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【ほししいたけファンインタビュー】料理研究家 冬木れいさん

1)ほししいたけ、あなたの推しポイントは?

 第一には、乾物なので常備しておいていつでも食べられることでしょうか。第二に、ほししいたけの旨み成分「グアニル酸」や香り成分「レンチオニン」には血液サラサラの効果があることや、骨を丈夫にするビタミンDや免疫を高める効果や抗がん性のあるβグルカンなどを含むことなど、薬膳的にも重要な食材という点ですね。身近な存在のしいたけを常食することで、骨が丈夫になり血液がサラサラになって、さらには免疫力も上がる。まさに、いま欲しい効果が得られるサプリそのものと考えても良いのではないでしょうか。薬膳の考え方が浸透している中国で、しいたけがやたらに使われるのも理解できる気がします。また、寒い時期にゆっくり成長した質の良いしいたけだけがほししいたけになるという点からも、信頼できる食材だと思います。

2)ほししいたけとの出会いはいつ?どんなふうに?

 ほししいたけというと、私の中では「義母が作ったお節料理のしいたけの煮しめ」なんです。甘くてコクがあって、きゅっとした食感で、驚くほど美味しかった記憶が強烈に残っています。ちょっと例えが違うかもしれないのですが、美味しいチョコレートを食べた時のような感動がありました。もちろん、それまでにも筑前煮などに入ったほししいたけは食べていたのですが、しいたけの存在感を感じて「しいたけすごい!」と思ったのはこの時が初めてでした。

こっくりと甘いしいたけの煮しめ

 その後、味を再現しようと自分で煮てみたのですが、何度やっても味がはっきり仕上がらない。秘密は、最初に砂糖だけでしいたけを煮て真ん中まで甘さをしっかり入れた後で醤油を加えるという方法でした。考えてみたら、「さ・し・す・せ・そ」料理の基本ですよね。
 江戸料理といっても差し支えないほど濃い味なのですが、日持ちするのが良いところです。今でも我が家では、ほししいたけと砂糖・醤油だけで作る煮しめをお節に入れます。ただ、しっかりした濃い味なのでたくさんは食べられなくて、いつも余るんです。でも、これをすし飯と一緒に握るといい感じになるのを発見してからは、煮しめ→お寿司のパターンが毎年の定番になっています。

しいたけの煮しめのお寿司

3)冬木さんは普段何をしている人ですか?

 料理研究家としてレシピ提案をする傍ら、日本各地の素晴らしい食材を使用した商品の開発、飲食店のメニュー監修などを行っています。身体に良い食を求めて中国の薬膳料理を入口に日本の本草学にも触れ、江戸料理に出会い、深く研究するようになりました。
 ちなみに、徳川家康は献上された中国の薬物学を紹介する李時珍の『本草綱目』を熟読してかなりはまったそうで、その命により江戸時代に本草学や医学が発展したと言われているんですよ。 

 室町時代から戦国時代を経て江戸時代になると、料理というものに庶民も親しめるようになって多くの料理書が発行されました。料理の作り方だけでなく献立だけの本や加工品の本など、400〜500以上が残っています。面白いことに、これらの料理書を紐解いていくと、江戸時代の料理がとても自由で工夫に満ちていたことがわかるんです。江戸時代初期には卵を使ったスフレのような「たまごふわふわ」というお料理がありましたし、ごぼうをすりつぶして団子にして揚げた「ごぼうもち」などは現代の味覚にも合う一品で、私のお気に入りです。
 そんな経験から、2016年にはNHKのドラマ「ブシメシ!」の料理監修を担当させていただきました。ロケ地の日光江戸村に赴き、撮影用の料理を作るのは本当に大変でしたが、今では良い思い出です。

 このドラマがっきっかけで、コレド日本橋の江戸料理店「奈美路や」の献立も監修することになりました。江戸時代の大ベストセラー「豆腐百珍」を題材にしたコースもご用意していますので、お立ち寄りいただけたら嬉しいです。

コレド室町にある「奈美路や」では、江戸料理が楽しめる

4)みなさんにどんなふうにほししいたけを楽しんで欲しいですか?

 旨みや食感などお肉のような存在感のあるほししいたけを、メイン食材としてとらえてみてはいかがでしょう? 例えば、私は戻したしいたけに片栗粉をまぶして素揚げにした「しいたけのから揚げ」をよく作ります。大根おろしを少し加えた天つゆや、お醤油をつけても美味しいです。新潟生まれの友人が教えてくれたのですが、しいたけ本来の味が楽しめるお料理だと思います。

しいたけのから揚げ

 薬膳料理の発想からは、もどき料理も良いですね。しいたけをハサミで細長く切って田うなぎに見立て、素揚げにして甘辛い味付けをした料理など目先が変わって面白いでしょう。
 お肉と合わせるお料理では、しいたけの量を増やしててみることもおすすめしたいです。しいたけはお肉と比べても十分な旨みや食感がある上に、低カロリーで栄養成分もいろいろ含まれています。しいたけの分、お肉の量を減らせるので家計にも優しくなります!
 また、もどす時にお水ではなく鰹・昆布だしやトマトジュースを使うのも、おすすめです。昆布やトマトのグルタミン酸や鰹節のイノシン酸とほししいたけのグアニル酸とのうま味の相乗効果を手軽に楽しむことができますよ。

 江戸時代には、まつたけよりしいたけの方が人気が高く、高価だったそうです。当時は今ほど栽培方法が確立していなかったため希少だったこともあるでしょうが、なにより江戸っ子はしいたけの味を好んだようです。皆様も江戸っ子に倣って、ぜひしいたけをたくさん召し上がってくださいね。

江戸っ子はまつたけよりしいたけを好んだという

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