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『週刊DiGG』#14 -最新HIPHOP 7曲レビュー紹介('20/11/18〜11/27)-


|数字が証明するHIPHOPの盛り上がり|

毎日、数多くのHIPHOP MVがアップされています。どれぐらい多いかというと、HIPHOPブロガーdezaoさんが年単位で作っているMVのプレイリストには約4800本(12/1現在)があがっていて、このペースだと2020年は5000本を超えそうです。これを週単位で分割すると、毎週100本以上のMVが公開されているわけです。HIPHOPが盛り上がっているのが分かりますよね。



▼カタログ的にHIPHOPのMVを集めたdezaoさんによるプレイリスト


この『週刊DiGG』では、そんな数あるMVの中から11/18〜11/27に公開された7曲をセレクトし、レビューをつけて紹介しています。

数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そして時代の空気感を封入しました。曲を奥深く味わいたい方は、[▽さらに深掘り] も併せてチェックしてください。


▶︎ HIPHOPをどこから聴いたらいいか分からない
▶︎ 手っ取り早くいい曲を教えて!


という方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わいましょう。


※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。

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|TEN'S UNIQUE / FEEL SO GOOD|

2020/11/18 公開

7月15日に1stアルバム『OPEN YOUR EYES』をリリースし、大阪・岸和田のローカルから全国に名をとどろかせたラッパーTEN'S UNIQUE。発売後も止まることなくリリースを重ねている。

そんな彼の新曲「FEEL SO GOOD」は、圧倒的な幸福感に包まれる。'60sのアメリカンポップ〜ソウルを感じさせる管楽器の温もりあるサウンド。レゲエをベースにしたゆったりとした波のあるフロー。シンプルな言葉選びが身近にある幸せの存在を思い出させてくれる。

ネガディブな感情があるのはもちろん承知の上で、ポジディブさを堂々と掲げて歌う姿を見ると、なんだか力が沸いてくる。今年は色々あったけど、ハッピエンドの映画を見るように、年末はこの曲を聴きながら笑っていたい。

「いまここで  だたこうして
 いるだけで  幸せなんだ
 これはまだ 気付けない
 人の方が いるけれど」


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|Nature's Gangstar / AKIKAZE|

20/11/23 公開

常に自然の息吹を感じ、季節と呼吸を合わせるように曲を作るのは山に囲まれた街・埼玉県熊谷市で活動するクルーNature's Gangstar(3MC,1DJ,ビートメーカー)。

「AKIKAZE」と題されたこの曲は、大人っぽいJAZZYなギターでゆったりと始まる。秋の心地よさから受けたインスピレーショを、3人のMC(B.O.F、SEN-DDSK)が3者3様に描いている。

Verse2を蹴るSEN-Dは、すぐに過ぎてしまう季節の貴重さを、「冬には道中困難 行ける時には行っておこうあの場所」と山道から感じ取る。

また「繰り返す日々」と、この瞬間を俯瞰した視点から眺めており、それが浮遊感ある流れるようなシンセ音と、空撮を多用した映像とマッチしていて気持ちいい。

ラップが終わってからのMoogシンセのメロディと、タイトルの出し方も絶妙なので、最後まで見逃さずチェックして欲しい。


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|森羅 / Chaos-tic City(prod. MuRaw)|

2020/11/23 公開

急に冷え込んで、身が引き締まる夜。隙間をくぐり抜けた風のように、この曲が心を刺激した。

鋭利な言葉を一言、一言ずつ落としていく大阪のラッパー森羅。ハスキーな声が生活者のリアルを感じさせるリリシズム。

自分の暗闇を見れぬ臆病が
強さを誇示したがる ご苦労さん
善悪で割り切れるほど人は醜く無く
矛盾にこそ美がある 書くインクBlack

自分との会話、それは答えを出すことではなく矛盾に気づくこと。
重い言葉が、自分を深める時間を与えてくれる。

JAZZYなウッドベースが弦を弾き、冷たいピアノが暗闇で響く。



▽さらに深掘り

森羅のバックで使用されていた動きある和柄イラスト。白地をバックに画面を震えさせたり、意図的にピント外す様は、THA BLUE HERBが2007年に発表したMV「PHASE 3」を連想させる。

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|PACK3 / Night Age pt.2 feat. Dian|

2020/11/24 公開

MCだけでなくビートメイクも行うラッパーBLABLAVue du monde。OILWORKSからもリリース歴のある山口のビートメーカーm-al。この3人が新たに結成したユニットが、PACK3

彼らの1stアルバム『PACKQAGE』が12/4配信、12/16にはCDがリリースされる。アルバムからのリード曲「Night Age pt.2」は、KANDYTOWNからDIANを客演に迎えている。

濡れたConcreteが惑わすよ
まるで”90” Movie

Chillな心地よさを極めるm-alが、この曲ではホーンと女性ボーカルを多用し、90sのキラびやかさとアナログな手触りのダンスチューンに仕上げている。

個々のソロワークでは自らの音楽性を追求し、実験的な楽曲もあった。だが、この曲のワクワク感に、このままでは終わらないという意気込みを感じる。ユニットを組んだことで生まれた化学反応。アルバムがどんな色になるか楽しみだ。

