慢性骨髄性白血病と新型コロナウイルス
一年前に新型コロナウイルスが中国で発見され、あっという間に全世界に広がり、2020年は新型コロナウイルスの年となりました。
私は医療者として飲み会も帰省もない年末を過ごしています。
血液疾患の患者さん達は、新型コロナウイルスにかかると重症化し死亡する可能性が高いことが分かりつつあり、私たちよりも恐ろしい日常を過ごされているかも知れません。本当にしんどい一年でしたね。
ワクチン接種でコロナを恐れなくていい時がくる事を願います。とりあえず今のところは、三密を避けて、手洗い・手指消毒、マスクを徹底して、感染するのを避けましょう。
以前Twitterでツイートしましたが、メタアナリシスという論文をまとめて解析した論文で「成人血液疾患患者のCOVID-19死亡率は34%」と報告されました。(Blood (2020) 136 (25): 2881–2892.)
この解析には様々な血液疾患、さまざまな治療を受けている方が含まれています。
特に血液疾患の中でもそこまで免疫低下の印象のないチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)内服で治療を受けている慢性骨髄性白血病の方がどれだけリスクが上がるのかは気になるところでした。
先程のメタアナリシスでは、疾患ごとの死亡率が書かれていますが、慢性骨髄性白血病は骨髄増殖性疾患(MPN)にまとめられていてよく分かりませんでした。
この結果だと34%の死亡率とのことで、他の血液疾患と変わらない高い死亡率です。本当でしょうか。
まだ大きなデータはありませんので、はっきりとは分かりませんが、ここで新たに出ていた「慢性骨髄性白血病患者におけるCOVID-19(Blood (2020) 136 (Supplement 1): 46–47.)」の論文を紹介します。
この論文では110人のCOVID-19となった慢性骨髄性白血病患者のデータが紹介されています。
International CML Foundationという機関が世界中のCML患者を見ている臨床医からデータを得て、解析したものになります。
110人の内、8人が無症状で残り102人が有症状です。
49人は入院を必要とせず(軽症)。19人が中等症、19人が重症で集中治療を要しています(15人は重症度不明)。14%で致命的な経過を辿っています。
血液疾患がない方と同じで、高齢は大きなリスクになっています。75歳以上だと8人中4人が亡くなっています。一方、75歳未満では7%の死亡率です。
各年代別の生存率は以下のようになっています。
TKIを内服していると死亡率が上がるのかは一つ気になるポイントです。
今回の報告では70%の人がTKIを内服しています。
TKIの内訳は、ボシュリフ 12人 (11%)、スプリセル 39人(36%)、グリベック 17人(16%)、タシグナ 2人(2%)、アイクルシグ 1(1%)です。
死亡率はグリベックが25%なのに対して 第2世代TKI(ボシュリフ、スプリセル、タシグナ)は3%でした。
この結果だけ見るとグリベックが死亡率が高いように見えますが、私たちは高齢であったり、糖尿病や心筋梗塞などの病気をしている人には第2世代のTKIを避けて、グリベックを処方することが多く、その影響が強く反映されている結果だと思われます。実際イマチニブが投与されている方の25%が75歳以上です。
軽症の方はCOVID-19になっていても診断されずに見逃されていることも多いと思いますし、本当の死亡率はもう少し低いところなのではないかと思います。
今回の論文から分かる点は以下の2点かと思います。
① 慢性骨髄性白血病の患者でも高齢は重症化のリスクとなりうる。
② 慢性骨髄性白血病患者の場合、メタアナリシスの死亡率34%よりはもっと低いと思われる。
TKIの内服が重症化する率を上げるのか、TKIでリスクが変わるのかは更なる研究が必要です。
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