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造血幹細胞移植の目的

幹細胞(stem cell)とは分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と様々な細胞に分化する能力(多分化能)を持った細胞です。

造血幹細胞(hematopoietic stem cell)とは、自己複製能と様々な血球に分化する能力をもった、血液の親玉みたいな細胞です。

造血幹細胞移植とは、前処置(化学療法や放射線)でからっぽにした骨髄に自分または他人の造血幹細胞を入れる治療です。

では何のために移植をするのでしょう?

移植の対象となるのは1. 急性白血病などの血液悪性疾患、2. 再生不良性貧血、3. その他になります。

1. 血液悪性疾患

抗がん剤による化学療法を行うと、一定期間白血球が減り危険な時期を過ごします。その後、自然と血球が増えてきます。

化学療法で治りきらない場合、抗がん剤をもっと強めれば、治療効果を上げられるのではないかと考えるわけですが、ただ単に抗がん剤を強めると、骨髄抑制が強まり、白血球が立ち上がらなくなってきます。そうなると感染症で命を落とすことになります。

この抗がん剤を強めるというのを可能にするのが、造血幹細胞移植です。

体には強い抗がん剤を入れた後に、造血幹細胞を移植することで、抗がん剤の影響から逃れた造血幹細胞が血球を作り、骨髄抑制の期間が短くて済みます。

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自分の造血幹細胞を使う移植を自家移植、他人の造血幹細胞を使う移植を同種移植と呼びます。このどちらの移植も、強い抗がん剤で治療効果を強めるというメリットがあります。

同種移植にはもう一つ治療効果を強める効能があります。それはGVL(graft versus leukemia)効果です。

一卵性双生児間の同種造血幹細胞移植よりも、双子じゃない他人からの同種造血幹細胞で再発が少ないことが分かり、知られるようになった効果です。

遺伝子的に異なる他人から移植をすると、他人のリンパ球が強い前処置を行ったにも関わらず、体に残っている白血病細胞をやっつけてくれる効果です。これにより、再発を抑えてくれます。

これら①強い抗がん剤投与が可能になる点、②GVL効果により、同種造血幹細胞移植は化学療法よりも血液疾患を治す力が強くなるのです。

しかし、同種移植はそれだけ合併症も強くなり、この合併症のために多くの方が命を落とします。そのため、皆に移植を行えば良いのではなく、移植をした方が予後が改善する可能性が高いと考えられる方にのみ行います。

移植の副作用・合併症についてはまたの機会に書きます。

2. 再生不良性貧血

この疾患は、白血病のような悪性疾患と異なり、悪い細胞はありませんので、強く抗がん剤でやっつける対象はありませんし、GVL効果も要りません。

ただ自身の骨髄で血球を作ることができない疾患なので、造血機能そのものを補うために、同種造血幹細胞移植が行われます。

移植の仕方も白血病とは異なり、前処置も弱めで、免疫抑制をしっかり効かせます。免疫抑制をしっかり効かせると、GVHD(graft versus host disease)という合併症を減らせます。GVL効果も弱まってしまうので、白血病は再生不良性貧血の治療よりも免疫抑制は弱めにするということになります。

3. その他

血液疾患以外の疾患を対象に自家移植が行われることがあります。

専門外なので詳しくありませんし、自分で治療したこともありませんが、血液疾患以外の癌に対して行われたりします。これもまた、大量抗がん剤をいれる目的です。

最近では自己免疫疾患に対して自家移植を行う報告も増えてきています。自分に対して反応してしまう免疫を抑える目的で行われるようです。

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