Clickqnot&7AWやONENESSなど、黒人音楽からのサンプリングを主体とする渋めのBoomBapが好きな人におすすめの一曲。



▽さらに深掘り

ビートメーカーm-alの2019年12月発表作品。
窓をしたたる滴が見えてきそうな潤いあるビート。同郷のラッパーBUPPONは、リラックスしながら自らの内側へと旅をする。「問い掛けた 不意に何を思い出す」

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|Ryohu / True North|

2020/11/25 公開

11月25日に1stアルバム『DEBUT』をリリースするのは、大所帯クルーKANDYTOWNに所属するRyohu

コンスタントなリリースや客演が多さから、初アルバムだというのが意外に思える。それをメジャーから出すというから驚きだ。

Ryohuは、HIPHOPの枠に収まらずフレキシブルな活動をしており、そのレンジの広さが、曲のアレンジに反映されている。Verse1〜Verse2の間に流れるのはHOOKではなく、キックにディストーションをかけたガバサウンド。それにタブラのリズムを合わせるなど音楽的なチャレンジ行っている。

この曲には、自身がこれから歩むべき指針が書かれており、メジャーでも自分を貫く意思表示に受け取れる。

ただ「なくなっても俺は見失うことないTrue North」という気になるリリックや、数字(売り上げ?)についての記載もあり、メジャーでの戦い方をまだ模索しており、どこか冷めた視線も感じられる。

皆さんはどう読み解きますか?

過去も見ずに未来 どこにあるの未来
数の羅列ばかり いつか飽きて誰も見ない


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|SYJ record / Do or Suicide(prod. D.S.T-CANDY) |

2020/11/27 公開

大阪の若手クルーSYJ record(mc spirytusnew-tvite砂漠EiTANGLER)による熱い熱い熱波が伝わってくる曲。

「先の見えないラビリンス さあどうする
 残された選択肢2つ そのままのお前でカマすか
 苦しむ前にその命を絶つか」

タイトルから分かるように、退路を断った必死さが伝わってくる。どちらを選択しても生きづらいと言ういい意味でのあきらめが、生きる強さを生んでいる。

怒りにも似た勢いのあるホーンアレンジ。70年代のSOULミュージックは、白人に迫害された黒人たちの悔しさが音楽を発展させた。同様に彼らの溜め込んだ不満が、現状を打開するエネルギーとなって曲に叩きつけられている。この反骨精神こそBoomBapならではの醍醐味。

「地獄 生き地獄 2択の選択
 生きた証がペンを走らせる」


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|S.A.D Force / Maze|

2020/11/27 公開

ー Maze = 迷路 ー

大阪のラッパーS.A.D Forceはつくづく正直な人だと思う。

自分を信じたいけど、信じきれない葛藤をありのままにさらけ出している。いま夢を追いかけていて、正解がどこにあるかも分からず悩んでいる人には、この痛みが嫌なほど伝わってくるだろう。

周りの人たちが社会に認めれれていく様を記すことで、自分との違いを対比だけでなく、うらやましさも、そこには行けなかった孤独さも表していて見事。

そして、HOOKではネガディブな感情だけでなく、「本当はお空の下で笑いてぇ」と祈りにも似た叫びが胸を打つ。

良いことも悪いことも含めた感情の揺れを描けるのは表現者として、ラッパーとして優れている証拠。

悲しみと孤独を抱きながら、力強くかき鳴らされるギターに、このままでは終わらないと聴き手まで力が入る。

僕は一体何してるの?
周りに迷惑掛けていつまでも
自分信じたフリしてたのか?
なにもかもどうでもいいだろうな



▽さらに深堀り

S.A.D Forceの前MV「自殺」を紹介した記事。ショッキングなタイトルであるが、むしろポジティブな歌。こちらも描写の生々しさ、表現の巧みさが感じられる。

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今週のHIPHOPニュース

11月22日放送の「関ジャム 完全燃SHOW」にCreepy Nutsが登場し、R-指定がRIP SLYME、KICK THE CAN CREW、志人、SEEDA、BES、THA BLUE HERBがいかに素晴らしいかをライムを中心に語っていました。


地上波でこれらのアーティストが紹介された事も、RIP SLYMEがTwitterのトレンド入りしてたのも嬉しかったですね。やっぱり突き抜けて売れる人がいると、HIPHOP全体の底上げになるなと改めて感じました。

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さらにHIPHOPを知りたい人へ

『週刊DiGG』では、これからも毎週HIPHOPを紹介していきます。まとめて読みたい人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をチェックできるのでお好みでどうぞ。では来週もお会いしましょう。では🤚


▼著者が毎月2回作成しているプレイリスト。'20/11/15〜11/30までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかった曲がたくさんあるので聴いてみて下さい。







HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。