「あのさ、TikTokで見たんだけど、

Instagramのストーリーってあるじゃん?あれ、閲覧人数が45人を超えたら見た人の並びが見た順じゃなくてデフォルト順になるんだってさ」

風呂に入っていると聞こえてきた会話の1部。下級生の女の子2人が湯船で楽しそうに会話している。

「で、そのデフォルト順の上から自分の投稿をよく見ている人らしいの」

「え、うーんと、じゃあ1番上にいる人が私のインスタをよく見てる人ってこと?」

「そういうこと!それ知ってストーリー確認したのね、それで、誰が1番上にいたと思う?」

「えー?誰?」

「お前!」

予想外のオチにキャハハと笑う2人。「そう言えば最近投稿見たかも〜○○の担当分からなくなってさ〜」「あー、最近変わったからね」なんて会話が続く。

良い。

情報の仕入れ方がTikTokという胡散臭さと信ぴょう性の無さ。その中に垣間見える若さと純粋さ。
「お前」呼びから推測できる2人の仲良し度。
「担当」という単語から連想できるジャニーズヲタク性。
そういう、一貫性の無い1日もすれば忘れるような些細な会話がめちゃくちゃに好きだ。

どうでもいい赤の他人の雑談。
学生寮の大浴場に入っているとこういう話が沢山聞ける。
「バイト先のおばさんがウザい」とか「最近気になってた先輩に彼女がいた」とか「市内で飲んでたら門限に遅刻しそうになった」とか。
知らない人達の役に立たない日常会話。

盗み聞きするつもりは毛頭ないが、耳に入ってくるとついつい話を聞いてしまう。
そうして、知り合いでない限り会話に入ることはなく、心の中では(うんうん、そうだねぇ)、(そうなの!?それは辛いねぇ)と相槌を打ってしまっている。

風呂はどうしてこうもインスピレーションを高めるのだろうか。
時たま、メンタルに余裕が無い時は風呂の賑やかさにイライラしてしまう時もある。
だが、それ以外は他人の何でもない会話すらも何だか良いものに聞こえてくるのだ。

温泉が好きだ。
“お風呂”という日常生活に密接に関係した施設なのに、そこには不思議な非日常感がある。

私は遠出時必ず温泉に入って帰る。
駅チカのスーパー銭湯、ホテルの中にあるちょっと良い温泉、知る人ぞ知る地元の老舗。
初めは、「夜行バスだから帰ってすぐに風呂に入れない(寮の風呂は利用時間が決められているため)のが嫌」という理由だった。バスに乗る前に入っておけば、次の日自室に帰っても臭いや汚れを気にせず倒れ込める。
だが、いつの間にか帰りに温泉に入ること自体が遠出をする際の1つの楽しみになっていた。

温泉に入ると知らない人との繋がりが勝手に生まれる。
その土地や時間によって客層は変わり、湯の雰囲気も一気に変わる。
と言っても、基本的にはそれなりにお年を召したいわゆる“マダム”的な方々が主な利用客だ。
マダムはよく喋る。そしてとてもフレンドリーな人種だ。
私が聞き耳を立てるより先に誰彼構わず話しかける。もちろん「誰彼」の中には私も含まれている。

私が遠出をしていたのは基本的に就職活動の為だった。
ホテルの温泉に入れば、「あら、お仕事かしら?どこから?ここのお湯、ちょっと熱いでしょ、お水入れてもいいのよ」と優しく且つグイグイとマダムは距離を詰めてくる。
「あ、いえ、就活で。広島から。お水ありがとうございます」なんて答えれば、「えぇ!広島から!また遠いところから有難うね。就職大変ね」と話が広がっていく。

他愛のない会話。今ここで出会いもうすぐここで別れる人との会話。
相手はさっき顔を知った程度の他人であり、それ以上でも以下でもない。

この感覚が、距離感が、心地好い。頭がクラクラするほど好きだ。
きっとこれは風呂という空間だから作り出せる技なのだ。

たまに、イキって刺青を入れたくなる。
蟲とか臓器とか髑髏とか好きなバンドのロゴとか、厨二心を擽られると入れたくなる。
だがふと温泉のことを思い出す。
刺青を入れると温泉に入れない。
そう思うとハッと我に返る。
カッコつけてイキることより、私は温泉を選ぶ。

もうすぐ寮を出る。
もうあの大浴場にも入れない。そう考えると何か、こう、一種の寂しさのようなものが込み上げてくる。
特段綺麗な風呂場では無かった。寧ろ長年の歴史を感じさせる貫禄ある姿だった。混むと全裸にタオル一丁で空きが出るのを待たなきゃならないし、かなり声が響くから周りがうるさい時は本当に頭が割れそうなほどイラついた。

4年間、そうやって間接的に毎日誰かと入っていた風呂は、今度はまたたった1人で入るものに変わっていく。
何でもない日常の変化である。

大阪の温泉を調べる。
スパワールドに空庭温泉。デッケ〜温泉テーマパークだ。絶対に行きたい。
犬鳴山温泉というところもある。私じゃん。(違うよ)
スーパー銭湯もめちゃくちゃな種類がある。

ここが楽園かい。

まだ引越しの準備すらできてないのに、大阪の温泉に思いを馳せる。
仕事で辛くなった時はここに行こう。
USJで遊んだ帰りはここに行こう。

こういう想像は楽しい。

ささやかだが他人には理解できない私だけの小さな幸せ。
良いだろ、最高だろ。




ところで、もうすぐ退寮だと言うのに、未だ片付けが一切終わらず部屋が散らかりまくっています。

助けてください。



(左下若干モザイク消し忘れてんのウケる)

終わり

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