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155.お役所仕事と言うけれど

日本医療の近代史

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三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェア(本記事は2019-2020のヨンデル選書 2nd seasonが対象)で、お買い上げの方に渡す特製カードに350文字のオススメ文を寄せた。以下、そのまま引用する。

医学生は「医学史」という授業については必ず履修している。ただしほとんどの学生にとっては講義の大半が濃厚な睡眠時間となる。せいぜいガレノス、パスツール、コッホなどの名前を覚えて終わりだ。しかしこの本を読むと、人類の歴史の中で医療というものがどう移り変わってきたか、技術の発展と共に社会制度としての医療がどう移り変わってきたかが克明にわかる。特に日本医療が江戸鎖国時代から開国を経て明治、戦中・戦後、55年体制、そして現在へと連綿とつながる間にどのように政策化・制度化してきたか、厚生労働省や医師会、中医協などの生まれた背景などはマジで感動するほど精密に描かれている。さいとうたかをや横山光輝によってマンガ化されるレベル。壮大。なお第1章の注釈26にぼくが出てきます。光栄。あとがきの謝辞を読むと感動する。

宗前清貞先生の精緻な著作。医療の歴史というと、技術がどのように発展してきたか、というプロジェクトX的なものを思い浮かべるか、あるいは感染症との戦いの歴史みたいな世界ふしぎ発見的なものがイメージされるが、本書は医療政策や医療制度のことに切り込んでいるのでどちらかというと「さいとうたかをの劇画」的な印象がある。ツイッターには「お役所仕事」を揶揄する人たちがあふれているけれども、お役所の仕事というものがどのように移り変わってきたのかを勉強せずに薄い表面的な情報だけで叩いていいわけがないのだ。こんな本に引用していただけるなんて(くり返しになるが)光栄である。

(2022.7.8 155冊目)

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