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夏は夜より午後の雲


 夏の雲は壮大だ。陸橋とか立体交差とか少し高い所でふと気づく。東の空に白く輝く入道雲。西陽をうけて煌々としている。入道雲の白はこの世に存在しうる全ての白の中で最も白いのではないだろうか。更にその白は単一の白ではなく、様々なグラデーションの白が入道雲を構成している。キングオブホワイト。イメージとしてはアニメ映画で描かれるオリンポスが近いが、日本人なら天空の城ラピュタを思い出すだろう。入道雲をみて「竜の巣だ」なんて呟いた経験が誰にでもあるのではないだろうか。


 ここはだだっ広い平原地帯。四方見渡す限りが真っ平らだ。東の地平線の向こうに入道雲ができている。かなり大きい。「よし、今日はあの雲を探検だ」僕はそう言って駆け出だした。
 入道雲は地表から2メートルだけ浮かんでいた。もちろん入道雲の下はスコール状態だ。めちゃくちゃ雨が降っている。「この雨の中を探検するのもいいな」僕はそう思ったが今日は雲の上に登ってみようと思っている。自作の縄梯子を投げて入道雲に引っ掛ける。
 入道雲には逆時計回りの登り坂がある。階段ではなくてスロープ状だった。「なるほどバリアフリーという訳か」僕は納得した。実は入道雲に登るために縄梯子を投げたのはいいがうまく固定出来ずに悪戦苦闘していると雲のエレベーターが降りてきて僕をあげてくれたのだ。目指すは車椅子でどこにでも行ける世界ってことか。
 登り坂を何周もしてやっとこさ入道雲のてっぺんにたどり着いた。すごく高いところまで来たもんだ。世界の果てまで見通せる。さすがに疲れたので少し休憩していくことにする。しかし直ぐに異変に気づいた。入道雲はものすごい速さでどんどん上に伸びているのだ。「この冒険に終わりなんてないってことか」そう呟いて僕は足下に広がる雲の海を眺める。「ああなんて白いんだ」

 
 コゼットはまた白昼夢をみていた。小さなネズミさんが大きな雲を登っていく夢だ。雲の上にはお城があって、差別のない自由な世界が広がっている。あのお城は誰のものでもない。お願いすれば誰でも行ける。夏の昼下がりから日の入りまで、チケットは想像力と好奇心でこと足りる。

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