23.図鑑は脳の舞台装置
美しい電子顕微鏡写真と構造図で見るウイルス図鑑101
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三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェアでお買い上げの方に渡す特製カードに350文字のオススメ文を寄せた。以下、そのまま引用する。
ウイルスのアトラスとかよく考えるよなあ、ってかんじです。こういうのが自分ちの本棚に並んでると「アレなかんじ」がすごくあって最高ですよね! それはともかくウイルスの形状なんてものは合理性と適者生存のつばぜり合いから生まれてきた芸術みたいなものですので、いってみれば原子の構造とかと同じように理系人間を興奮させるものではありませんか。ぼくはかねがね、こういう本をデスクの横にならべて「病理の部屋にいくとマジでなんの本でも読めるんだよ」みたいなことを言われたいなあと思っておりましたから、即座に買い求めました。本をいっぱい持っている医療者、というポジションはおいしいです。ときおりめくってひとりほくそえんでおります。AIによる自動色つけとかしたらどうなるんだろうな!
今から、明治~大正時代くらいを舞台とした小説を思い浮かべてください。
主人公は「書生」です。
涼しい顔の。着流しが似合う感じの。
居候している文豪にお使いを頼まれて、財閥の屋敷に行くことになります。盛夏の候。汗をだらだらと流しながら坂を登っていく。かげろうの向こうに、垣根が見えてくる。どこまでが庭なのか、もはやわからない。まるで森の中にたたずむような豪邸が見えてきます。
潜り戸のように茂ったつたを抜けて、上がりかまち、ごめんください、ごめんください、と声をかけます。
するとぱたぱたと少女が出てきます。年の頃は16,7といったところか。透き通った声で「いらっしゃいませ、どちらさまですか」。
しばし目を奪われる。しかし見つめるのは失礼だなと思って、つと目線を外します。
少女はそれに気づいているのか、いないのか。「ああ、うかがっております。どうぞこちらへ。」名乗りも名乗らせもせずに、家に通されます。
「父は今戻ります」というので、彼女が目当ての人の娘だとわかる。
そのまま応接間らしきところへ。
蝉の声。
氷の入った茶。
少女がいなくなって部屋を見回すと、大きな大きな本棚があって。
百科事典のようなものがずらりと並んでいる。
ふと、わきにある小机の上に目をやると、なにやら、一冊の本が抜かれて開いて置いてある。
少女も主も、歩いてくる気配はない。
息を詰めて、そっとソファから立ち上がり、本に近づいて、中をみて、あっ、と息を呑む。
みたこともないような有機的な構造物。
およそ人の手で作ったとは思えない造形。教えられても描けない規則性。
いったいなんだこの異形は……と、本を閉じて表紙をみやると、そこには、
『ビールス』
と読める文字が……。
「ご興味がおありかね」
はっとふりむくとそこには(無料記事はここまでです。続きを読みたい方は会員登録してください。)
みたいな小芝居に使える小道具としても大変優秀な本です。一家に一冊。むりか。
(2019.8.14 23冊目)