゃる通りかもしれません。でも、残念ながら気持ちだけで職業を全うできる時代は医療業界だけでなく終焉に向かっていて、尊厳を持った一人の「人間としての医師」になる必要に迫られている潮流にあります。よって、生活基盤がきちんと保証されるQOLが前提にならなければならないのではないでしょうか。幸福はお金によってもたらされるものではありませんが、最低限のお金がないと幸福になれない時代です。

でも、医療の世界はまだ資本主義の荒波に揉まれていません。産業革命前夜の黎明期的な様相を呈しております。あなたが偉大な数学者であるポール・エルデシュのような人生を送ることができるのであればお金のことは考えずに医療のことだけに集中すればよいでしょう。でも、普通の人間であれば人生のすべてを1つのことに捧げることなんてできないのです。恋愛をして、デートで格好つけて結婚したものの、結婚の先にあるものは日常が待ち受けています。それが生活です。生活を支えるものは金銭であり、資本なのです。でも、まだまだ医療業界は守られています。

今後の保険行政や高齢化の波、そして医師が増加傾向にあるという事実を鑑みると今後の医師の働き方は将来的に買い叩かれる運命にありそうです。

保険診療だけをおこなっている医療機関であればまだまだ金銭的発想よりも医師としての使命感からくる医療を提供することで医師は一定水準の対価は獲得できそうです、いまのところは。

でも、医療法人というのは設立するには年数単位の実績が必要なのに、なぜ医療業界からではなく参入してきている一般企業がいきなり美容クリニックを立ち上げたりできているなど考えたことがあるでしょうか。

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かつて金融業界に在籍した現役医師がお金についてボソボソとつづります。

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