好戦手

 美鈴先輩とベビーカステラ、チョコバナナ、型抜きと回り、ある程度回ったところで一旦先輩と別れた。先輩はまだ遊び足りないようで、ルンルンとした足取りで人並みに消えていった。
 私は人混みの多いところがあまり好きでは無いので、河川敷で休もうとやって来るとその人は居た。

「はぁー……」

 そこにその人がいることが不自然だったし、顔色も浮かない感じなので声を掛ける。

「……如月さん、どうしたの?」

「え、……ああ、いや、なんでもない」

 声色が明らかに沈んでいる。そして、今さっきまで一緒に回っていたはずの白波先輩がいない。

「いやー、私が先行して人並みをぬって進んでたらいなくなってたんだよね。しかも会場広くて迷子になっちゃってさ。軽音のみんなもいないし」

「……一緒に探そう?」

「ぅえ?」

 気の抜けた返事が返って来る。まったく。

「如月さんが一人ってことは白波先輩も恐らく一人でしょ?はぐれた先輩がかわいそうじゃん」

「私は?」

「如月さんがさっき行ったからはぐれたんでしょ?」

「ごめんなさい」

「……早く行こ」

「うん」

 沈黙の二人。屋台の人並みまでまだ幾分かある。

「……どうしてそんなに優しくしてくれるの?」

「してないよ別に。ただ、仲悪くなりたくないだけ」

「なんで?私、風弥さん取ろうとしてるのに」

「ガッツリ言うじゃん。私だって嫌っちゃ嫌だけど、如月さんのことは別に嫌いじゃないし。友達としては全然遊びたいから」

「まじかよ」

「うん、まじ」

「サラッとその台詞言うアンタすげぇよ」

「それと」

「え」

「名前、一華だから」

「え」

「アンタじゃ嫌だよ。ちゃんと名前あるんだから」

「……一華」

「そう」

「一華、ありがとう」

「ううん、こっちこそありがとう、夢」

「名前……!てか『ありがとう』って」

「夢がいるとなんか楽しいから」

「『なんか』って、ふふっ」

 笑い声の響く河川敷。夢となら先輩を懸けて戦えると思った。

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