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練習

「……でこの形がCコード」

「えっ、辛っ……」

「こんなので根をあげてちゃ基本コード弾けないよー」

「まじですか……」

 私は今日も第二音楽室(軽音楽部の部室だ)で白波先輩からギターを教わっている。けど、

「うわぁー、無理っ!」

 難しいのである。早くも挫折しかけている。 
 なにせ弦を抑える指が痛い。弾き慣れている人は指の先が硬くなってて痛くないらしいんだけど、初心者は指の先が柔らかくてすぐ皮が剥けるらしい。何それ怖過ぎる。

「今からカスタネットに転向していいですか?」

「バンドにカスタネットないよ……」

「私が新時代を切り開く!」

「ていうかわざわざギター買ったのにいいの?」

「うっ……」

 そう言われると言葉に詰まる。背に金は変えられない。なにせこのギター6万もしたのだ。貯金はもちろん、お母さんに借金した分、2ヶ月先のバイト代まで持っていかれる。ここは意地を張ってでもやるしかない。

「って言ってもなぁ……」

ガタッ 

「お疲れさまでーす!」

「おつかれー」「おつー」

 勢いよく扉を開けて入ってきたのは、私と同学年の如月夢。この前のギター選びに来るはずだった子だ。後日、先輩と2人でギターを見に行ったらしい。ふたりで……。

「よっしゃー!じゃ、今日も張り切ってやるぜー!って、ねぇ?」

「はい?」

 彼女が私に声をかける。

「なにアンタ、風弥さんとギター練習してんの?そこ、私に譲ってくれる?」

「は?何言ってるんですか?私は真剣に教えてもらいたくてここにいるんです。いちゃダメな理由なんかないじゃないですか」

「私は風弥さんとギターするために入ったんだから。譲りなさいよ」

 聞く耳を持ってない。

「俺が今ギターを教えてるのは花崎さん。だから後から来た如月さんは待たなきゃダメだよ」

「なっ……!」

「せ、先輩……」

 先輩は冷静に如月さんをいなす。

「ところで、花崎さんはバンド決まった?」

「バンド?」

「9月の文化祭でうちは毎年バンドをいくつか作ってそのバンドごとにステージで披露するんだ」

「へぇー、そんなのあるんですね」

「そう。そして、これは軽音学部に入った人全員がやらなくちゃいけない」

「なるほど。私はまだどこに入るとか決めてないです」

「そしたら、うちのバンドはどう?」

「え」

 思わず胸が高まる。先輩と一緒にバンドなんて恐れ多すぎる。けど、一緒に弾けたら楽しいだろうな……。

「は、入りたいかも、です」

「おおー!花崎さんが入ってくれたらこっちも嬉しいよ。けど、ゆっくり決めて良いからね。他にもバンドはあるから」

「はい!」

「私も入る!」

「え?」

 そう言ったのは如月さんだ。

「私も入ります先輩!」

「え、まあ良いけど」

「よっしゃー!」

「ただし!他の人に迷惑かけないこと。いいね?」

「わかってますよ。風弥さんの迷惑はかけません」

「俺だけじゃなくて花崎さんにもね」

「はいはい!」

 如月さんが私の方を見る。

「アンタに優しくするのは本心じゃねーからな!」

 なんだこれ。まあ、何はともあれ先輩のバンドに入ることができた。

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