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音楽のフォルム


 自分が携わったレコーディングの音源が完成した際。結果として、デモテープを超えてないと感じることがあります。

 高い予算で丁寧に作ったはずなのに、本番に向けての準備として録音したデモの方が荒削りでもグッとくる、といったケースです。

 本番だからこそ・・・演奏にも音作りにもさらに気を配って、隙のない音源を作ろうとする。

 それが行きすぎてしまって、いつの間にか音楽のフォルムがぼやけてしまうんですね。

  音楽のフォルムとはどういうものか。伝説のミキサー、吉野金次さんが著書の中でこう書かれています。

 「たとえば、デッカイ看板があるとするよね。1メートルのところじゃ、何が書いてあるか、ぜんぜんわかんないわけ。それで、だんだん、離れていくと、ある瞬間、全部の字が見えるようになるでしょ。そこが、フォルムのポイント。あんまり、離れすぎちゃっても、字は見えるけど、その実際の大きさとか細かいところはわかんなくなっちゃう。看板なんかだと、どこがフォルムのポイントなのか、ハッキリとわかるけど、音楽みたいな、目に見えないものの場合は、もう、感覚だけでね。そのポイントを探さなきゃならないわけね。その部分がしっかり録れてないと、いい音してても、いい録音とは言えないの。」     (ミキサー はアーティストだ / 吉野金次)

 

 看板を音楽に置き換えるならばフォルムのポイントは”これはいいぞ!”という「確信」。看板のフォルムを判断するのが目からの信号ならば、音楽のそれは初期衝動と耳の基準(食でいう自分の味の基準)。

 そしてそこにたどりつくためには、細やかな作業やチャレンジ。長い時間が掛かったとしても決してフォルムをぼやかさないプロジェクトのバランス感覚が必要。

 全体化と細分化。

 ものを作ると言うことには自ずと当てはまるように感じます。

 僕の専門のドラム、リズムについても同じことが指摘できます。

 流れを意識するがあまり、リズムを大きく取ろうとしすぎると細かいところがぼやけてくる。正確さにこだわって細かいところをきっちりしようとしすぎると全体の流れを見失ってしまう。


けっきょく、どういうようにフォルムがとらえられるか、どういう結果を出せるか、そういう大事な部分を知るためにも、いろんな録り方にチャレンジしてみるってことが、必要なのね。ボクが、録音は自分勝手にやれっていうのは、そのためよ。     (ミキサー はアーティストだ / 吉野金次)


 フォルムのポイント。

 一度意識してみる価値があるかもしれません。

 

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