映画感想⑭『あなたに触らせて』

こんチワワ。

『あなたに触らせて』

スペインのフリーク映画です。Netflixオリジナル作品でもあります。多分。違ったらごめん。

眼球が皮膚に覆われた全盲の娼婦、口と肛門が入れ替わっている少女、顔の半分が溶けるように崩れている女、人魚に憧れ足を不便に思っている青年……等々、所謂奇形や障害者と呼ばれる人達とその周りをいいように支配しようとする健常者達の話です。

これだけ聞くとバチクソ重い話に聞こえると思いますが、本編は全くテーマの重さ感じさせません。何故なら、画面が超パステルカラーだから。

全面を紫とピンクのゆめかわカラーで彩られた本作は、一昔前であればアングラサブカル文化をファッション視している人間にカルト的人気を集めたような雰囲気になっています。

初っ端から全裸のババ……おばあ様がでてきたり、レグカシーンやノーモザイク珍棒などショッキングなシーンが目白押しではあるものの、パステルカラーの暖かみによりかなり助けられてます。

しかし、障害者に対する健常者の態度や亀裂が入った親子の関係等かなり精神的にもボコボコに殴られるのでそこは覚悟した方がいいです。視覚は大丈夫でもちゃんと心にクるよ。安心しな。

ちなみに最後は不安や悩みを抱えていた皆が今よりちょっとだけ幸せになって終わるので微笑ましくなれます。めちゃくちゃに胸糞という訳ではないのであまり身構えずに見てね。絵面的に「oh......」となる部分はあるけど。

物語は最初は一人一人に焦点を当てオムニバス形式で進んでいくように見えて、徐々に各々の物語が繋がって一致していくといった形になっています。ずっと同じ人を映すわけでもないので中だるみせずに見れる。

テーマは一貫して「自分らしく真っ直ぐ生きる」だと思います。

特にそれが強く感じられるのが顔半分が崩れている女性の話。

彼女の周りには2人の男の人がいて、1人は同じように顔に障害を持ったギリェ。もう1人は奇形フェチの男エルネストです。

彼女はギリェのことを運命の恋人と呼び、エルネストについては別れ話を切り出します。

別れ話を切り出される前、奇形フェチエルネストは、彼女の写真でシコっていたところを母親に見られ(珍棒確定演出)、家出をしていました。そこで彼女に縋り付き、一緒に住もうと持ちかけます。エルネスト曰く、「君のような人間には中々出会えない。僕のタイプなんだ」とゾッコンの模様。

しかし、そんな彼に彼女が放った言葉は「貴方が好きなのは私の外見?それとも私の中身?」

は?辞めてくれ。。。基本顔から入るタイプのオタクにはしんどい言葉じゃん。。。推しに「顔だけなの?」って言われたら頭抱えて泣いちゃうな。

まぁ、私の話は置いておいて、この彼女とエルネストの食事シーンはこの映画の中でも1番ぐらいにメッセージ性が強いシーンなんですよね。

奇形であるからこそ好きになってくれたエルネストと、同じ感性と悩みを持っているからこそ惹かれ合ったギリェ。どちらが彼女の中で大切にできるかと言ったら、ギリェなんでしょうね。

彼女にとって、「顔が好き」っていうのは単なる欲望の押しつけでしかないんですよ。エルネストが彼女の写真でセンズリこいてんものその比喩だろうし。

これって別に奇形じゃなくても現実でも起こりうる問題ですよね。「見た目が好き」って言われると、「じゃあ、自分の中身はどうでもいいんだ」と思ってしまう。もちろん、見た目も好いてくれる人がいいけれど、やっぱり人間は精神的なところで繋がりを求めてしまいがちですから。欲も悩みも打ち明けられて同じ目標に向かっていける人間の方が良いらしい。知らんけど。

他に特徴的だったのは、人魚に憧れている男の子の話。

この子は、人魚になりたいから足を自ら切り落とそうとしてます。で、何故人魚になりたがってたかというと、昔離ればなれになった父親の入れてたタトゥーが人魚のイラストだったから。

彼の中で、父親に対する尊敬とタトゥーの人魚が重なって、人魚になれば、父は自分を認めて戻ってきてくれるし、父のように強くたくましくなれる。そう思ったんでしょうね。

子どもの頃の親に対する憧れが、その時見たものと強烈に重なって今でもこれを見ると親を思い出す。みたいな体験してる人いるんですかね。私は親に憧れを抱いたことがないので分かりません。メロンボールアイスを私にぶん投げた母がコントロールを誤ってガラス戸を割ったことがあるので、メロンボールアイスを見る度に当時を思い出すぐらいです。

この映画には、他にも生きづらさと障害を抱えたマイノリティな方々が登場します。それぞれ、しっかり芯を持って生きている人も居れば、漠然とした不安や、健常者からの悪意を背負って生きている人も居ます。

ただ、そこに映っているのは現代を生きている私たちとほとんど変わらない人間なんですよ。私たちも、不安を抱えたまま生きるし、他人の悪意に踊らされることもある。自分の見た目が気になって怯えたまま外を歩くこともあるし、誰かに対する尊敬や好意が誰にも受け入れられず悶々とする夜もあるんですよ。

ただ一歩、少しで良いから自分なりに前に進めたら、世界が少し違って見える。

そういう映画です。

ド派手な映画じゃないけれど、「あぁ、こういう暖かさとか得もいえぬ不安感と焦燥感あるよなぁ」って感傷的に浸れる映画。

「自分らしさ」ってなんだろう。って思ってる人は1回見てみたら良いんじゃないすかね。知らんけど。

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