見出し画像

生命の多様性とプラネタリーヘルス、そして進化

令和元年、夏の始まりに、沖縄・八重山諸島に渡りました。
都内のコンクリートに囲まれた部屋に閉じこもり過ぎて、思考も体も停滞していたのです。

西表島を対岸に臨む小浜島のひと気のない海で、波と風、太陽を感じつつ、一人ぷかぷか浮かびながら、想像していました。

もし、私が魚であれば、藻やアミなどを海水ごと飲み込み、それをお腹の中の共生菌に手伝ってもらいながら分解し、血肉にし、不要なものは海に排泄します。
そして、その排泄物を海の微生物が分解し、その代謝物が栄養となり他の生物を養うことで、海の営みが循環していくのでしょう。
もっと大型の魚に食べられたら、私は死に、その魚の肉になります。
その魚も死んだら、元々、私だったはずの素材は、環境の細菌に分解されて、また海へと還元されます。

私と海の明確な境界線を引くことはできず、全てが一つの巨大なシステムです。

人間だけの健康から超生命体の健康へ

これまでのヘルスケアは人間だけを最適化するものでした。
でも、ウイルスの蔓延によって、人間の健康は、社会や環境と切っても切り離せないということが身に染みたと思います。
本来、人間と環境、人間と社会、人間とその他全ての生物、人間と地球、、、、万物は、ミクロからマクロまで、学問的にも明らかに、全てのレベルで全てが有機的に繋がり合う「超生命体」です。
実は、分断していると思い込んでいるのは、人間だけ。

人間と地球を別々のものとして切り分けず、人間と連続する地球というシステム全体を最適化するヘルスケア「プラネタリーヘルス」と呼びます。

プラネタリーヘルスは食で成り立つ

壮大な気がしますが、この概念の中には、「自分」の健康もしっかりと入っています。
そして、自分と自分の外側の世界を接続するのが、「食べ物」です。
食べ物の選択によって、自分の健康と同時に、地球環境の健康をも実現していくことができます。

人間を含めて、あらゆる生命は、食べることで循環しています。

微生物が担う生と死の循環システム

生命とは、止まることのない、生と死の循環システムです。
環境の中にいる他者を食べて取り込むことで、自己の構造に再構築し、代わりに古くなった構造を壊して、排泄し、環境に戻す。他者によって自己を生かし、自己を壊し、他者を養う。常にこの繰り返しです。
良好な循環が保たれていることが、健康な状態であり、循環の停止こそが、死を意味します。
生物学者の福岡伸一先生は、これを「動的平衡」と呼んでいます。

実は、この世の中に静的に固定されているものなど、何もありません。固定されているかに見える私たちの肉体も、毎瞬間、破壊と再構築を繰り返しています。
食べ物を分解するために、微生物の働きが不可欠です。
自然環境から腸内環境まで、あらゆる環境では、微生物が「分解者」として生態系ピラミッドの土台を担い、この循環システムの触媒となっています。
人間も、腸内細菌の力を借りて取り出した栄養素を原材料に、今日とは違う明日の肉体を作っています。

消化管は動的平衡器官

外から食べ物を取り入れ、消化、吸収し、排泄する働きを持つ消化器は、環境の中で動的平衡を保つために必須の臓器です。
腸内環境は、食を通して、地球の土壌環境と接続しています。

だから、「食」が重要になります。
最高のパートナーである共生菌とのコミュニケーションを循環させながら、超生命体としての営みの基礎を作っています。
本来、自然の中のあらゆる生命は、環境との大きな循環の中に生き、多様な種がそれぞれに助け合い、生かし合いながら全体のシステムの作用として調和しています。

人間が循環不全の元凶

ところが、人間だけが、その本質を忘れてしまい、あたかも人間は人間だけで生きられるのだと思い込み、環境や他の種との関係性を断ち切ろうとしてきました。
環境の微生物を汚いものとして排除しようとするのも、人間が本質を忘れてしまった現れではないかと思います。

今は、病原性を持つウイルスが悪目立ちしていますが、人間を取り巻く環境の中で、99.9%の微生物は共生種です。人間の形成する社会に、時に未知のウイルスの登場で共生関係に混乱が生じはしますが、いずれは人間の免疫と微生物の関係性は均衡点に達していきます。
1種類のウイルスのせいで、全てが悪者だ!と考えるのは短絡的ですし、むしろ、分解者たる微生物がいないと、私たちは生きてもいけません。

幅を利かせている人間は、さらに、プラスチックや化学物質、放射性物質など、循環を滞らせるものを人の手によって環境にばらまき、循環不全を悪化させているのですから、地球や他の種からすれば、なんと迷惑なことでしょう。

あらゆる次元での循環不全が病気の元凶

現代に病気が増えているのは、あらゆる次元で循環不全が起きているからに他なりません。

■人間の循環不全
本来の自然から離れた工業製品のようなものを過剰に食べ、使い切れない糖や脂肪、エネルギーが溢れかえることで、血管は詰まり、細胞は肥大します。その一方で、必要なビタミンやミネラルが不足するので、体の構造や機能は上手く回りません。バランスの崩れた共生菌は、人の体を作り、上手く回す手助けをする代わりに、栄養素を奪い取り、攻撃します。

