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補聴器ハンドブック勉強会(2022年1月開催)の振り返り〜みなさんからの質問に対するこたえ〜 #038

はじめに

大塚さんが前号で紹介されたように、2022年1月、コロナ禍の間隙をついて、補聴器ハンドブック勉強会オンサイトが千葉幕張で開催されました。(当日参加できなかった方向けに限定のオンライン配信も行いました)

スペシャルゲストとして森田さんをお招きし、エキサイティングな2日間の研修となりました。

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2月1日から配信されるオンデマンドにて、その研修の一部が視聴可能です。一部『ピー音』入りですが、その巧みに編集された講義ビデオ、十分に見応えあり、またその場の雰囲気が伝わる内容となっています。興味ある方は是非ご購読ください。お申し込みは1月30日までです。

オンサイトでは、皆さんの反応を見ながら、駆け足にしたり、丁寧に話し込んだり。緩急ありの講義でしたが、オンラインの参加者からは少しわかりにくいと質問いただいた件がいくつかありました。オンサイトの参加者には、3回目、4回目の方もいらしたので、初参加の方を置き去りにしてしまった面があったのかもしれません。誌面を借りてお詫び申し上げます。

そこで今回のマガジンでは、ページの許す限り、そうしたビギナーの皆さんの疑問に応える心構えで話題提供をしていきたいと思います。

Q1:語音明瞭度には、信頼区間という幅がある!?

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 語音明瞭度検査のグラフをみればわかることですが、閾値レベルの音圧の時の語音明瞭度の値は±30%くらいの誤差があります。そのことはオリジナルの表にもきちんと示されています(左側のうすいピンク網がけ部分が正常範囲)。 

 Dillon博士は、「信頼区間を95%以上にするためには、語表は最低でも10個づつくらい使わないと正確な曲線なんて描けないよ。」という趣旨の話をハンドブックの中でも記述しています。けれども、10表もやるというのは非現実的です。

少なめの語表で解釈をすすめていく(音圧レベル毎に1表づつ検査していく)場合、得られた語音明瞭度曲線にその網がけ部分を横滑りさせて解釈しても意味はありません。
しかし、実際にはそんな作法でそのクライアントのきこえを予想している人は少なくありません。

そうした横スライドさせて考えるというやり方が通用するのは、耳硬化症のような伝音性難聴に限ります(難聴でも音圧を上げるほどに明瞭度がどんどん上がるのは、耳硬化症や鼓室硬化症などの鼓膜に穿孔のない中耳病変由来の伝音難聴に限ります)。

実際には、難聴者の場合、音圧を上げても明瞭度は100%にはなかなかなってくれません。ほとんどがプラトーかロールオーバーを呈することになります。

この図には、80%(90dB)がマックスでその後ロールオーバーしている右耳の明瞭度曲線と、40%(90dB)がマックスでその後音圧をあげても明瞭度の維持されているプラトーの左耳の曲線が示されています。

音圧をあげていくとどこかでピークアウトしてそれ以上は明瞭度が下がってしまう事例と、おなじ明瞭度を保持できる例、それぞれにはどんな違いがあるのでしょうか。

補聴器の設定は、およそほとんどの例で、OSPL90時のピーク値は115dBくらいまで出力されるように設定されていることがほとんどです。MPOを働かせて110〜125dBでカットオフと言う設定のこともあります。

いずれにしても鼓膜面で95dB以上の音を入れてしまうと、蝸牛の中のリンパ液の振幅は最大値になり、振幅飽和、つまり明瞭度が低下してしまいます。

ここでは、平均聴力レベル65dBの高音漸傾型感音難聴の方にNAL-NL2の処方を適用した事例でお話をすすめていきましょう。

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