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慢性骨髄性白血病を深く知る part 2

前回の続きです。

part 2ではチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の選択と副作用について書いていきます。

(長くなりましたので、予後はpart 3へ持ち越します)

TKIの選択

現在、慢性骨髄性白血病に適応のあるTKIには、

第一世代:グリベック

第二世代:タシグナ、スプリセル、ボシュリフ

第三世代:アイクルシグ

の5種類があります。

それぞれ出やすい副作用が異なります。そのため、患者さんに合わせて安全に飲み続けていただけるように薬を選択しています。

そのためには、患者さんの慢性骨髄性白血病以外の病気や生活習慣などを知って検討する必要があります。

現在、診断がついて初めに使える薬はグリベック、タシグナ、スプリセルの3種類です。ボシュリフ、アイクルシグはこれらの薬から変更するときに使用できます。

(ボシュリフは現在初めから使えるように適応拡大の申請中のようです。)

治療効果からすると第二世代のタシグナ、スプリセルが第一世代のグリベックより優れているので、患者さんの既往歴・生活習慣などで問題がなければ第二世代から始めていきます。

毎日忘れず内服してもらうことも大事ですので、薬ごとの内服のタイミングをお伝えして、どの薬にするか選択していただくこともあります。

TKIの副作用

※他のTKIと比べて頻度が多いとされているものをピックアップして書いています。副作用は絶対起きるというようなものではありません。過度に恐れて、勝手に内服をやめたりはしないでください。

「薬はリスク。」

大学生のときに薬理学の教授がいつも言っていた回文です。どんな薬にも副作用はあります。ただ過度に恐れる必要はありません。副作用を知った上で賢く薬を使っていきましょう。

まずタシグナからです。

タシグナは血管がつまるような病気心筋梗塞脳梗塞、を起こしやすくなります。そのため、過去にそのような病気をしたことのある人、高血圧、糖尿病、コレステロールが高い人、喫煙者などは、既に血管が詰まりやすいのでタシグナの使用を避けることがあります。

タシグナのその他の副作用として、血糖値の上昇があります。そのため糖尿病の方には使用は控えています。

皮疹の出現も他のTKIに比べて多いです。

次はスプリセルについて。

スプリセルは、胸水がたまりやすいという副作用があります。肺高血圧症という合併症も起きやすいです。そのため、すでに肺の病気を抱えている人には使用を避けます。

胸水は多く溜まってくると、呼吸に影響を及ぼしてきます。スプリセルの内服をやめれば、胸水は減りますし、利尿剤を使用して胸水を減らしながらスプリセルの内服を継続できる方もいます。

面白いことに、胸水がでるような方の方が、治療効果は高かったりします。そこにはサイトメガロウイルスというウイルスが関与しているのではないかと言われています。

スプリセルは感染が増えるのが特徴です。先ほどのサイトメガロウイルスというのを自分の免疫で抑えられず、サイトメガロウイルス腸炎を発症される方がいます。下血で気づかれることがあります。菌血症や蜂窩織炎を発症されることもあります。

ひどい感染を起こしたり、酷くなくても繰り返されるような場合は、スプリセルから他のTKIに変更することを検討します。

血管の詰まるような病気は、タシグナに比べると少ないと考えられていますが、グリベックよりは多いとされています。

グリベックは、第2世代のTKIに比べ副作用は少なく、既往症、併存症のために第2世代が使いにくい方やご高齢の方には今でもファーストチョイスで使用する場面があります。

とはいっても、副作用はないわけではありません。顔面浮腫、下痢、筋肉痛、腎障害などを認めることがあります。腎臓はグリベックを長い期間使っているうちに、徐々にCreが上昇してきます。

ボシュリフは、頻度が高いのは3つ。皮疹、下痢、肝障害です。下痢は必発ですが、少ない量から開始していくと、急にひどい下痢が始まることは少ないような印象です。私は300mgから内服を開始し、徐々に増やしていくやり方を取っています。

肝障害は、採血をしないと分かりませんので、治療開始時はあまり期間を空けずに採血を行います。

頻度は高くないものの、他のTKIと比べて多い副作用は出血です。脳出血など怖い出血を含みます。

最後はアイクルシグです。

アイクルシグは、治療効果は一番強いですが、副作用も強いので、他のTKIが効くような場面では使いません。

アイクルシグはタシグナよりもっと血管が詰まりやすく、最大量の45mg内服を続けていると10%の人で血管がつまります。この頻度は投与量に比例するようで、15mgだと副作用の頻度は1/3になるようです。

他に、皮疹膵炎の頻度が上がります。

まとめ

以上それぞれの副作用について書いてきました。

これらの副作用がTKIの選択や治療開始後のフォローに注意してみているものになります。

これらの他にも、グリベックやスプリセルで肌が白くなったり、白髪になったりすることがあります。爪がボロボロになる方もいらっしゃいます。

疲れやすさを感じたりするかたもいらっしゃると思います。

TKIは慢性骨髄性白血病で命を落とすのを救ってくれる薬ですから、肌が白くなったというような副作用の場合には我慢していただいて、飲み続けてもらっています。命に関わるような副作用が出現した場合には、休薬をしたり、他のTKIに変更したりします。

また今後の記事でも書きますが、病気が深く抑えられれば、一部の患者さんでTKIの内服をやめられることも分かってきています。TKIをやめると副作用の白髪や疲労感も改善することが経験されてきています。

ただ勝手にやめることはしないでくださいね。安全に病気を抑え続けることが第一目的です。

できるだけご自身の飲んでいる薬と友達になって、うまく付き合っていただければと思います。

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