デスクワークばかりで体を動かさないことも問題です。呼吸が浅くなることで呼吸の循環が滞り、筋肉を使わないことで血液の循環が滞ります。

■心の循環不全
体だけではありません。過剰に不必要な情報を浴び続けると、処理し切れずに頭がフリーズしてしまいます。
考えや感情を外に表現せず溜め込んでしまうと、心が苦しくなり、体にまで不調が現れてしまいます。

■人間関係の循環不全
また、人間関係においても、人と人との繋がりが失われ、良好な言葉と心の循環ができないと不信と孤独に苛まれます。

■組織・社会の循環不全
組織においても、上の世代がいつまでも退かずに老害ぶりを発揮すると、下の世代が活躍できず、その組織は成長できません。

■社会の循環不全
社会においても、金融経済の不均衡で富が一極集中する一方で、貧困問題が深刻です。

■環境の循環不全
そして、環境においては、人の手による自然環境への侵食と汚染により、生態系が崩れ、地球の血液とも言える水や大気の汚染が問題になっています。

これらの問題は、20世紀の産業・金融・物質中心の時代の老廃物として、今を生きる私たちに、未来に向けて解決すべき課題として残されているように思います。

人間だけの健康から超生命体の健康へ

現在、地球上には約870万種の生物がいると推定されています。
これら生命の起源は、何か。色々な説があるようですが、海洋研究開発機構JAMSTECの奇才・高井研先生が学会で熱弁なさっていたところによると、40億年前、地球のほとんどが海であった頃、温泉が噴き出す深海に誕生した微生物であると考えられているそうです。それは、水素と二酸化炭素と酸化鉄によって生きる細菌であるとのこと。

そこから様々な微生物に進化し、植物、動物、そして人間が生まれたと考えられています。そもそも、原始の地球は微生物だらけだったのですから、後から生まれた人間が、先達である微生物を脅威として排除しようとするなど、おこがましいことですね。


生命の起源は、海。海は、水にミネラルが溶けた生命のスープです。海を起源とする人間の体の70%は水であり、そのミネラルバランスは、驚くほど海水のそれに似ています。

小浜島にて、生命のスープに浸り、原点に戻った状態で、人間の健康にとって本当に必要なものを考えてみると、頭でっかちに考えなくても、シンプルで良いのだと思い至ります。環境との大いなる循環を保つためのキレイな水、ミネラル、微生物、自然の恵みとしての作物や動物。太陽の光と新鮮な空気。そして、良好な人間関係と循環する社会。
このシンプルこそが、貴重な現代ですが、今、ようやく、多くの人の意識が、変わり始めているように感じます。

人新世(アントロポセン)のヘルスケア

人間が、地球の地質に甚大な影響を与えてしまった、現代に至る時代を地質学的に「人新世(アントロポセン)」と言います。
産業革命以降の工業化が影響を加速させたと言われていますが、自分は無関係ということはありません。
甚大な影響を与えている工業化された農業や畜産。文明国の私たちが、無意識にそれらに由来する食糧を消費し続けることで、生態系の破壊、砂漠化、温暖化など気候変動問題に拍車をかけています。さらに、こうした工業化された食べ物を食べることで、腸内細菌の多様性が減少し、過剰なエネルギーや質の劣化によって人間の生活習慣病の要因になっています。

私は、人間を健康にする医師ですが、人間だけの最適化は実現しないことをよく知っています。
人間を含む地球というシステム全体を最適化する「プラネタリーヘルスケア」の実践こそが、結果的に人間の健康・ウェルネスを実現できるものと考えています。

サスティナビリティ+ダイバーシティ=健康

社会では、サスティナビリティ(持続可能性)やダイバーシティ(多様性)がトレンドワードになっています。
本来、自然界においては、いずれもが、当たり前の状態です。
多種多様な生物。多種多様な民族や個性を持つ人々が協力し合い、才能や豊かさ、心を分かち合い、響き合うダイナミック・ステート(動的状態)

この状態をあらゆる次元において回復することで、この循環不全によって循環停止しかけている瀕死の世界を、回復させられます。
と、言い切りたいところですが、今はかなり、ギリギリのタイミングと言えます。
地球全体の自然治癒力「ホメオスターシス」に任せていても、もう回復は不可能です。

でも、ここから奇跡的な回復をするために、一人一人が自分自身を健康にしながら、総合力によって全体を健康にしていく知恵や方法論。それに、カンフル剤のように回復を早める、新しいテクノロジーもあります。
これから、自分のためになる、それが全体のためにもなる、そんな知恵や方法をシェアしていきたいと思います。

全て、日常でできること。
私自身も日々、自分も含めたプラネタリーヘルスケアを実践しています。

そして、苦行やガマンではなく、自分自身の心と体が心地よさを感じ、どんどんと解放されていくこと。
不要なもの、過剰なものをどんどんリリースし、シンプルになって、どんどん”素”に戻っていきましょ。
素に戻ると、これまで見えなかったものが見え、聴こえなかったものが聴こえるようになります。

結論は、進化でしょ。

究極、人間の進化こそが、全てを変えていく力になります。

だから、やっぱり、

「進化しましょ!」

という結論に落ち着くのです。

2021年2月23日

画像2



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?