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言語があるから人々は分断され、分断された人々は言語によって心を通わせる

He caused a tumult among them, by producing in them diverse languages, and causing that, through the multitude of those languages, they should not be able to understand one another.
(Josephus' Antiquities of the Jews)

神は人々に異なる言語をしゃべらせることで、混乱を引き起こした。言葉が多様になったために、人々は互いを理解できなくなってしまったのである。
――フラフィウス・ヨセフス『ユダヤ古代史』より



だいたいぼくは今3歳なんだけど2歳のときからZoomを使っていた。

目の前には大須賀覚がいて、ぼくらの時差はたしか9時間あって。

正月にZoom飲みをしましょうと誘われてぼくは、誰もいない職場でひとり、ノンアルコール・ビールを開けたのだった。



大須賀は「新年ですので情報交換をしませんか」と言った。


短い言葉に省略のニュアンスを感じ取る。


「新年」という言葉の前に、「旧年は解決できなかったな」という後悔があるだろう。


「ですので」の後に、「今年こそなんとかしてやろう」という意気込みがあるだろう。


「情報交換」の上下左右に、「自分の居場所から見えていないものを知りたい」という軍師の本能が見え隠れするし、


「しませんか」の影に、「するよな!」という将軍のオーラがにじむのだ。




「年も変わったことですし、世界も変えていきましょう。」

彼はそういうことをシレッと言うタイプの人間だ。

ぼくなりに大須賀覚をひとことで表すならば、

「がんばれば実現可能なラインぎりぎりのロマンを語る男」

である。




ぼくは彼がいつも、

「もうがまんならないんですよねー」

と言っているように聞こえる。

実際にはそうストレートには言っていないのだが。


「ほんとうに今すぐなんとかしなきゃいけないと思うんですよー」

と書きまくっているように見える。

ほんとうはもうちょっとスマートな文章を書いているのだが。


それらを日ごろ、「省略している」ことがわかるからこそ。

ひとたび放たれた彼の「檄文」は、素通りできない。

「あっ……大須賀が言葉にした」

そう感じると、全身の毛穴が縮んで、体内に熱が閉じ込もる。

なんだか、界王拳の極意がわかるというか、ギアセカンドの秘訣がわかるというか、

よしわかった、俺も行く。そうつぶやいて、外付けキーボードを自分の方に引き寄せる。




Zoomというのは視線が合いにくいツールだ。しかし彼はいつも、こちらの心の視線を探り当て、魂で目線を合わせて、堂々と語る。

しかしその一方で、ときおり、何やら遠くの方を見て、三半規管を完全に静止させた状態で、黙考に入る。



サブモニタでネコ動画でも見ているのかな(笑)。



いや、彼は、

互いの言葉の違い、

視座の違い、

間主観性の罠、

環境がしゃべらせる言葉に責任が乗ってこないこと、

二項対立でしかインプレッションを上げられない蒙昧さ、

正しさの定義の難解さ、

ため息に続く言葉は風圧に負けてしまいがちだということ、

医療の多重階層構造に呆然とし、

ニセ医療の狡猾さに愕然とし、

Yahoo!個人で活躍する個人医師をいたわりながら、

メディアの片隅で奮闘する人々も慮り、

死んだ友人の、家族からの手紙を暗唱して、




手元のドリンクに口を付けることもなく、心は誤解の平原に佇んで、

「医療情報をより適切に広めていくために、俺たちは何ができるだろうか」ということを、おおまじめに語るのだ。





あっははは! おもしれぇなー。

だったら俺はバベルの塔を建てよう。

誤解の平原にふさわしい塔を。

今度は、壊されないように。