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180.最終回のあとには

すべて忘れてしまうから


(上記リンクをクリックすると版元ドットコム。いろいろな場所で買えます。)

三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェア(本記事は2020-2021のヨンデル選書 3rd seasonが対象)で、お買い上げの方に渡す特製カードに350文字のオススメ文を寄せた。以下、そのまま引用する。

週刊誌「SPA!」に連載されていた一流のエッセイ、というかこれはもう幻想小説? ジャンルを指定できない「燃え殻の本」と言ってもいいでしょう。この連載は第1回から「SPA!」で読んできました。表紙もキャッチコピーもゲスみあふれる大衆紙の鑑なので、書店で買うのに抵抗があり、だからスマホのdマガジンというサービスを月額契約して、毎週火曜日の朝6時に電子版が更新された瞬間に「すべて忘れてしまうから」のところだけを読んでいました。本の形に編まれたことで魅力がさらに増大。スマホの小さな画面で読むのもオツでしたけれどもね。なお、この書評カードが三省堂に並ぶ頃、連載はおそらく終了しているのではないかと思います。ぜひこの機会に書籍版をどうぞ。自分の脳にある使用済みのプロット、あるいは未使用のプロットをそっとなぞってくれる。

燃え殻さんの文章の中で複数の時制が交差する部分にぐっと来る読者は多い。ピカソのキュビズムがいまだに絵の素人から見ると「なんじゃこりゃ」と思われてしまうのに対して、燃え殻さんの文章がふだんあまり本を読まない人から「なんじゃこりゃ」と言われることはない。普段は内容とか情景ばかり語られがちな燃え殻さんの本だけど、本当は文章がとにかく激烈にうまくて、当代のほかのエッセイストと比べても燃え殻さんの文章はとりわけ「音読したときに脳が喜ぶ感じ」が強く、このリーダビリティの高さこそが彼の世界をほんとうに手触りよいものにしてくれているのだと思う。

3年ちょっとにわたって毎週本とその書評を公開してきた週刊ヨンデル選書、最後はどうやって終わろうかと思ったけれど、ああ燃え殻さんの本でまだ紹介してないのがあったなと気づいたときから、終わりはこの本と決めてました。最近文庫版も出たのでさらにお求めやすくなったのもよかった。本は出版したタイミングだけが買い時なのではない。


(2022.12.30 180冊目)


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