#2-5 大人になれなかった俺へ⑤
洞穴はさらに奥へ続いており、進むとサファイアの数は減っていき、最深部は先も見えない闇が広がった。それはどこまでも続くようで、自分がとても小さな存在に思えた。戦争に駆り出される以前の自分、いや今の自分だって闇の中を歩いているようなものだ。
後ろを振り返る。サファイアの一筋が微かに差している。後ろを向けば道がある。示してくれる。それは学校の先生だったり、それは親だったり、はたまた戦争だったり。
道は手元にある幸福だ。無理に力を入れずに手に入れられる。そこに反論はない。心が拒んでいる気がした。
「……あれ、誰だ?」
隊長の言葉で俺は目の前を凝らしてよく見てみた。どうやら人のようだった。しかし、息はしていなかった。
「なんでこんなところに……」
防衛軍の服を着ているが、俺たちのような軍服ではなく、調査員が着る白衣を羽織っていた。胸元には証のワッペンがついていたから確実だろう。
「調査班は湖畔の反対で調査をしていたはずだ……。まさか、単独行動したのか」
武力のある戦闘員ならともかく、武器を持たない調査員の単独行動は禁止されている。理由はもちろん鉱石の調査だろう。軍の調査班に入ればできると思ったのだろうか。
「おい、コレ見てくれ」
隊長が持っていたのは、調査員の横の机に置いてあった手帳だ。薄く埃かぶってはいるが、まだ置かれて新しい。
中を開くと、日記のようだった。おそらくこの調査員のものだろう。
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7/15-パレス防衛作戦の調査員として選ばれた。選ばれたからには使命を全うしなければ。
7/29-イーストパレス第一キャンプに到着。調査が楽しみだが、明後日にはウエストバレスに向かうとのこと。しかし、目的の鉱石はイースト側にある。二日では十分に探索できなさそうだ。
7/30-集団調査の際に鉱石を探したところ、それらしいものは見つからなかった。決めた。明日一人でここに残って鉱石を探す。隊長に相談しよう。
7/31-相談は却下された。だから私は荷支度中にキャンプを飛び出した。もちろん、戻るつもりはない。
8/5-ようやく洞穴を見つけることができた。中は鉱石の輝きで明るかった。今日からこの中で寝ることにする。
8/7-大分調べてこの鉱石の特徴が分かってきた。どうやらこれには、生物の生命エネルギーがたんまりと詰め込まれているらしい。俗に言う魔力っていうやつだ。今のこのセカイには魔法はない。これが世に出ればエネルギー革命は免れないだろう。さらに調査する必要がある。
8/9-今日、侵攻軍のスパイらしき兵士達がこの洞穴に入ってきた。私はサファイアから放出されるエネルギーを身体力に変えてここを守り抜いたが、体が悲鳴を上げている。これ以上は動けそうにない。終わりが近い。
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この次のページには、赤く血塗られた文字で「助けて」と書いてあった。そしてこの手帳の最終ページには、こう綴られていた。
-これを読んでいる人へ
この鉱石にまつわる事柄を、絶対に侵攻軍に知られてはならない。もし知られようものなら戦争はより過激さを増すだろう。そうなると収拾がつかなくなる。どうか早急に国の調査隊にこの鉱石の事を知らせて欲しい。
防衛軍特殊調査部隊隊員 アカミヤ-
「……知らせましょう、これを。アカミヤ隊員の死を無駄にしないためにも」
「ああ」
立派に戦われたアカミヤ隊員にご冥福を。
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